夢の世界を知る③
さてさて。
力を取り戻すのはいいけどどうしたらいいのか。
とりあえずこの世界についてまったく分かっていないため白夜から教示してもらうことにした。
まず何故今力が無い状態なのか。
白夜が言うには永遠の夢渡りとは魂が異界に飛ばされる呪い、とのことだ。
つまり桜井流生のいた世界は異界らしい。
その異界から戻ってくるためにはかなりのエネルギーが必要なのだそうだ。
そのエネルギーは途方もない量らしく、普通はエネルギーを用意出来ず魂が消失するためこの呪いを掛けられた=死らしい。
異界で魂のみで居ることは針山に裸で放り込まれるようなもの、とのこと。
そもそもそんな面倒な呪いなら殺した方が早いのでは?と問うと
「体をを生かして魂を消滅させるためには最適な方法です。魔王様の御身体はそれだけ価値があるのでございます。
また魂を異界に飛ばせば反魂にて呼び戻すことも不可能なのです。複雑で高度な術式の呪いなのです…!」
と最後の方は嬉々として言われた。
微妙に腹がたつ。
まぁ、そんな呪いから脱出するためにかなりのエネルギーを消費し魂が酷使され、体にもどった際に体が退行し、このような推定8歳の美少女に なってしまったと白夜は睨んでいるらしい。
「価値が体にあるとは?魔王の体がものすごいエネルギーがあるの?魂に力があるんじゃないの?」
待ってましたとばかりに白夜の顔が笑った。
コホンと咳をすると
「そもそも"魔王"とは魔を統べるもののランクにございます。
魔力は魔粒子による力の流れ。
魔粒子の発生する星の種子を宿す存在が魔なのです」
再び嬉々とした表情で話し始めた。
人に物を教えるのが楽しいようだ。
というかこいつ…
「我々魔族は星の種子を宿す種族であり魔術が使えるます。
魔粒子の塊に魂が宿り意思がある者を精霊と呼びますが魂に星の種子は宿りません。
どの魔に属する者も星の種子は体に宿っております。
つまり魔王を冠するランクの者は莫大な魔粒子を発生させる至高の御身体なのです!」
白夜がドヤ顔でこちらを見た。
なるほど。
仕組みはともかく以前の私がこのイケメンを奴隷と称していた理由がなんとなく分かった。
イタイ。この人なんかイタイ。
すごく微妙にイラッとするのだ。
私の身体について褒めようとしているのだが、端々に苛つく言動がある。
初めに抱いたイケメン像は砕けた。
「そう。じゃあ利用価値は身体にあるのね」
さらっと流す。いま私に重要なのはそこじゃない。
「スターシード。魔粒子。魔族…」
種と言われて思わずスイカの種を思い出す。
しかも魔とつくものとは無縁な世界の住人だった私にはどうやってもそれを扱うイメージが出来ない。
話を聞いただけではその程度にしか思わない。
自分の夢なんだしもっとスッと分かるかと思ったんだけど。
やっぱり魔術とか言われたらこう詠唱があって魔法が発動されて…
うん、まったく自分で発動できる気がしない。
そもそもこの夢の中でまだ魔法って見たことないな。
「白夜さん、ちょっと魔法やって見せて」
ふふっワクワクする。
「御意」
白夜は人差し指を立てた。
その瞬間指の先に何かの気配を感じた。
そして
「光となれ」
発した瞬間光が生まれた。
ピンポン玉くらいの淡い光。
オォッ、意外と簡単に発動した。
「自身の魔粒子を集め、形や性質をイメージし言霊にのせます。
このように簡単な術式のならばすぐに発現します。
先ほどお伝えした呪いにはもっと複雑な準備や言霊が必要になります。」
パチンと指を鳴らし光が消えた。
「また精霊の力を利用する場合は詠唱が必要です。
ですが、我々魔族は自身で魔粒子が確保できるためあまり必要にはなりません。」
「現在の魔王様の魔粒子でも簡単な術式ならばすぐに発現可能かと思わます。」
そんな簡単に出来るものなの?
でも確かに白夜がやったような動きや発動には身に覚えがあった。
そう私が夢で世界を動かしていた時の動きだ。
そうだ、ここは夢の世界。
大前提。
夢夢といいながら忘れてた。
言葉なんていらない。ただ思えば良い。
(世界よ意のままに動け)
…
…
……
…………
あれ?
「なんで?!」
「…魔王様。…私の話聞いておられましたか?」
「えっ?何か違った?」
とても、悲しそうな顔。
なにその顔。
苛虐したくなる。
じゃなくて
「…イメージを言霊にのせないと今の魔王様では魔粒子がうまく働きません。」
あっそうか。
さっき、そんなこと言ってたね。
「じゃあ仕切り直して…」
手を広げて、イメージする。
世界を動かす。
それではダメだ。
具体的にどうしたいのかを想像する。
先ほど白夜がしたことを思い出して…
「光よ」
イメージを言葉にした。
すると淡い光が…
…
ホワン
…
一瞬だけ出現し消えた。
「嘘…」
ちゃんとイメージしたのに。
やばい。
これは。
あれ?
…夢だよね?
自覚した夢では少なくとも世界は自分のものだった。
イメージは全て表現できた。
少なくともこの夢を見始めた、あの低活動維持装置で目覚めたところでは世界は意のままに従った。
あれ、たまたま割れただけ、とか?
やばい。
色々検証が必要です。
そして白夜の眉間にしわを寄せた残念そうな顔がムカつくのです。
表現するって大変ですね。