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二回戦終了後



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『さあて、お昼を挟んで午後から三回戦よ。二回戦勝者のイル選手・ゾラ選手に対するは、シード枠のエリアス選手・アーシェラ選手! みんな、おったのしみにねーっ』


 実況席から宣言があったものの、席を離れる者は多くなかった。実際競技場内が、ひとたび離れれば同じ場所へは戻れまいと思わせるほどの混雑ぶりだからであろう。

 そんな観客席から見下ろされつつ、選手席では、布を敷いた上に食べ物入りの籠が着々と並べられていた。


「うわーすごいですねゾラ=ナダさん! これ全部、試合前に用意されたんですか?」


 アルが感嘆の声を上げた。それを合図に、イグニア勢がもうさっそく、いそいそと陣取りを始める。

「腹が減っては戦はできねえし、何より祭りだからな! ところでそっちの旦那方もどうだ? 量は充分に足りるはずだぜ」

 そう言ってゾラが目を上げた先には、バルトサールらアグリア勢の姿があった。と、アルーシェがあわてた様子で立ち上がる。

「あの、すみませんでした、力及ばなくて」

 頭を下げるのをさすがに見過ごせなかったようで、バルトサールが足を止め、連れの二人もそれにつられた。

「いや。こちらこそ」

「過ぎた話はもう良いだろ。つーかこれ全部一人で!? 人は見かけによらねえなあ!」

 バルトサールが何かしら返すより早く、クラウディアがどっかと座り込んだ。イルの顰め面もなんのそので混ざる気満々である。その横からは意外にもヴァレリーが進み出て優雅に腰を下ろした。

「頂戴しよう」

「ああ、大歓迎だ!」

 笑顔で迎えたゾラ=ナダは、さりげなく体をずらしてスペースを空けた。それを見たバルトサールが小さく肩をすくめ、とうとう輪の中に加わった。


「それじゃ! 恵みたるこの糧に感謝を!」


 待ちかねた表情でアーシェラが音頭を取り、巨大な籠に一斉に手が伸びた。

 中に入っているのは、バケットの切りこみに多種多様な具を挟み込んだものだ。屋外でも食べやすいようにとのゾラの心配りであろう。新鮮な野菜と肉を合わせたもの、魚の切り身をたれに絡めたもの、果物を刻んでクリームと混ぜたものもある。もの珍しげに口にしたクラウディアが最初に感嘆の声を上げた。

「美味いじゃないか」

「ゾラの料理だ。当然だ」

「そいつぁよかった。そう言ってもらえりゃ冥利に尽きる。お、旦那、こっちもどうだ?」

「ああ。同じ、ものを、アーシェラ、にも」

 新しいバケットを勧められたジークが視線を移すと、アーシェラはすでに頬いっぱいに詰め込んでいて返事もできなかった。それでも差し出されたものは受け取って幸せそうに笑う。

「うふふー」

「アーシェラの食いっぷりはいつ見ても気持ちがいいな。……エリアス、お前はそれだけでいいのか?」

 わいわいと盛り上がる中で、一人、エリアスが立ち上がった。目を細めたゾラが悪戯めいた笑みを刷く。

「いくら次の対戦相手だからって、毒なんざ盛ってねえぜ?」

「疑っているわけではないのですが」

 エリアスも軽く笑い返す。しかし、その身に纏う空気はすでに、異様に張り詰めていた。

「皆さんのお邪魔になるといけませんので、お先に失礼します」

 会釈して離れていくのを止めることはせず、代わりにゾラは、ジークに問いかけた。

「旦那。もし知っていれば教えてほしいんですが、エリアスは優勝者の褒美に、何を望んでいるんですかね?」

 ジークは黙って首を横に振った。特に聞いてはいないらしい。そこから順にアーシェラ、イルと視線を向けても、反応は似たようなものだ。ゾラは、ふむと首を傾けた。

 そこへ。


「きゃーっ、なんなのなんなのおいしそうなお料理! アタシ達もいただいちゃっていいかしら? ダメかしら??」

「こ、これが噂の、ゾラ=ナダさんのお料理……!」


 入れ替わりに、司会&解説のルーファスとグレイがやってきた。無論のこと来い来いと手招きするゾラであったが、一瞬、視線は席を立った次戦の対戦相手の背を追いかけた。



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