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百花繚乱  作者: 桜 詩
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帝の女御たち

きらびやかな綾錦、真新しいお道具たち。


華やいだ色とりどりの絹衣。艶々とした黒塗りの美しい髪箱。文机、美しい几帳、鏡、他の女御にひけを取らないようにと、左大臣家の威光を表すかのように贅を凝らした支度が整えられて行きます。


一度も顔を会わせたことの無い相手との結婚は、この時代珍しき事でもなく、意に染まぬ相手にいきなり夜這いをかけられての強引な婚姻よりは幾分心づもりが出来るというだけまだ良いのかと、鞠子はそう自分を慰めました。


春の麗らかなそんな季節に、春色のかさねの十二単を纏い、牛車に鞠子とそしてお付きの女房の衛門それから三条と共に内裏に向かったのです。


大内裏の車宿に牛車がつけば、そこから内裏までは輿で担がれて、鞠子は出仕したのでした。


しゅっしゅっと衣擦れの音すらも雅な楽のように奏で、その華やかな宮中の渡殿を歩み、そして向かった殿舎は飛香舎といい、別名を藤壺と言います。

藤、菊、女郎花などが植えられ華やかな殿舎なのです。

この日よりは、鞠子は藤壺の御方、もしくは藤壺の女御と呼ばれる事になりました。


鞠子が座につきますと、御簾がするすると下ろされ、貴人の室内らしく几帳を配されました。

十二単の衣装を身に纏った、華やかな女房たちが前に並び額を床につけた指先へと美しく下げる様は、とても壮麗なものでした。

「藤壺の女御さまにこれよりお仕えさせていただきます、女房たちにございます」


衛門がそう告げた。


「みな、これからおねがいね」

扇ごしに微笑みを向ける。


室内に焚き染められた梅花の香。

鞠子はゆったりと座れば十二単の女房たちが花やいだおしゃべりをしながら室内を整えていくのです。


「ああ、疲れた」

ポツリと呟くと、衛門が微笑む。


「まぁ、これからですのに」

笑みをもらされて、鞠子は扇の影でそっとあくびを噛み殺します、場所が変わっても、何が変わるわけでも今の所はなく、ただそこにぼんやりといるだけなのですから...。


「先触れを出しますから、麗景殿の御方と梅壺の御方にご挨拶に参りましょう」

「それが、終わればこれを脱げるの?」


「左様でございます」


まずは格上の麗景殿へ、それから梅壺へと参ることになりました。鞠子を取り巻く女房たちは、揃いの唐衣で左大臣家の豊かさを表しているかのようでうんざりとしてしまう。


(睨まれないようにしたいのに)


今の麗景殿の女御は帝の正室格にあたりますから、鞠子としてはこの挨拶を上手く終えたいところ。


父篤時とは政敵にあたる右大臣家の姫ですから仲良くとはいかないことは暗黙の了解ですし、期待はしていません。


渡殿を通り、麗景殿に着けばすでに出迎えは万全といった雰囲気で、麗景殿の美しい女房が出迎えておりました。

「麗景殿の女御さま、新しく藤壺に出仕させていただくこととあいなりました。この度はご挨拶にまかりこしました」

御簾ごしに指をついて頭をゆったりとさげました。


「まぁ...まだいとけない姫君だこと。まだ童髪がしっくり合いそうな...」

とおっとりとした声ながら、その意図は


(子供は大人しくしていらっしゃい)


と聞こえた。

「物慣れぬ身ゆえ、色々とお導き下さりますようお願い申し上げます」


「わたくしに教えられる事でしたら...。でも、わたくしがお役に立てるかしら?」


ほほほっと高らかな声がして、

(あなたのような、お子さまに教えることなんてないわ、という所か...)

「こちらはご挨拶の品でございます。よろしければお受け取り下さりませ」


そう鞠子が言うと、衛門が麗景殿の女房に黒塗りの箱に白絹を載せたものを渡しました。

「まぁ、嬉しいわ。このように気を使わずともよろしかったのに、これからここで暮らす者同士ですのに」


鞠子は一礼すると、それを合図に

「今日は挨拶に来てくれてありがとう、藤壺の方。またいつでも遊びに来てくださいな」

「温かいお言葉をありがとうございました」


鞠子は笑みを返すと、袴や裳裾に気をつけながら立ち上がり退出することにしました。


やはり麗景殿(ここ)とは、上手くやっていけそうにありません。


一度藤壺に、戻りそれからまた先触れをやって、梅壺に挨拶に出向きます。


梅壺の方も出迎えの準備は万端で、美しい女房がにこやかに待ち受けておりました。

「ようこそいらせられました。藤壺の御方、わたくしが梅壺にございます」


するすると御簾が上げられ、鞠子は内心驚きました。

梅壺の女御は23くらいか、それくらいの美しい姫君でした。

傍らには可愛らしき小さな姫君がぴったりと寄り添い、女一の宮だと思われます。


「お隣同士ですもの、仲良くいたしましょうね」

にっこりとほほえむその様はとても、穏やかで麗しい。

「梅壺の御方...ありがとうございます」


しかし、裏を思わず疑ってしまうのは...これは何分にも女の社会というものはなかなか一筋縄では行かないからです。

ともあれ、表面上は麗景殿の方よりは親しみやすくはあったのですが...。

梅壺の女御にも、白絹を挨拶としてお渡しして藤壺へと戻りました。


「はぁ~、もう...、やはり逃げるべきだったかしら」


「見た?麗景殿の女房たちの衣装」

「さすが右大臣家の姫君ね。ものすごく高そうな」


「それにどちらの女房たちも美しかったわ」

「負けてられませんわ!」

どうやら、宮中の女房たちの容姿やその衣装の素晴らしさに対抗心を燃やす藤壺の女房たちは、侮られてはならない!

と気合いが入りすぎとなってしまったのです...。



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