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百花繚乱  作者: 桜 詩
10/13

麗しの公達

藤壺の女房のなかでも、美人な小式部の元へは兵部卿の宮が。

そして、麻野(あさの)という女房の元へはどなたか高貴な方の従者がどうやら文をやっているようです。


麻野は、それほど目立つ女房ではないのですけれど、しっとりと優しげな印象のとても気が利く女房ですから、そんな女性に気がつくなんて、その相手はなかなかの好男子だと思えました。

そのせいか、とても近頃ハッとするほど綺麗になったと思えました。


鞠子も物語よりも身近なそんな女房たちの噂話を聞くのも、日々の潤いとなるのでした。


梅壺の女御の懐妊が公にされると、一気に宮中はその吉報に喜ばしい空気が漂っています。


しかし、予想通りと言いますか...。


「女御さま...、主上にはお文などは差し上げていますか?」

篤時の好好爺の顔は、今は少しばかり剥がれ落ちそうです。


「折々に...」

鞠子の呟きに、

「一日もはよう、吉報をお待ちしておりますよ。主上とどうか仲良くされるようお願い致しますよ」


そんな風にほとんど毎日のように篤時の顔を見るのはとても、煩わしい事でした。


「そんな事を言われましても、こればかりは授かり物ですから」

「女御さま...とはいえ、することをしなくては授かるものも授かりません」


あまりの直接的な言い回しに、篤時の焦りが滲み出ています。


「だったら...お父様がお代わりになれば?」

「女御さま!」


全くもって気分が悪い。


鞠子だとてほどほどに、きちんとつとめは果たしているのだし、入内してたかだか数ヵ月で責めてほしくないものです。


「ああ...お父様ではなくて、せめて麗しい方のお言葉なら、これほど鬱にならないでしょうに」


ふぅっとため息が出てしまう。


梅壺の女御が男皇子を出産したとしても、麗景殿の女御や鞠子が後からでも男皇子を産むことが出来たなら...。

この二人の実家の方が後ろ楯も強く、東宮位がどうなるかわかりません。だからこそ、篤時はこのようにせっついてくるのでしょう。


ですが、どの女御が懐妊しようと男皇子が誕生すれば、帝はきっと喜ぶでしょう。


「とにかく、女御さまはまだお若いのですから、可愛らしゅうですよ!」

篤時がやけくそのように言葉をかけて、帰っていきました。


そして、少したってから月影の少将 篤行と、そして弾正尹の宮が連れだってやって来ました。

「女御さまは、ご機嫌はいかがでしょうか?」


「父が来るまでは、よろしかったわ」

そのことばに篤行はぷっと吹き出しました。


「なるほど...。父の心配もわかりますが、女御さまはまだまだ入内したばかり。焦りすぎですね」

「兄上さまの言うとおりだわ」


「ですが、女御さまを心配されてるのですよ。父上は」

「心配...?ご自分のではなく?」


「この宮中で確固たる地位をと、思っておいでなのです」

篤行の言葉は父よりも素直に聞けます。

ふと、視線をやれば弾正尹の宮は扇を手に優雅に微笑んで兄と妹の話を聞いていました。


「...ごめんなさい、弾正尹の宮さま。こんな身内のお話を」


「とんでもございません。ご兄弟の仲がよろしいようで...羨ましく見ておりました」

はじめて聞くその声は、男性にしても低く響きが良くて、そしてくっきりとした眼差しは御簾があるというのにしっかりと鞠子を見ているように思えたのです。


「仲がよく見えまして?ここに来るまでは、兄たちと話すことなどほとんどありませんでしたわ」

クスっとすこし笑みが零れます。


「こんなに愛らしい妹姫がいらして、月影の少将はいいですね」

「愛らしいかどうか、私だとて、女御さまのお顔は存じませんよ」


篤行が笑うと、

「なるほど、ご存知なのは主上だけ、ということですか」

「でしょうね。父は女御さまがまだ入内される前からずっと隠してましたからね」


冗談めかしていった篤行と弾正尹の宮は二人して軽やかな声を上げて笑っています。


そして、ひとしきり会話を楽しむと二人も帰っていきました。


こうして、見目麗しい公達が機嫌を伺いに来てくれるのなら、篤時に少々嫌な事を言われても、気分が良くなるというものです。

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