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雨にも負けず  作者: 宝積 佐知
最終話
105/105

あとがき

 あとがき



 お話を書く時にはプロットというものを作ります。一応、起承転結を意識して、展開の仕方や終わり方も考えます。

 その時には登場人物に名前は無く、話を進めて行く為にキャラクターを作ります。


 しかし、このお話を書く時は反対でした。

 特に、蜂谷和輝という登場人物は、雨にも負けずというお話が出来る前から別の作品に登場していたので、イメージの中ではすっかり命を持って動き回っていました。


 常盤霖雨も、神木葵も別の作品で登場したキャラクターなのですが、特に蜂谷和輝は扱い難かったです。

 彼は本当に勝手に動き回るのです。


 これが脇役ならまだしも、メインキャラクターとなると話は彼を中心にご都合主義みたいに進んでしまいます。


 彼は勝手に動き回るので、勝手に話し始めます。誰も聞いてないのに、なまじキャラクターが出来上がっているので自分の過去の話を掘り下げて来ます。

 そういう訳で、周りのキャラクターは苦言を呈するのです。


 現実はそうはいかないぞ。ご都合主義じゃないんだから、と。

 けれど、彼は何時の間にか物語の中心に座って話を進めて行きます。推進力があると言えば聞こえは良いのですが、それではワンパターンで彼が常に美味しいとこ取りになるのです。


 そうすると、周りは面白くなくて、私も厳しく当たります。


 思い通りに活躍する和輝に、周りの人間は苦言を呈する。けれど、最後は彼の言う通りになります。


 神木葵は、それをデウス・エクス・マキナと皮肉を込めて呼びます。

 作者の本音は、常に翡翠が言葉にしていました。


 和輝と翡翠は、菓子パンの某国民的英雄とその宿敵の関係に近いです。

 英雄と必要悪。英雄がいなければ、悪役も必要無かったのだから。


 そして、翡翠が悪役かというと、そうでも無い。やっていることは社会の常識や法律から逸脱することもありますが、其処に悪意や害意は無い。

 一方で、和輝が正義かというと、此方もそうでは無い。誰かの為に何かをしているのではなくて、自分の価値観に従って、その信念を貫く為に行動している。


 22.誰が駒鳥殺したの

 この駒鳥は、翡翠を指しています。

 翡翠はやり方こそ過激で、一般常識や法律からは逸脱していますが、行動には一貫性があって悪意も害意も無い。

 一方で和輝はその場その場で判断し、主観的な考えを貫く為に行動を起こしています。

 結果として和輝は正義となりますが、果たしてどちらが正しかったのでしょう。それまでの葵ならば、「何が正しかったと思う?」と投げ掛けたかも知れません。


 物語の後半は翡翠が動き回っていましたが、根幹部分にいるのは、実は神木葵です。

 常盤霖雨は、傍観者、語り手として事件に巻き込まれていくのですが、神木葵は既に事件を抱えています。


 このお話自体が、神木葵というキャラクターの救済の為に存在していました。けれど、蜂谷和輝が余りに動き回ってしまうので、話が彼方此方に逸れてしまいます。

 メインの話よりも、番外編というか日常編が増えてしまいました……。

 書いている方としては、楽しかったのですが。





 登場人物




【1.常盤霖雨】



「受け容れろよ、どれだけ理由を並べたって、納得出来る訳じゃない。比べたところで、その人になれる訳じゃない。今あるカードで生きていくしかないんだよ」



 N.Y郊外の大学で量子力学を専攻する大学院生。高校卒業後、奨学金の援助を受けながら渡米。


 衆目を集める美貌の持ち主で、日々ストーカーや痴漢被害に悩まされている。

 満員電車から逃れる為に転居先を探していたところ、葵の同居人募集を知り、ルームシェアを始めた。


 基本的には常識人だが、お人好しで世間知らず。人を疑うことが苦手で、詐欺被害に遭ったこともある。

 温厚な性格で怒ることはまず無いが、厭世家で諦め癖がある。


 普段は飲食店の厨房でアルバイトをしている。調理は好きだが、少食。


 学生時代の友人の影響で単車を所有し、ツーリングが趣味のアウトドア派でもある。


 自分が意図しない形で事件に巻き込まれることが多い。事勿れ主義で優柔不断。


 母国に唯一の肉親である双子の兄がいて、度々連絡を取り合っている。


 学生時代にパラレルワールドを垣間見て以来、量子力学の世界に傾倒していく。

 前世の存在を信じ、所謂オカルト的な超常現象を肯定的に受け止めている。




【2.蜂谷和輝】



「失っても失っても、希望はある。だから、前を向いて生きるしかないんだよ」



 スポーツドクターの見習いとして大学病院にて研修していたが、事件に巻き込まれ、現在はフリーター。


 根っからの体育会系で、見た目とは裏腹に賢く、強烈なカリスマ性で人々を惹き付ける。

 座学は壊滅的で、学力は低い。情報処理能力は高く、記憶力もある。


 未だ中学生と間違われ、侮られるが、最早気にすることもない。

 小柄な体格に見合わず大食らいで、アルコールには滅法強く、泥酔することはまず無い。


 若さ故に無鉄砲で、理想を捨てないと訴える反面で、冷酷な程に現実主義でもある。


 生活能力が高く、特に料理の腕は折り紙付き。

 仕事に忙殺され、偶の休日は泥のように眠っているが、趣味はサーフィンやバスケットボール等、スポーツ全般である。


 高校時代に甲子園制覇を果たし、現在も身体能力はトップアスリート並である。

 高校生の頃、ある事件に巻き込まれて右腕と肩を故障した。後遺症として、今も長時間の酷使は難しい。

 当時、世間の注目を集めた少女の自殺事件にも関与し、執拗なマスコミに追い立てられ、自責の念から自殺未遂を図る。


 一連の出来事を吹っ切った後、夢を叶える為に単身留学を決めた。




【3.神木葵】



「選ぶというのは、捨てることと同義だ。人間は目先の成果に囚われて、未来や過去に目を背ける。自分で覚悟して選んだ道なら、後悔なんてするな。泣き言なんて言うな。弱り目なんて見せるな。無責任だろうが」



 N.Y郊外の田舎で悠々と暮らす青年。

 世界屈指の有名大学へ通う大学院生で、主に哲学について研究している。


 休日は専ら読書し、近隣住民との交流は無い。希に夜間、地元でバーテンダーとしてアルバイトをしている。

 趣味の一環で始めたFXでかなりの収入を得ている。


 非常に高いIQを持ち、皮肉屋で早口。孤独主義で、人との交流を煩わしく思っているが、必要範囲内では不自由無く熟し、謎の人脈を持っている。


 その存在を疑う程に存在感が希薄で、儚い印象を抱かせる。格闘能力は非常に高く、凡ゆる武器の扱いに精通している。

 喫煙家で、少食の上、偏食。弱いが、酒好き。

 生活能力は低く、住居の維持が面倒で同居人を募集したところへ霖雨がやって来た。


 嘗て兄が自身のストーカーに殺害されたが、何の感慨も無く、平然と日常生活を送っていた。このことから育ての親である刑事にサイコパス認定され、精神科医による治療を勧められていた。一般的な常識は知っているが、理解できない。故にどうして人を殺してはいけないのか解らない。

 母国で、兄を殺したストーカーが大学を占領する事件が起こり、正当防衛であるが、殺人未遂を犯し、一線を越える。


 これ等一連の出来事から、母国での生活が困難となり、20歳の頃、渡米した。




【4.早川翡翠】



「大空を飛べる鳥に、地べたを這いずる蟻の気持ちは解らない。土の中でたった一匹の女王に従って、意志も無く作業を熟して一生を終える蟻の気持ちなんて、解る筈も無い」



 両目は緑色で、長身痩躯。肌は浅黒い。

 高校卒業後、バスケットボールでスポーツ留学したが二年前に右膝を故障して断念。一年間浪人をして、現在は、アルバイトをしながら大学に通っている。


 しかし、その経歴は全て嘘で、年齢、出身地、学歴も不明。人に名乗る時は翡翠と言うが、本名ではない。


 身体能力や状況判断能力に優れ、気さくで人当たりのいい好青年。その内面は、学術的にしか人に興味を持てないサイコパスである。


 心理学の天才で、主に人間関係を引っ掻き回すことに愉悦を感じている。親しくしている人間も、自身の知的好奇心を満たす為なら平気で殺す。


 和輝が嘘を見破れなかった唯一の人間。






 関係性




【1.霖雨と和輝】



「少なくとも、俺は掴んでやるけどね」



 痴漢に遭っていた不遇な霖雨を和輝が助け、その後、奇妙な縁で繋がりながら物語は展開していきます。


 過去の経験から現実と想像の世界の境界線を曖昧に生きる霖雨。そんな霖雨にとって、和輝は船を繋ぎ停める碇みたいな存在です。

 欲しかった言葉を当たり前みたいに口にして、それを行動で示してくれる。正に光り輝くヒーローでした。


 けれど、物語が進むにつれて、和輝が不可能を幾つも抱えるただの青年であることを知っていきます。


 それでも、ヒーローであろうとする和輝を微笑ましく、時には苦々しく多角的に見るようになるのです。最終的に、霖雨にとって和輝は手の掛かる弟みたいな存在になっていると思います。


 一方で、和輝は霖雨のことを友達だと評価しています。大切だから友達なのではなく、友達だから大切なのです。

 純粋であり、淡白。

 霖雨の抱える危うさに気付いていながらも、それを指摘することが出来ないまま、いざという時は助けに行こうと決めています。

 友達という括りは、一つの境界線。和輝は天真爛漫に見えて、自分の弱音や泣き言は殆ど口にしません。

 和輝が頼るのは、母国に残して来た親友だけ。


 霖雨もそれは理解しているし、強引に内側に入って行こうとはしません。

 頼りないように見えて、実際は霖雨の方が自立した大人なのかも知れません。


 解り合うことは難しいけれど、それでいいよと受け入れ譲り合える関係。




【2.霖雨と葵】



「如何して、毎回毎回、面倒事に首を突っ込むんだ? 成人男性のヒロイン属性なんて、何処にも需要は無いんだよ」



 霖雨が転居したばかりの頃、葵は猫を被っていました。

 誠実な好青年みたいな葵が、実際はサイコパスと診断される程の異常性を持っているとは知りませんでした。


 葵がペースを乱されて仮面が外れても、霖雨はそれを非難することもなく、淡白に受け入れます。

 霖雨は基本的に傍観者です。葵の過激さを真似しようとは思わないけれど、理解は出来る。肯定もしないけれど、否定もしない。


 葵は霖雨を、人類最弱の雑魚と称しています。脅威を引き寄せるのに、抵抗の手段を持たず、世界に諦念する様を自己完結ヒロインだと言います。

 葵は襲い来る脅威に対して自衛し、抵抗しました。それでも結果はいつも最悪だった。だからこそ、霖雨の無抵抗には苛立ちを覚えるのです。


 そんな葵は霖雨に対して気を遣わず、ある意味では本音でぶつかることが出来ます。

 霖雨も後に引き摺りはしないので、この二人は年相応に自立して野放しにしています。葵が消えた時も、理由を知らなくとも葵ならば大丈夫だろうと放任的でした。


 体当たりして来る和輝が強烈にプラスなので、この二人は互いに基本的には非干渉でプラマイゼロです。




【3.和輝と葵】



「土俵の違いに、好い加減気付け」



 霖雨がいなければ、出会うことの無かっただろう二人。

 和輝は自己犠牲主義なので、葵が放って置けません。突き放されても追い掛けて、拒絶されても手を伸ばす。

 葵はそんな和輝が鬱陶しく、同時に眩しくもあります。自分の過ごせなかった青春時代の無鉄砲さに憧憬すら覚えていきます。


 物語開始以前から、葵は別に事件を抱えていました。助けてくれとは言わないし、そんな選択肢があることすら知りませんでした。

 だから、真っ向から体当たりして、何時までも手を伸ばしてくる和輝を最大で最後の希望であると思うようになります。


 和輝は逆境に燃える人間なので、難易度が上がる程、得られる達成感が大きいと知っています。

 また、過去に救えなかった人がいるので、其処に葵を重ね見て何度でも手を伸ばす。


 葵も馬鹿ではないので、その内面も看破しています。それが自己満足であることも知っています。

 それでも、本心では救いを求めていた葵は絆されるように和輝に心を許してしまいます。


 葵は、突き放すと決めたら手段を選びません。けれど、面倒だと言いながらも苦言を呈す。根本的に葵は優しく、相手に合わせてくれる大人なのだと思います。


 葵が判断を誤らず、公平に接してくれる霖雨がいてくれる限り、二人は互いを支え助け合える存在なのでしょう。






 各話




「でも、嫌なんだろ。それなら、抵抗した方が良い。沈黙は肯定と一緒だよ」

【Go straight. ⑴合縁奇縁 蜂谷和輝】


「将来の夢? 正義のヒーローかな」

【Play the hero. ⑷正義の味方 蜂谷和輝】


「ルールを守らない人間が、ルールに守られる筈も無い」

【Starfish. ⑸アルビレオ 神木葵】


 本当の勇気だけが、世界を変えられる。

【Twilight. ⑶光り輝くもの 常盤霖雨】


「手を伸ばせ。必ず、掴んでやるから」

【悪魔の証明 ⑷春 蜂谷和輝】


「例え、この世界が全て偽りであっても、必ず君に会いに行くよ。夢から覚めたその時は、絶対に迎えに行く。だから、怖がらなくていい」

【福音 ⑶神様のサイコロ 蜂谷和輝】


「うるせえ、生きろ!」

【福音 ⑶神様のサイコロ 神木葵】


「筋書きの無い世界なんて、あるのかしら?」

【a woman actor. ⑶女優 アイリーン】


「どうして、もっと早く、俺の前に現れてくれなかったんだ……!!」

【二十億光年の孤独 ⑶スポットライト 神木葵】


「そういう奴等の為に、君みたいなヒーローがいるのにな」

【母国の英雄 ⑶境界線 近江哲哉】


「ヒーローは、いる」

【閑話 ⑶嘘吐き 白崎匠】


「それでも、人を救いたいよ」

【ロストワールド ⑸有神論 蜂谷和輝】


「如何にもならないと思ったら、進むしかないんだよ。それが例えどんなに苦しくてもね」

【The Hanged Man ⑵火花 蜂谷和輝】


「――でも、その涙の雨で、虹が架かったら良いね」

【虹 ⑶涙雨 蜂谷和輝】


「医学が全てを救えるのなら、人は神になど祈らない」

【春一番 ⑵戯歌 神木葵】


「これは、希望の狼煙だ。この狼煙が上がる時、お前は希望を掴んでいる。何故なら、俺が何に代えても救ってみせるからだ」

【ヒーローの消失 ⑶暗躍 蜂谷和輝】


「たった一度や二度の挑戦で結果が解るなら、誰も命を懸けようなんて思わない」

【パラレルワールド ⑼繋ぐ 蜂谷和輝】


「土俵の違いに、好い加減気付け」

【Amazing grace ⑸恩送り 神木葵】


 楽しかったよ。

【僕等に奇跡は訪れなかった 神木葵】


「俺はね、悩みもしなければ、迷いもしないような勇敢な人間に、救って欲しいとは思わないよ」

【涙雨と傘 ⑸幻覚ヒーロー 常盤霖雨】


「罪には、罰だ」

【物言わぬ星 ⑸星の光 早川翡翠】


 自分なら出来ると、何の根拠が無くても声を上げろ。此処にいるということを証明してみせろ!

【バタフライエフェクト ⑶断崖絶壁を越える一歩 蜂谷和輝】


 なあ、ヒーロー。

 此処にいるよと声を上げてくれよ。

【夢喰いバク ⑷君の為に出来ること 蜂谷和輝】


「いいから、黙って帰って来い!」

【誰が駒鳥殺したの ⑹Make a wish 蜂谷和輝】

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