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第十話 福来たる

 正月というもののプレミア感は、年齢とともに薄れていく。まして、市尾のように年中無休のファミレスで仕事をしていると尚更なおさらであった。特に今年は、大晦日おおみそかから元旦にかけての夜勤シフトになったため、そのまま職場で新年を迎えることになる。

「先輩。大晦日も棚卸たなおろしって、やるんですか?」

 市尾にそう聞いてきたのは、半年前に入社した新人の二村であった。

「決まってるだろ。大晦日だろうがなんだろうが、月末は月末だ。さあ、やるなら、ホールがノーゲストの今のうちだ。早くやらねえと、年が明けるぞ」

「はあ」

(相変わらず緊張感のないやつだ。まあ、もっとも、今の時間はほとんどの国民が歌合戦に釘づけだから、ヒマでしょうがないけどな)

 その時、誰かが来店したことをバックヤード(=調理場やパントリーなど)に知らせるチャイムが鳴った。

 あわててホールに出ようとする二村を、市尾が止めた。

「いいから、おまえは棚卸に集中しろ!」

 ホールに出て、「いらっしゃいませ」と言おうとした市尾は、「いらっ」のところで固まってしまった。

 入口から異国風の衣装を身にまとった一団が入って来たのだが、その姿がいわゆる七福神のようだったのだ。

(ずいぶん凝った仮装をしてるな。特殊メイクもしているようじゃないか。そうか、テレビの撮影だな。休憩時間に着替えるのが面倒で、そのまま来たのだろう)

「しゃいませ。何名さまでしょう?」

 釣り竿を手に持った太った男が、満面の笑みで「七名です」と言った。

(そりゃそうだ。七人で一つのグループだもんな)

「では、奥の広いテーブルへどうぞ」

 全員が席に着くと、釣り竿の男が「みんなコーヒーでいいかな?」と聞いた。すると、紅一点の女性が「あたしはジャスミンティー」と答えた。

「それでは、コーヒーを六杯とジャスミンティーを一杯お願いします」

「かしこまりました」

(この釣り竿の男が幹事役らしいな。どんな話をするんだろう)

 注文の品を出し終わっても、市尾はテーブルをくフリをしながら、それとなく様子をうかがった。

 口火を切ったのは、ジャスミンティーを頼んだ女性だった。

「ねえ、やっぱり新しいチーム名は神セブンじゃダメなの?」

 それには、小槌こづちを持ったふくよかな男が答えた。

「いろいろと差しさわりがあるらしいのだ。ねえ、エビちゃん」

 うなずいたのは、釣り竿の男だった。

「そうです。まあ、チーム名のことは、今後の課題にしましょう。それより、今日の議題はジュロウさんからの卒業希望についてです」

 似たような感じの老人が二人並んでいたが、そのうちの一人が手を挙げた。

「わしの希望というより、ファンの希望じゃろう。わしとフクちゃんは、キャラがかぶっとるでな」

 そう言いながら、隣の老人の肩を叩いた。

 すると、小槌の男が「まあまあ」と言った。

「確かに、お二方のルーツは同じかもしれんが、七名そろってのチームじゃないかね」

 ジュロウと呼ばれた老人が首を振った。

「別のメンバーを入れればよかろう」

 すると、大きな袋を持っていた男が、袋の中からエレキギターを出して弾きながら、「おれの知ってるメンバーでもいいかい?」と聞いた。

 釣り竿を持った男があわてて止めた。

「ああ、だめですよ、ホテイさん、店内でそんなことをしちゃ。それより、ジュロウさん。リーダーのダイコクさんがおっしゃるとおり、われわれは七名そろってのチームなんですから、これからも仲良くやりましょうよ」

 すると、今まで黙っていた筋骨隆々とした男が「この世は戦いだ!」と叫んだ。

「そんな物騒なこと言っちゃダメですよ、ビシャモンさん。ですが、まあ、そろそろ除夜の鐘が鳴る頃ですし、確かに、このあと戦争のような忙しさにはなりますがね。さて、以上で年末のミーティングは終わります。さあ、みなさん。大変ですが、がんばりましょう。ファンが待ってますよ」

 釣り竿の男がそう締めくくると、全員が立ち上がり、店外に出て行った。

 しばし呆然としていた市尾は、「あ、しまった、精算が」とつぶやいた。追いかけようとして、ふと、テーブルを拭いていた布巾がなんだか固いなと思ったら、中から黄金色の小判が出てきた。

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