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雨にも負けず  作者: 宝積 佐知
誰が駒鳥殺したの
102/105

⑸僕等がヒーロー

 例えば手を繋いだなら、何時かは手を離す日が来る。


 こんな虚しさを知っているだろうか。人は持っている間にはそのものの価値に気付かない。だから、失くしてから後悔する。


 和輝と霖雨を病室へ置き去りにした葵は、等間隔に撃ち鳴らされる銃声の元を目指していた。


 生まれ付き存在感が希薄で、隣にいても知覚されないことが多かった。この体質の為か、親しい人間は殆どいなかった。

 不気味だと遠ざけられ、倦厭され、無かったものとして無視された。冷めた性分から、それを強くコンプレックスに感じたことは無かったけれど、酷く虚しかった。

 人は誰かと繋がって生きている。ならば、知覚されることの無い自分は何の為に存在しているのだろう。自分は透明人間だ。目の前にいても目に見えない。


 如何して、人は手を繋ぐのだろう。

 何時かは離す瞬間が来る。また繋ぐことが出来ると信じているのだろうか。

 明けない夜は無いし、終わらない冬も無い。ならば、逆のことも言えるだろう。


 ヒーローは、失っても失っても、希望はあると言った。意味は解るけれど、その精神作用が解らない。

 手を離す日が来ると解っていて、裏切られると解っていて、如何して何度も何度も手を伸ばして信じるなんて言えるのだ。どんなエネルギーで自分を動かしているのだ。


 銃声は近い。

 病院関係者以外は立ち入り禁止区域だ。地下へ続く階段は薄暗く、まるで地獄の底へ繋がっているようだ。

 John=Smithの塒へ突入した時と似ている。だが、あの時に連れていたヒーローは此処にはいない。孤独が肌を粟立たせる。

 地下は遺体安置所だ。人の出入りは多くない。拉致された関係者が押し込められ、順に処刑されているのだろう。

 止まない銃声に、葵の脳裏には過去の経験が苦く蘇る。


 母国にいた頃、武装組織が大学を占領した。主犯の狙いは自分だった。兄を殺したサイコパスと呼ばれる異常者が、自分に執着し、事件を起こしたのだ。

 無関係な大勢の人間が殺された。葵は構内放送と銃声に呼び出されて其処へ向かった。初めて出来た友達が其処にいたからだ。


 自分が異常者を惹き付けることは解っていた。結果、それは周囲の人間を巻き込み危険に晒すことになる。それなら、初めから繋がりなんて持たなければ良かったのだ。


 両親は小学生の頃に殉職した。

 兄は、中学生の頃に殉職した。自分が助けを求めなければ、死ぬ事も無かった。


 遺体安置所の両開き扉が迫っている。

 あの日と同じだ。自分は事件の主犯を殺し、また全ての繋がりを絶って消えればいい。

 そして、今度こそ、誰とも関わらず、独りきりで生きればいいのだ。自分は人の助けなど無くても生きて行ける。


 取っ手に手を掛け、力を込める。この先はあの日と同じように地獄が広がっているのだろう。これは悪夢の続きだ。もう、目を覚ます時間なのだ。


 大丈夫。大丈夫。自分は、独りきりでいい。




「本当に?」




 何処かから声が聞こえた気がして、葵は動きを止めた。それが脳内に残る誰かの声であることは解っていた。

 幻聴だ。妄想だ。そうと解っているのに、葵は動けなかった。




「それでいいの?」




 じゃあ、如何しろと言うのだ!

 自分は足掻いたし、抵抗した。多くの選択肢の中で最小限の不幸で留まるものを選択した。その結果が自分にとって最悪なものでも、受け入れて来た。

 自分が望んだものではなくても、自分が選んだものなのだ。


 両親が死んだ時、周囲の大人は立派な死に様だったと言った。殉職は名誉だと褒め称えた。まるで、世界中の人間が両親の死を喜んでいるみたいだった。


 ストーカーに悩まされ、自分の力不足で対処出来ずに兄に相談した。兄は犯人の元へ出向いて殺された。


 逮捕された犯人が大学生の頃に脱獄し、今度は大学を占拠した。大勢の人と友達を人質に自分を呼び出した。だから、自分は犯人の元へ出向いて殺そうとした。

 止めてくれたのは、友達だった。


 国家は自分をサイコパスと診断し、檻の中で飼い殺しにしようとした。自分は此処にいるべきじゃない。だから、繋がりを絶って消えようとした。


 そんな自分を、友達は追い掛けて来てくれた。

 友達を迎えに空港へ行くと、飛行機は着陸の瞬間、自爆テロによって爆破炎上した。友達は助からなかった。


 こんな結末を望んだ訳じゃない。ーーけれど、選んだのは、自分なのだ。

 誰を責める。誰を恨む。誰に祈り、許しを乞えば救われる。


 それでいいの?

 ーーそれしか、無かったんだよ!!


 全ての柵を振り払うように、葵は扉を開け放った。湿気を帯びた冷たい風が正面から吹き付けた。

 血腥い臭いが満ちた空間は、真っ赤に染まっていた。溢れ返る血塗れの死体。切り取られた四肢は其処此処に転がり、脳漿を垂れ流す頭蓋が路傍の石のように投げ出されている。

 生きている人間はいなかった。ーーただ、一人を除いて。


 部屋の中央、安っぽいパイプ椅子に座る人影がある。緑柱玉の瞳は、闇の中でも煌々と輝いている。

 受けた返り血もそのままに、翡翠は優雅に腰を下ろしていた。その手には不釣り合いな程に大きな銃器が握られ、足元には硝煙を昇らせる拳銃が幾つも転がっていた。




「待ち草臥れたよ」




 これは、自分の相似形だ。

 葵は苦く思う。


 命の大切さが解らない。知識として言葉は解っていても、理解出来ないのだ。

 如何して人を殺してはいけないのか解らない。家畜や虫は殺していいのに、人間は駄目なのだ。自分の欲求を満たす為に他者の命を搾取することは間違っているのだろうか。ならば、人は皆、殺人者だ。

 解らない。ーーきっと、翡翠にも解らないのだろう。




「独りで来たの?」




 翡翠は退屈そうに言った。

 彼の目的が、葵には解る。

 翡翠はただ、知りたかったのだ。其処に悪意や害意は無い。純粋な知的好奇心だ。

 誰が、彼を処罰する?

 知りたいと思うことを探求することは間違っているのだろうか。




「和輝なら、今頃、病院の外だよ」




 翡翠は不思議そうに小首を傾げた。何処か幼い仕草だった。

 彼の素性は幾ら調べても解らなかった。バスケットボールでの留学も、膝の故障も、大学生という経歴も全てが嘘だ。名前も年齢も解らない。記録上、彼は存在していない。


 翡翠はつまらなそうに溜息を零し、立ち上がった。そして、ポケットから携帯電話を取り出すと、何かの操作をした。


 その時だった。

 耳を塞ぎたくなるような爆音が聞こえた。

 足元に振動が伝わって、ぐらりと体勢を崩す。

 得体の知れない男の前で隙を見せる訳にはいかない。葵が睨むと、翡翠は無防備に笑っていた。




「ヒーローの逃げ道を塞いでおいた」




 そう言って、翡翠は携帯電話のディスプレイを見せた。病院内部の地図と、赤い点が表示されている。

 発信器だ。和輝の持ち物には、発信器が取り付けられている。それは彼の身を案じた母国の親友の仕業だった。だが、絶えず電波を発し続けるそれは、他人にも利用されるようになってしまった。


 和輝のいるだろう地点より先が爆破され、天井でも崩落したのだろう。ディスプレイに浮かぶ赤い点は、進路を変えて道を引き返して行く。

 追い詰めるように逃げ場を塞ぎ、翡翠は次々に仕掛けていただろう爆薬に点火する。

 武装組織の構成員は、爆破に巻き込まれたのだろうか。それとも、既に避難しているのだろうか。きっと、翡翠はどちらでもいいのだ。

 酷い轟音を響かせながら、翡翠が次々に爆破していく。逃げ惑う彼等を追い詰めるーーまるで、ゲームみたいに。


 葵は地面を蹴った。

 携帯電話に夢中の翡翠の側頭部を捉え、遠心力を加えて右足を振り切った。

 寸でのところで翡翠がしゃがんで躱す。其処には悪童のような笑みが浮かんでいた。


 着地した瞬間、血の池が跳ねた。

 服の汚れ等を気にする間も無く、翡翠が銃口を向けている。

 破裂音と共に放たれた銃弾が壁に穴を開けた。

 葵は銃口を蹴り上げる。既に翡翠は手を離し、左腕を振り翳していた。

 拳は頬を掠めた。葵は体勢を立て直し、拳を振り切った。それは敢え無く防御される。

 そして、互いに跳ねるように距離を取った。


 携帯電話をポケットへしまい込み、翡翠が言った。




「玩具を横取りされたみたいな気分?」




 逃げ惑う彼等を助けたいと思う。死なせたくない。それは、所有欲なのだろうか。

 葵は首を振った。




「あいつ等が、友達だって言うから」




 葵が言うと、翡翠が奇妙な顔をした。

 理解出来ないものを見るような、自分には届かないものを羨むような顔だった。


 理由なんて、葵にだって解らない。でも、死んで欲しくない。失いたくない。この衝動が何処から来るものなのか、解らない。


 その時だった。


 両開きの扉が音を立てて開かれた。

 血腥い室内に空気を一掃するように、一陣の風が吹き抜ける。これが気圧の変化によるものだと解っていても、葵は吸い寄せられるように目を向けていた。


 小さな青年だ。

 身体は小さく、腕は細い。座学は壊滅的で、語学に疎い。現実主義を謳っているようで、何時までも理想を捨てられない世間知らず。吐き出す言葉は正論ときれいごとで、感情論をぶつけて来る。


 けれど、それが。

 己の弱さを躊躇いなくぶつけて来るそれこそが、彼の向ける自分への信頼だったのだと。




「ーー最終回、ツーアウト、ランナー無し。フルカウント」




 歌うように軽やかな口調だった。




「助けに来たよ」




 言いながら、ヒーローは霖雨に肩を支えられていた。頭に巻いた包帯には血が滲み、爆破の粉塵で衣服は汚れ、顔は汗に塗れている。

 格好の付かない男だ。ーーけれど、これが自分のヒーローだった。


 和輝は、締まりの無い顔でへらりと笑った。




「ゲームセットを迎えに来た」




 そんなことを言って、和輝は闇の中に佇む翡翠を見た。

 霖雨の腕から離れ、和輝は肉食獣が獲物に飛び掛るように身を低くする。対する翡翠もまた、受け入れるように構えた。


 葵の横を擦り抜けた和輝が翡翠に飛び掛る。弾丸のように突っ込み、振り翳された拳は翡翠の頬を打ち付けた。

 だが、毛程も効いていないというように、翡翠が直様遣り返す。今度は和輝の頬に拳が衝突し、小さな体躯は呆気無く壁へ突き飛ばされた。

 葵は咄嗟に飛び出そうと身を起こした。だが、腕を強く捕まれ、葵の身体は急ブレーキを掛けられたみたいに停止した。

 酷く真剣な顔で霖雨が立っていた。




「いいから」

「何がーー」




 起き上がった和輝が、再び翡翠に立ち向かう。体格差も、経験値も違う。劣勢は明らかだ。それでも、何度殴られ倒れても、和輝が立ち向かう。

 見る見る内に傷付き、ぼろぼろになって行く。翡翠は甚振るように拳を振り上げる。平静の和輝ならば躱せるだろう一撃を腹部に受けて血反吐を漏らす。

 正直、見ていられない。

 それでも、霖雨は手を離さなかった。


 例えば、手を繋いだなら、何時かは手を離す日が来る。その手が失われる恐怖を、葵は痛い程に知っている。

 失うくらいなら、遠ざけてしまおう。離されるよりも、自分から離れた方がいい。失う覚悟が出来る。

 それなのに、ヒーローは何度でも蘇り、何度でも手を伸ばす。

 希望がある、希望がある、希望がある、と。


 これは、自分にとって最後の希望だ。次は無い。これを失くしてしまったらーー、自分はもう、生きて行けない。




「大丈夫」




 強さを滲ませて、霖雨が言う。

 蹴り飛ばされた和輝が血溜まりの中を滑り、四肢を失くした無残な死体に衝突する。身体中を真っ赤に染め上げて、それでも和輝が立ち上がる。




「俺は、」




 ぽつりと、意図せず声が零れた。




「俺は、お前等を巻き込むつもりなんて無かった」




 こんなところに連れて来るつもりは無かった。太陽の光も届かない闇の中、其処等中に死体が転がるような凄惨な世界に引き込みたくなかった。

 彼等には、太陽の下で笑っていて欲しかった。彼等が綺麗なままで生きていてくれたなら、それを希望に生きて行ける。同じ場所を歩けなくても、救われる。


 そう、思っていたのに。




「失うことは、誰だって怖いよ。俺だって、今も怖い」




 霖雨の手は微かに震えていた。それが疲労によるものなのか、恐怖によるものなのか、葵には解らない。




「失う怖さを知っている葵だから、大切に出来るんじゃないか?」




 切り捨てる日も来るだろう。諦めなければならない時もあるだろう。でも、それは今じゃない。

 そんなことを言って、霖雨が泣きそうに微笑んだ。何故だか、それは遠い昔に置いて来た友達の姿に重なって見えた。









 誰が駒鳥殺したの

 ⑸僕等がヒーロー









 足の速さには自信があった。


 それだけが取り柄だった。けれど、それは、非力さを知らしめているようで、自身で誇れたことは無かった。

 でも、こんな時こそ思う。足が速くてよかった。持久力があってよかった。助けを求めている誰かのところまで走ることが出来る。


 霖雨の助けを借りて辿り着いた先は地獄みたいだった。

 閉め切られた遺体安置所は、その性質の為に低温が維持されている。室内にはこの事件に巻き込まれた犠牲者が取るに足らない塵みたいに打ち捨てられ、床も壁も血の色に染まっていた。


 その中で対峙する葵と翡翠だけが、ぼんやりと浮かび上がって見えた。此処には境界線があると言われているようだった。

 お前とは住むべき世界が違う。考え方も価値観も違う。だから、干渉するな。

 鏡に映したように向き合う彼等に、和輝は介入しなければならなかった。


 人は解り合えない。味方もいれば、敵もいるだろう。そんなことは百も承知だ。それでも、自分は葵の手を掴んだのだ。


 何もかも嫌になって、投げ出したくて、逃げ込んでしまいたくて、諦める時もあるだろう。膝を着いて切り捨てなければならない日も来るだろう。それでも、それは今じゃない。


 切れた口の端から、血液が滴り落ちる。

 視界は不明瞭で、足元が地震みたいにぐらぐらと揺れる。このまま眠ってしまいたいくらいに身体が重い。頭がずきずきと痛む。

 けれど、此処で退く訳にはいかなかった。

 誰の為でもなく、自分自身の為に。




「勝てると思うのかい?」

「勝てるか如何かは、勝負しない理由にならないんだよ」




 通じないと解っていても、和輝は言った。自然と口元には笑みが浮かんだ。

 身体は酷く重いのに、神経ばかりが高揚している。ランナーズハイだ。

 和輝は足を踏み出した。

 迎え撃つ翡翠の拳を躱し、カウンターで上段の蹴りを叩き込む。容易く防御され、一瞬にして遣り返される。

 足を掴まれて身動き出来ず、腹部に踵が打ち込まれた。体重を後方へずらして直撃を避ける。尻餅を着きそうになるが、体勢を立て直して距離を取った。




「負けた時に支払う代償のことを考えないの?」

「先のことは、その時に考える」

「無責任だねえ」

「良いんだよ」




 頬がじんじんと痛む。腫れているのだろう。

 熱を持っていることが解るけれど、和輝は構わなかった。




「自分で覚悟して選んだ結果が最悪だったなら、次を信じて挑戦するだけだ」

「最悪の場合、命を落とすこともあるだろう。お前だけでなく、大切にしている誰かが」

「そうならない為に、最善を尽くすんだろう。ーーでも、そうだねえ」




 和輝は少し考えた。翡翠がその隙を突いて来るとは思わなかった。




「その時は、失ったものにも認められるくらい、堂々と強く生きて行くさ」




 一度失ったら、取り戻せないものがある。だが、だからと言ってその場に蹲って何時までも膝を抱えていたくはない。

 何時か取り戻せる日が来るかも知れない。取り戻せなくても、失った命と向き合う日が来るだろう。その時に胸を張れるように、自分らしく生きて行くのだ。




「馬鹿だねえ」




 翡翠が言った。

 緑柱玉の瞳は丸く見開かれ、驚いているようにも、呆れているようにも見えた。




「よく言われるよ」

「それでいいと思ってるの?」

「解らないよ。でも、誰かの為に自分の信念や生き方変えて、それで本当に生きている意味があるのかな」




 それで、いいじゃん。


 場にそぐわない軽い口調で言って、和輝は笑った。其処等には死体が転がっていて、足元には大勢の血が湖のように広がっていて、銃弾が壁に穴を開けていて。

 此処が非現実的な地獄みたいな世界でも、和輝は希望があると笑ってみせる。


 和輝は大きく跳び上がった。隙だらけの攻撃に、翡翠がカウンターを入れようと拳を構えている。

 蹴りを躱した翡翠が、その反動を殺さぬままに拳を突き出す。和輝は着地する刹那、空中で上体を捻った。

 槍のように突き出された腕を掴み、和輝の身体は逆立ちするように浮かんだ。そのまま空中で腕を引っ掴み、肩に乗せて遠心力を加えて渾身の力を込める。


 息を呑む音が耳元に聞こえた。体勢の崩れる一瞬を見逃さず、和輝は翡翠の懐に身を滑り込ませた。


 翡翠の身体が、ふわりと空中に浮かんだ。そして、それは稲妻のように地面へ叩き付けられた。


 咄嗟に受け身の取れなかった翡翠が激しく噎せ返る。和輝はそのまま倒れ込んだ。

 一本背負だ。こんな血腥い殺し合いみたいな状況で、殺す事を目的としない柔道の技を使うとは予想していなかっただろう。


 翡翠は仰向けに大の字になっていた。意識はあるようで、大きな目を瞬かせている。

 和輝は外れかけていた頭部の包帯を乱暴に取り払った。部屋の隅へ投げ棄てると、包帯はあっという間に床の血液を吸って赤く染まって行った。




「逆転ホームラン。ゲームセットだな」




 和輝が言うと、翡翠が掠れた声で返した。




「お前、本当に、救いようの無い馬鹿なんだね」




 そう言った翡翠は、何か吹っ切れたように清々しく笑っていた。


 うるせーよ。


 もう一歩も動けない。

 和輝は身体中の力を抜いて、吐き捨てた。



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