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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

寸説まとめました!

寸説 《願いの代償》

作者: mask

寸説はまだ続きますよ!

目指せ十五作品!

 俺はなった。世界一豊かで、世界一戦争が強い国の名誉ある役職ーー『箱庭の騎士』になった。

「頑張れよ、新入り」

 先輩が俺の肩を叩いて励ましてくれる。

「お前のやるべきことは陽が昇るまで誰も入れない、そして誰も出さないだ」

 俺は頷く。

「そうか。なら行ってこい」

 先輩に背を押されて俺は中に入った。

 明かり取りの天井のガラス窓からは日光の代わりに月のない星空が輝いている。

 俺が今居るのは帝国の皇帝が住む宮殿。その離れにある建物だ。中では絶えることのない清廉な水が流れ、枯れることのない新緑が生い茂る中庭だった。道は大理石の石畳。照らすは蛍。その先には高く水柱を上げて花咲かせる噴水。

「誰だ、余の庭に立ち入るのは?」

 高慢な声に俺は思わず身構えて腰の柄に手が触れる。

「身構えるとは失敬だな。侵入者は貴様であろう」

 俺は声の主が『箱庭の主』であることに気づき、その場で頭を垂れ跪く。

「俺は本日より『箱庭の騎士』の任に就きました。ナガタと申します」

「良い。面を上げよ」

 言われるがままに顔を上げると噴水の縁に人が座っていた。

「こっちに来い」

 招かれて俺は石畳を歩く。

 薄暗い庭でようやく『箱庭の主』の姿が分かった。

「良くぞ参った。新しい『箱庭の騎士』」

 俺に笑いかけたのは貫頭衣を着た銀長髪の幼い少女だった。

「あなたが……『箱庭の主』?」

「そうだ。余が『箱庭の主』。そなたらの願いを叶える存在」

 『箱庭の主』そう呼ばれる彼女は数百年も前から、この土地に生きて人々のどんな願いも叶えてきた。この国が他国を軍事、政治において凌駕しているのは彼女が居たからである。

 だが願いを叶えてもらうには、彼女が認める"代償"が必要だった。そのため(いたずら)に願いを叶えることは出来ない。おかげで国が一人の思惑で破滅することもなかった。

「それでは話をしようぞ『箱庭の騎士』」

「分かった」

 俺は固唾を飲んだ。今から『箱庭の主』と『箱庭の騎士』の問答が始まる。

「そなたは兵士か?」

「ああ、間違いない」

 俺は迷いもせずに答える。

「何人を殺めた?」

「誰も殺していない」

 この質問にも迷いはない。

「なぜ殺さない?」

「は?」

 意味が分からなかった。

「必要ないから」

「なぜ? そなたら動物は他の動植物を食べて生きているのだろう。一人ぐらい食い殺しておらぬのか?」

「家畜は食べるが人間を食べるわけがない」

 俺は覚悟した。先輩たちを悩ませた『箱庭の主』との対決を。

「では人間はなぜ人間を殺す?」

「殺したいからだろう」

 彼女に呑まれてはいけない。

「食べるわけではないのにか?」

「殺意が芽生えれば殺す」

「人間だからか?」

「人間だからだ」

『箱庭の主』は一息吐く。そして小首を傾げる。

「では、法はなぜ人間の殺傷を禁じるのだ?」

「治安が乱れるからだ」

「人間を殺すのは人間だから。つまり殺人は人間にとって当たり前」

『箱庭の主』は不敵に笑う。

「当たり前の殺人を禁じた方が治安が乱れるのではないか?」

「人間全員が人を殺したいわけではない。だから当たり前という条件がおかしい」

 俺は力強く返す。

「少数の殺意ある人間を裁き、多数の殺意なき人間を守る。それが俺の仕事であり、治安だ。治安は乱れない」

「そうか」

『箱庭の主』は目を伏せ苦笑する。

 俺はそのときの彼女の心情が分からなかった。俺の問いに納得したのだろうか? だとすれば俺は『箱庭の騎士』で初めて『箱庭の主』の問答に勝利したことになる。胸の奥から勝利による高揚感が溢れてきた。

「それならーー」

『箱庭の主』は不敵に笑う。

「戦争ではさぞかし裁かねばならない人間が大量におるのであろうな」

 俺は凍りついた。

「確かこの国は隣国と戦争中であったな。戦争とは人間が人間を殺すことだ。大いに治安が乱れているではないか。では戦場へ行って裁いてこい。そうすれば多数の殺意なき人間を守れるだろう?」

「戦争は国のためだ! 今回の問答に関係ない!」

「自分の言葉を思い出せ。そして再び言おう。人間が人間を殺すのは当たり前なのだ」

 勝ち誇っていた『箱庭の主』の瞳が悲しみに揺れる。

「なぜ大切なものを奪われた復讐で憎き一人を殺すのは大罪なのに、戦争では殺せば殺すほど英雄に近づけるのだ? 私には理解できない」

「それは敵を殺すからだ」

「敵ならば殺して良いのか? では、その敵は誰が決める? 皇帝か? 貴族か? 議会か? 個人では敵を決めてはいけないのか?」

『箱庭の主』は自分で納得した。

「上に立つものが敵を決めて下の者に殺人を許容するのか。それが殺人に関する法であり、下の者が敵を決めることは法で禁じられている」

 ふむ、と『箱庭の主』は黙り込んだ。虚空を見据える彼女の銀の瞳を俺は見つめていた。決して惚れたわけではない。俺の中にある彼女への感情はーー

「良い時間だった。そなたを『箱庭の騎士』と認めよう」

 幼い少女らしく微笑む彼女と陽が昇るまで世間話をした。


「仕事を始めるぞ」

 初の問答から一月が経っていた。

『箱庭の主』に気に入れられたらしい俺は彼女が役目を果たすときの護衛も許可された。

 彼女の役目は人間の願いを叶えること。代償が必要だとしても毎日五十人ほどの人間が来る。そのほとんどが貴族や商人であり、願いが成就する者は五人にも満たない。『箱庭の主』が納得する代償を提示できなかったためだ。

「代償が願いと釣り合わない。帰れ」

「お待ちください! この金があれば立派な屋敷が建てられるのですぞ!」

 食い下がる商人。彼の願いは大金と引き換えに最近発見された金鉱山を自分のものにすることだった。

「金があるなら自ら買えば良いではないのか?」

「金鉱山は国が押さえてしまって無理です。だからこうして、お願いに参っているのです!」

『箱庭の主』は苛立っていた。

「貴様、余を愚弄する気か?」

 商人の顔が青ざめる。

「そんなことは決してありません!」

 頭を地面に擦り付ける商人。

「ならば余の身なりを見て分からんか? 貴様のように金を求めるように見えたのか?」

 自然しかない箱庭の世界で貫頭衣を着る幼き少女。普通ならば街で生活できない貧しい孤児に見えるかもしれない。だが彼女は違う。彼女は『箱庭の主』。皇帝すら彼女に跪く。敵国は彼女の気分で滅びる。そんな彼女に金貨が溢れた麻袋を献上して何になる? 答えは無価値なものとして捨てられる。

「しかし!?」

「下がれ。今なら気の迷いだったと許そう」

『箱庭の主』が手を払う。俺は彼女に従い、商人を腰の剣で脅して箱庭から追い出した。

「最近はつまらない人間ばかりだな。そうは思わないか?」

「願いを叶えに来られる人間が貴族や商人などの欲深い者たちだけだからではないですか?」

 箱庭は宮殿の敷地内にあるのだ。身分高い者しか来ないのは当たり前だ。そいつらは、より上の身分を得ようとする。

 俺の持論に『箱庭の主』は納得する。

「やはり、そなたは面白いな。これからも余の傍で仕えよ」

 俺が短く答えて『箱庭の主』が満足げに頷く。


 事件は起こった。


「逃がすな!?」

 箱庭の外から怒号が聞こえる。俺と『箱庭の主』が訝しがっていると箱庭に人影が飛び込んできた。石畳を駆け、跪く。

「お願いします! 助けてください!」

 箱庭に入ってきたのは明らかに貧民街の卑しい少女。国が豊かになろうとも貧しい人間は消えない。これこそ当たり前のことだ。そして箱庭に辿り着いた少女のような貧民街の人間は奴隷になるしか生きられない。

「こいつ! 殺されたいのか!?」

 兵士が駆け付け少女を捕らえる。

 俺は嘆いた。神聖な箱庭に無断で侵入した人間はことごとく首を跳ねられるだろうと。ましてや、貧民街の者など。

「貴様! 何をしている!?」

 案の定『箱庭の主』の逆鱗に触れた。

「申し訳ありません! すぐにこいつをーー」

「貴様、下を見ろ」

 冷えきった瞳と声音で少女たちを凍りつかせる。震える身体で足下の石畳を見る。

「貴様が今立っている場所が分からぬのか?」

 訳が分からず呆然とする少女。だが兵士は違った。

「お、お許しを!?」

 腰の抜けた兵士は懇願しながら這って逃げようと試みる。

 兵士の滑稽な姿を見て『箱庭の主』は顎で命令してきた。

「余の許可なく箱庭に武器を持ち込むとは。大罪である。殺せ」

 あ、そっちか、と俺は心中で思った。『箱庭の主』は殺戮するしか価値がない武器というものを嫌う。俺が帯刀を許されているのは『箱庭の騎士』だからだ。

「そこまでしなくても」

「そなたは余の願いを叶える唯一の存在だ。従え」

「それは命令というのだと」

「これも治安の一つだと心得よ」

 俺は溜め息を吐き、逃げようとしていた兵士の首を跳ねた。仲間を殺すのは嫌気がさしたが仕事なら仕方ない。

「死体はその辺に放置しておけ。虫が勝手に食べる。石畳が汚れてしまったな。後で洗ってくれ」

 俺は渋々頷くしかない。

「それで小娘、願いは何だ?」

 兵士の処刑を目の当たりにした恐怖に顔をひきつらせていた少女は泣き出す。

「早くしろ。余は暇ではない」

 噴水の縁に座って先を進める『箱庭の主』

 喉が痙攣して声を出せない少女を安心させるために俺は肩を叩く。

「安心しろ小娘。『箱庭の主』は願いを聞いてくれるらしいぞ」

「は、はい!」 

 少女は一度深呼吸をすると願いを紡ぐ。

「私の母と弟と妹を助けてください!」

「ほう」

 興味深げに少女を見下ろす『箱庭の主』。

「流行り病か?」

 俺が訊くと少女は苦しげに頷く。

 俺は天を仰いだ。今の国で流行っている病は不治の病と言われていて患うと絶対死ぬ。まあ『箱庭の主』にかかれば治せるが。それも代償しだい。

「ここに小瓶がある」

『箱庭の主』は噴水の縁に三つの手のひらサイズの空小瓶を並べる。

「この中に余の後ろの噴水から湧く清水を入れて小娘にやろう。これを飲めば不治の病など世界から消え去り、死に至る傷さえ瞬時に塞がる」

「本当ですか!」

 喜ぶ少女。

「代償しだいだがな?」

 小首を傾げて不敵に笑う『箱庭の主』。

「私の命を捧げます」

 目を伏せて迷いなく答える少女。家族のために自らの命を差し出す。何という素晴らしき自己犠牲の精神だ。俺よりも幼い子供が出来るとは。……俺はそんなの大嫌いだが。

「何を言っているのだ? 余は代償を訊いたのだが?」

『箱庭の主』は不思議そうに小首を反対に傾げる。

「ですから私の命をーー」

「貴様一人の命で三人の命を救えと?」

 少女は声を詰まらせていた。

『箱庭の主』は鼻で嗤う。

「余が求めるのは願いに釣り合う代償だ。釣り合うわけがなかろう」

「そんな……」

 突きつけられた絶望に少女は崩れ落ちる。

「他には何かないのか?」

「私には……身体しかありません」

 貧民街の少女に命以外を要求するとは。酷なことを強いるな。痩せ細った身体にボロの衣服。少女が差し出せるものなどない。このまま諦めて帰ってくれれば俺も仕事をせずに済むんだが。

「そうだ」

『箱庭の主』は良いことを思いついたかのように膝を叩く。

「さっき兵士を処分しただろう? だから他の兵士が騒ぐかもしれん。ストレスも相当なものだろうな」

 悩ましい限りだと、頭を抱える。

「そこで、だ。余からのプレゼントとして貴様を兵士たちに送ろう。それが良い」

 どうだ? 『箱庭の主』は少女に訊く。少女は困惑して答えられない。まあ頷けば地獄が待っているが。

「今の条件を飲むなら貴様の命一つで家族を助けてやる」

「本当ですか!?」

 少女は救われた眼差しで涙を拭った。よほど嬉しかったのだろう。だが少女を見下ろす『箱庭の主』の笑みは残酷だった。人間を蔑む銀の瞳は嗜虐に満ちていた。さも楽しそうに、さも面白そうに。

「『箱庭の主』一つ提案がある」

 だから俺はーー

「あなたの大好きなことです」

『箱庭の主』が大嫌いだ。


「余の大好きなことだと?」

『箱庭の主』の意識がこちらを向く。

「申してみよ」

 俺の話に乗っかってくる。いつも冷酷な彼女がここまで興奮するのはただ一つ。

「今から俺が小娘の手首を斬ります。さぞかし血が出ますでしょう。その血をその三つの小瓶に入れる。小瓶を満たせることが出来れば報奨として清水を小娘に」

 俺の条件に『箱庭の主』は残虐に笑みを深める。

「それは願いか?」

 俺は首を振る。

「いいえ。あなたの大好きな"余興"です」

「そうか。それは面白そうだな」

『箱庭の主』はクスリと笑う。

「やってみよ。余を楽しませろ」

 俺は頭を垂れると、少女を捕らえる。

「嫌ッ!? 止めて!?」

「どうせ命を捧げるのだろう? ならば『箱庭の主』を楽しませてみせろ!」

 俺は抵抗する少女の髪を引っ張り、噴水まで引きずる。そして馬乗りになって少女の手首を切り裂いた。血が噴水のように皮膚から湧き出す。痛みを訴えて顔を涙と涎でグチャグチャにした少女の腕を押さえて小瓶の口に流れ落ちる血を注いだ。

「溜まりました」

 俺は血が満たされた三つの小瓶を『箱庭の主』に示す。

『箱庭の主』は満足げに頷く。

「して、小娘は生きているのか? 動かなくなったが」

 未だに手首から血を流しながらぐったりと床に倒れる少女。

「これでは報奨が渡せんな。頬を叩けば起きるか?」

「こうすれば良いのです」

 俺は少女を噴水に放り込んだ。

「なんと荒療治な」

『箱庭の主』は俺の行動に興奮ぎみに笑う。

「気絶している人間は水をかければ目覚めます」

 一度噴水の底に沈んだ少女が浮き上がり、水を吐き出し咳き込んだ。

「かはッ!? こはッ!?」

 胸を叩き、ぜいぜいと肩で息する少女。

「私はーー!?」

 俺と目が合い凍りつく少女。相当、俺の表情は恐ろしかったのだろう。

「聞け、小娘。貴様は余を楽しませてくれた。報奨をくれてやろうぞ」

『箱庭の主』は少女の前に清水入りの三つの小瓶をちらつかせる。少女は震える手で受け取る。

「さあ行くが良い。早くしないと家族が死ぬぞ」

「ありがとう、ございます」

 少女は礼を言うと、よろめきながらも箱庭を出た。

「あれは血を失いすぎたかもしれんな」

『箱庭の主』は笑うーーことはなかった。

「そなた、小娘を助けたな?」

 片眉をあげて詰問してくる『箱庭の主』。やはりバレていたか。

「小娘を兵士たちの慰みものにしないために一計案じたのだろう。余興として余を満足させ清水も与える。負った傷は噴水で治す。この策士が」

「呆れましたか?」

『箱庭の主』は鼻を鳴らす。そして微笑む。

「そなたは余を飽きさせぬ。傍に置いておいて正解であった」

『箱庭の主』は欠伸を漏らす。

「余は疲れた。今日は箱庭を閉じよ」


 陽が沈んだ。

 俺は剣の柄を握りしめる。

「来たか」

 噴水を背に満月に照らされた少女が俺を見据える。

「その剣は何だ?」

「問答しよう。質問するのは俺だ」

『箱庭の主』の言葉を遮る。

「……まあ良いだろう。好きに始めよ」

 俺は『箱庭の主』と最後の問答を始めた。

「お前は死ぬのか?」

「口調が変わったな。質問の答えは死ぬぞ」

「どうすれば死ぬ?」

「答えは願われれば死ぬ。例外なしに相応の代償が必要だがな」

「お前が認める代償なら、お前が死にたくなければ、お前は自分が死ぬ願いを叶えないじゃないか!?」

 俺は感情が昂り吼えてしまう。

『箱庭の主』は眉根を寄せる。

「そなたが何故、そこまで憤るかわからんが……心配ないぞ」

「死ねと言われたら死ぬのか?」

「そうだ」

 俺は呆ける。

「死ぬんだぞ? 怖くないのか?」

「怖いかどうかは関係ない。願われ、相応しい代償を得れば叶える。それが余の存在理由」

『箱庭の主』は俺の顔を覗きこむと……優しく微笑んだ。

「そなたは余に死んでほしいのか?」

「……ああ、お前を殺したい」

「ならば理由を聴かせてくれるか? まあ座れ」

『箱庭の主』は噴水の縁を俺に勧める。

「理由だと?」

「そうだ。死んでほしい理由ぐらい教えてくれても良いだろう?」

 俺は噴水の縁に腰を下ろした。

「十年前、皇帝に頼まれて隣国から迫る大軍を殺したな?」

「ああ、そんなこともあったな」

『箱庭の主』は懐かしむ。

「そのときの代償は?」

「殺した敵兵の数だけ自国の民を殺す。確か十万人は殺したな」

「その中に俺の妹がいた」

 俺は歯噛みし、両の拳を握りしめる。

「そうか、災難だったな。酷だっただろう」

「同情か?」

「するわけがない」

 それもそうか、と俺は何故か落ち着いていた。

「妹を殺した余への復讐か?」

「そうだ。お前を殺した後で皇帝も殺す」

「大層な願いだな」

「願わない。俺の手で殺すんだ」

「皇帝は殺せても余は殺せんぞ。願わない限りは」

「なら俺に殺されろ!」

「代償は?」

「お前の願いを叶えること」

『箱庭の主』は呆ける。そんな表情は始めて見る。

「そなたが余の願いを叶えることは当たり前だ」

「お前は自分で自分の願いを叶えられないからだろう?」

『箱庭の主』は他人の願いを叶えられても自分の願いを叶えることが出来ない。そのため彼女の願いを叶えるために『箱庭の騎士』がいる。

「だが願われたことを(たが)う願いは叶えてもらえない」

「その通りだ」

『箱庭の主』は自分の"右足に嵌められた枷"に触れる。枷の先は噴水に繋がれていて彼女を箱庭に繋ぎ止めている。

「箱庭から出ないでほしい。そして死なないでほしい」

 初代皇帝が『箱庭の主』に願ったことだ。

「その願いの効力が消えるためには、どうすれば良い?」

「不可能だ。初代皇帝が人生を捧げた願いだ。それを上回る代償をそなたは用意できない」

 俺は『箱庭の主』の首を跳ねる。

「無理だと言っている」

 確かに殺したはずの『箱庭の主』は何事もなかったかのように俺の隣で座っている。

「無理なら代償に値する。不可能を可能にするんだ。充分な代償だろ?」

「……確かに」

『箱庭の主』は頷く。

「だが、それは余が願えばである。余が解放と死を願っていると?」

「俺には分からない。だが証明はできる」

 俺は剣の柄を逆手に握ると切っ先を鎖に叩きつけた。

「無理だ。その鎖は初代皇帝が大金をはたいて作らせた物。簡単には砕けないぞ。まあ、余にとってはこんなもの、ただの飾りでしかないがな。だが願いを聞き入れた以上、違えるわけにはいかん」

「それなら願ってやる。この鎖を壊せ!」

「代償は?」

 俺は躊躇なくーー自分の左腕を切り落とした。脂汗と血が大量に流れ落ちるが、ここには便利なものがある。

「気が狂ったのか?」

「まさか。お前を殺すための布石だ」

 俺は噴水に飛び込み、左腕の傷を塞ぐ。汗と血も流れ落ち、サッパリした。

「それで、代償に値するのか?」

「初代皇帝の"箱庭から出ないでほしい"という願いの代償を"腕一本"でか?」

 俺を嘲笑う『箱庭の主』を俺は嗤う。

「俺はそこの"ただの飾り"を壊してほしいだけだ。金を払っただけのアクセサリーと人間の腕一本。どっちが上だ?」

 呆ける『箱庭の主』。だが腹を抱えて笑い出す。

「これは、これは。余が問答で負けるとは。愉快だ!」

『箱庭の主』は何とか笑いを収める。

「良かろう。代償は貰った」

『箱庭の主』がパチンと指を弾くと、鎖はあっさりと砕ける。

「次はどうするのだ?」

「こうするんだ」

 俺は剣を納めて『箱庭の主』を肩に担ぐ。

「なッ!? そなた、何をしている!?」

「暴れるなよ。落ちたら危ないだろ」

 初めて慌てる『箱庭の主』を見た。俺が予想していた通り彼女は軽く、暴れられても痛くなかった。まさに幼い少女だった。

 俺は足で扉を開けると外に出た。全身びしょ濡れの俺には夜風は身体に堪えた。

 だけど、結果は出た。

「お前を箱庭から出したぞ」

「そのようだな」

 落ち着きを取り戻した『箱庭の主』を下ろす。

「それで? 私が解放されたいという証明は?」

 俺は剣を抜いて、月夜に掲げる。

「俺の願いは、お前を殺すこと。その代償は不可能である願いを叶えてやること」

 俺は忌々しくも柔らかく微笑む『箱庭の主』と見つめ合う。

「お前が俺の手で死ねば、代償は払えたことになる。お前の解放されたいという願いを叶えたことになる」

「ならば殺ってみよ、ナガタ」

『箱庭の主』は瞳を閉じた。

「……さようなら。女神様」

 俺は剣を振り下ろした。


 今回はバトル要素はありませんでした。ですが、いつも通りのブラックな感じになっちゃいました。

 題材としては『願いと代償』です。皆さんの願いは何でしょうか? それに見合う代償を支払えますか?

 よく魂をあげる代わりに悪魔と契約する物語がありますが……詐欺ですよね。悪魔詐欺ですよね?

 私は勘弁したいです。魔法なら独学で覚えるので。

 皆さんも詐欺には、ご注意を!

 sおれでは、kょうはここまで。skでした!

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