プロローグ 目覚めの夢
私は夢の中で最強だった。
すべてのものは私の意志で形を変えて私の望むままに動く。
地面は水のように動き、風に意識を向ければ空も自由に飛べる。
魔法のような言葉はいらず、ただ思い念じれば良かった。
「世界よ。意のままに動け」と。
でももちろんそれは夢だからだ。
夢以外でそんなことが起こることはない。
起こっても困る。
だから今起こってることも夢なのだ。
いつもの夢と違って色々な人が現れ私を囲み何やら意味の分からない言葉を叫んでいる。
まったく聞いたことがない言葉だ。
何語だ?これは。
いや、何だか知ってる言葉、のような気もする。
言葉はともかく視界もおかしかった。
一面赤く輝き他の色彩がない。なんとなく歪んで見える。
それに私を囲んでいる人間もおかしかった。
「人」なのだが、人間というには造形がおかしい。
ツノのようなものが生えていたり、頭から動物の耳が生えていたり、よく見たら顔すら人間ではないやつもいる。
うん
どう考えても夢だよね。
そう夢。
いつもとちょっと違うけど、いつも同じ夢を見るっていう方が変。
うん変だよね。
冷静になると自分の状況がもう少し鮮明になる。
そう私は冷静だ。
決して焦ってなどいない。
どうやら私は何らかの液体に浸かっているようだ。
視界が赤いのはどうやら液体ごしに見ているから。
周囲が騒いでいるのは分かるが意味がわからないのは耳に液体が入っているから。
夢にしては具体的だが意味がわからない脈絡の無さはまさに夢だから。
夢ならば、そうあとは冷めるのを待つだけ。
でもなんとくそれではもったいない気がする。
変な夢を見たらなんとなく続きが気になるのだ。
私はいつもの夢のように念じる。
液体は私の意のままに体から離れていき行き場をなくして突然世界が割れた。
赤い液体はガラスのような器の中にあったようだ。私が離れろと命じたためガラスを割って私の体から液体が離れた。
やっぱり夢だ。じゃなきゃ思っただけで物が動くわけない。しかし凝った夢だ。
赤い液体は辺りに散らばる。
ん?
よく見たら機械的な部屋だった。
足元には散らばったガラスといくつものコードがあり、銀色の床も見える。
コンピュータのような画面が辺りを埋め尽くし輝いている。赤い液体ごしに輝いて見えたのはこの輝きだったのか。
まるでどこかの研究室のようなそんな印象だ。
寝る前に見た映画がそんな話だったからかな。
「お目覚めになられましたか。よくぞ、よくぞ…」
低いダンディーな声が聞こえた。
なかなかいい声だ。
目覚め?
いやいやまだ夢の中ですよ。
声をかけた相手は額から二本のツノが生えており長い銀髪がとても美しくただ明らかに人間ではなかった。そのとなりにいる絶世の美女も赤い涙を流しながら赤い燃える髪を震わせていた。
他にも明らかに人の形をした異形の者とまったく人の形をしていない異形の者がいる。
あっあれは猫耳。ツノ持ちは鬼みたいだ。
私の記憶が正しいならいわゆる妖怪とかおばけとかそんな存在に近い形容をしている。
「魔王陛下、永遠の夢渡りよりのご帰還心よりお慶び申し上げます。」
泣きながらそう叫ぶ異形の者たち。
まおう、魔王?
よく見ると爪は漆黒に輝き、黒い髪は床まで付いている。
待て待て。何だかちょっとおかしいぞ。
せいぜい私の髪は肩程度。爪なんか深爪が常だし。職業柄マニキュアなんて塗ったこともない。
そうか。
どうやら夢の中では魔王設定となっているらしく、それに合わせて体からも変化したようだ。
どうせなら、全貌をみたいんだけど。
そんなことを思いながら急激な睡魔に襲われる。
あれ、夢なのにまた寝ちゃうのか。
私は奇妙な睡魔に体を預け再び目を閉じた。
お試し中。。まだまだ内容変わるかと。。