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ずっと、


 別れよう。


 唐突に送ったこのメッセージを、彼女はどう受け取るだろうか。

 驚く? それとも、面倒だと私を切り捨てる?


 何を考えようとしても、携帯に打ち出されたその無機質な文字には、何のヒントも隠れていない。何も考えられない。


 私が何をしたいかなんて、私でさえ分かんないんだから、どんなお偉いさんの学者が読み解いたって、答えは分からないの。

 考えるだけ無駄。

 そう、きっと。



 突然掛かって来た電話。

 返事の来る気配の無い携帯電話を放り、ベッドに寝転がっていた私は、いつの間にか寝てしまっていたようだ。窓の外は、橙色に染まっている。


「……もし、もし」


 ――どうかした?


 どうかした? って。

 相変わらずずるい。

 これじゃあ私、泣いちゃうじゃん。泣きながら楓に甘えて……。


 そんなの、ダメ。

 嫌。


 もう、そんな手にははまらないの。

 馬鹿にしないで。


 ――美香?


 囁くような、柔らかな声が私の耳を擽る。


「楓が悪いんだよ」


 ――うん?


 滑らかな声が、私の気持ちを、いとも簡単に引き出していく。


「だから、別れるの」


 でも、私はやめた。

 楓の思い通りになんか、ならない。

 たまには、楓が私を引き留めて見せてよ。


 ――そっかぁ……。


 楓の声は、柔らかいまま。

 残念さの欠片もない。


「な……」


 ――うん?


「なにそれ」


 楓のと比べる程もなく低くて汚い声が、余計に硬く、刺々しくなっていく。


 ――だって……、


「もう良い! バカ!」


 乱暴に電話を切り、ベッドに投げ捨てる。


 涙が溢れて止まらない。

 とうとう私は、やってしまった。

 こんな展開、望んでなんかいなかったのに――。


 ――コンコン、


「入るよ」


 ノックの音と、柔らかなその声。

 私はベッドに顔を埋め、返事なんかしない。


「美香」


「……何しに来たの」


 ベッドが軋む。

 私の隣にでも腰掛けているのだろうか。

 顔を上げたくなるけど、必死で我慢する。


「美香が、別れるなんて言うから」


「別れるよ」


「……知ってた?」


 薄く目を開けると、橙色が再び目に飛び込んで来た。


「なに」


「仲良し姉妹は、別れられないんだよ?」


 どんなに美香が望んでもね。


 楓の優しい声が、少しだけ翳った気がした。


「仲良しなら、でしょ」


「仲良しじゃん」


 思わず顔を上げると、楓の笑顔がそこにあった。


「楓」


「なぁに?」


「ずっと、?」


「当たり前よ」


 頭をゆっくりと撫でられる。

 もうそんな子どもじゃない! なんて、言いたくても言わない。

 その手に離れて行って欲しくないから。


「同い年なのに、そんなことも分からないの?」


 ふふっ、なんてちょっと馬鹿にした笑い声。


「楓の方が、1分だけお姉さんじゃん!」


「1分だけ、ね」


 本当に可笑しそうに笑う楓を、私は本気でいとおしいと思った。

 やっぱり、心から大好きだと、離れたくないと思った。


 だから――


「ずっと一緒にいて」


 その言葉は、案外スラスラと口を出た。


 楓が私を見詰める。

 息が出来ているのかさえ分からないような静寂の後、楓が私のおでこにそっとキスをした。


「もちろんよ」


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