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百花繚乱  作者: 桜 詩
12/13

秘めし恋

アクセスありがとうございます(*^^*)


ここに来て、抜き身の刀、欠けゆく月、桜の宴の作中で出てきました、現代語で、和歌を表現していた所を自作の和歌に変えてます。

よろしければ見てみてください♪


自作なので、古代ぽくないのが悩みです...。

夏の夜は、寝苦しく鞠子もなかなか寝つかれずため息をついたところ、風の強いその空の様子は格子ごしにみても悪くなり、

稲光が強く光り、思わず身がすくむとともに、轟音が鳴り響きました。


小さく悲鳴を上げて思わずうずくまり、五つ衣をかけて震えて過ごすけれど、みんな怯えているのか誰も近くに馳せ参じません。


「...静かに...。お側には私が」

はっと気がつくと、鞠子を抱き締めるように誰かが忍び入っていました。

低く響くその声は...。帝では無いのです。

「貴方は...」


そう口を開きかけた時、また轟音が鳴り響き思わず鞠子はその相手にすがりついてしまったのです。


「...お許し下さい...。身をわきまえず想いを募らせてこのような事をしてしまいました」

耳元で囁かれ、こくりと唾を飲み込んでしまいます。


「文の方なの?」


「ええ...」


「どうして...これは罪です」

「わかっています」


くらりとそのはっきりとした答えに、眩暈がしそうです。

「だれかの罠なのでしょう...?」


「いいえ...、私の想いは本物です。貴女を垣間見た時から」

「やはり貴方は...」


 ( 弾正尹の宮 )


少し身を起こして見れば、稲光に一瞬照らされたその顔はくっきりとしたその端整な面差しと、その眼差し。

「宮さま...」


「私ならば、貴女をただ一人愛する事が出来るのに...口惜しくてなりません」

鞠子を抱き締める腕は強く、そして続いて落とされた接吻は熱く苦しいほどで...。


「鞠子」


情熱で掠れた低い声で名前を呼ばれればゾクゾクとする感覚が体を支配して、震えそうになりました。

「宮さま...」


「貴女が好きだ」


たったその一言が杭を打つかのように、響いて鞠子の(まなじり)からは涙が零れおち、衣に吸い込まれていきました。

心がうち震えて、どうにかなりそう。


正にそんな感覚でした。


この一時だけ。

その焦燥感が鞠子にも、弾正尹の宮にもあり彼の手は鞠子の黒髪を乱し、唇は溶け合うくらいの熱で侵され息も絶えてしまいそうな心地です。

そして...絶えても良いとさえ思えるのです。



そんな夢のようなひとときを破ったのは、ハッと体を離した弾正尹の宮でした。


「...誰か、来ます...主上でしょう...」

微かで、でも迷いない声でした。


誰かに見つかれば、二人とも破滅です。


「早く...逃げてください」

(...まさか...どうして主上が...)


鞠子の言葉に頷くと、几帳の影にその姿が消えそして気配は消えました。


それと同時に妻戸を通って帝が入ってきたのです。


「鞠子...?」


鼓動はもはやこの上なく早く、そして本当に気を失いそうな心地でした。

「主上...」

「ああ、やはり一人で震えていたのだね」


そっと近づいた帝はそっと抱き寄せて

「鞠子は意外と怖がりだ」

「...主上...」

すがりついたのは...。

(見つからないで)


「おや...嗅ぎなれない香がするね」

ドキンとしてしまいます。

きっと部屋に、弾正尹の宮の残り香が漂っているに違いなくて


「先程...、女房に通う誰かが酔って迷いこんでしまったのです...恐ろしゅうございました」


「そうか、それは心細かったであろう」

「ええ」


震えてるのは演技ではありません。

ただそれは、先程の秘め事のせいです。


(女は、嘘つきです...)


「梅壺が...心細くしているかも知れないから、と送り出してくれたのだ。こんなに震えていたのでは、ここに来て良かったものだ」

ゆっくりと背を撫でられながら、


「梅壺の御方が...」


まさか...。

でも、もしかすると弾正尹の宮がここに忍び入る事を知っていたのでは?と疑ってしまう。

あのままもし、その先へと進んでしまっていたとしたなら帝と見事に鉢合わせしていたかも知れません。


ぞくっとまたしても、震えが来ました。


弾正尹の宮か、もしくは彼の周りの誰かが梅壺の女御と繋がっていて、ここぞとばかりに罠にかけようとしたのかも知れないと。


宮がここに入れたのは、伝がないと無理なことです。

その行動がもしも、どこかに漏れていたなら...。


(ああ...やはりここは宮中)


まさに、百花繚乱


その中の一花、咲くも散るもそれは決められた事。

けれど...その花たちは美しくも時には残酷で、自らを咲かせるためには他の花を手折ろうとする。


そして鞠子も、また必死で花の盛りを守ろうとしている。

女の毒を滲ませて。


「ありがたい、事ですわ...」


(見つからず...よかった)

そんな事を思いながら、目の前の帝に頬を寄せました。


先程まで他の男が触れていた髪に、帝の手が触れます。

「ああ、いつになく乱れているね。本当に怖かったのだね...今夜はこうして側にいよう」


「...清嶺さま...」


この流れる涙は、怖いからではないのですよ。

2度と、もう秘めた恋はやってこないと、その別れの涙なのですよ?


情熱的な接吻も、そして愛の言葉も、この先決して忘れないでしょう。

仮にそれが彼自身のかけた罠だったとしても。


女としての心はあのわずかな時間で、満たされたのです

いつか...息絶えるまで、きっと忘れない。


鞠子はその翌朝、白い紙に山吹(やまぶき)の花に似せたものを挟んで文箱に入れました。

宛名は『嵐月の君』へ。

きっと...それで通じるはずです。


その文の意味は


《 心には 下ゆく水の わきかへり

     言わで思ふぞ 言ふにまされり(※中宮 定子)》


 [※ 心に秘めた思いは軽々しく口にするよりずっと深い。口にはしないけれどあなたの事を思っています。あなたもそうでしょう?]



少しして、文箱を見ればその、文は無くなっていました。

誰が、その文を持っていったのか...追及はしませんでした

心には 下ゆく水の わきかへり

     言わで思ふぞ 言ふにまされり


こちらの和歌は、枕草子に出てくる話にかけてあるのですが、すこし諸々複雑なのです。


《山吹の 花色衣 ぬしや誰

       問へど答へず くちなしにして》


(※山吹の花のような色の衣に持ち主は誰ですか、と聞いても答えません。それはくちなしだからです)


この和歌の「山吹の花色衣」は僧侶の黄色い衣の色です。

この歌では、黄色の染料の素になる「梔子くちなし」の実に「口無し」をかけ、だから答えがない、としゃれていたのですね!


すなわち、山吹の花と「言はで思ふぞ」の句は「くちなし」つながりというわけでした。


注釈が多くて申し訳ありません。

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