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学校の廊下で見る夕焼けって、なんであんなに綺麗なの? ――ゆ、夕日に照らされたあんたも確かにきr……言わせんなしっ!?

 「早川先生とか嫌いやもん! マジ嫌い!」


 聞いちゃいけないと分かっていても、


「えー、どこが?」


「顔も声も言葉遣いも全部!」


 聞きたくなくても、


「へぇー……私は好きだけどなぁ……って、後ろ!」


「へ?」


「私の何が嫌いだって?」


 聞こえちゃうものって、世の中にはたくさんあると思う。


◇◇◇


 「私のどこが嫌いなのか、参考までに聞いときたいんだけど」


 放課後、廊下で彼女に会った私は、質問を投げ掛けてみた。


「根に持つなし!」


「どこが嫌いなのー?!」


 知らんだろう。

 私はしつこいのだ。


「全部!」


 いーっだ、と歯を思いきり剥き出して見せる彼女。


「ヒドイ」


「嘘だよ」


 西陽の射し込む夕方の廊下は、なんだかやけに、美しかった。


「嘘?」


「声は好き」


「声だけ?」


「……顔も悪くない」


「悪くないって何よ」


 彼女は完全にそっぽを向いた。

 窓の外を眺めている。

 夕陽が全てを染め上げる、この時間。


「嘘」


「さっきから嘘ばっかり」


「好きなの」


「何が?」


「ばーか」


 鈍い振りをしたら、罵倒された。

 ほんの少し、彼女の視線が下がる。


「嫌いって言ってなきゃ、好きって気持ちが溢れちゃうんだよ」


「え?」


「嫌いって言わなきゃ、好きだって言いそうになるの」


「…………大変だね」


 夕陽はもう大分沈んできた。

 明るい夕焼けが、暗く変貌を遂げて行く。


「自分から訊いたくせに、その反応ってアリ?」


「ごめんごめん」


「そんなあっさり振らないでよ」


 ばか、と呟く彼女の声は、ほとんど声になっていない。

 その台詞に、断る意味を含ませた訳ではなかったが、なんとなく否定せずに終わる。


「綺麗」


「空?」


「うん」


「そうだね……」


 心なしか元気のなくなった彼女を、私は励ましてもやれない。


「ねぇ先生?」


「うん?」


「やっぱ好きだよ」


「うん」


「諦めるなんて、出来ない」


「うん」


「どうしたら良いの」


「……知ってたら、私も苦労しないよ」


 教員をやっていなければ。そうすれば、また違った? ……いや、教員でなければ、出逢ってさえいないのだ。

 どっちが良いか、なんて分からない。

 だから私は、その時々を大切に生きる。


「とりあえず卒業しな?」


「卒業したら相手してくれんの?」


「……まぁ、考えなくはない」


 自分の発した言葉に、驚き戦く。

 責任持てるの? まだぺーぺーの私が。……いや、そんなことは最早、どうでもいいのだ。


「よし、飛び級で一気に行ってやる!」


「ははは、留学すんの?」


 私が少しでも待とうと思ったんだから、馬鹿なこと言ってないで、早く卒業しなさいよね。


 知ってるでしょ?

 私は、しつこいのと同じくらい、寂しがり屋なんだから。

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