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九歳 婚約者編 前


 ーー母上に最近、敵視されている気がする。

 

 父上の腹筋が割れた。

 師団長のアレックスに毎日毎日、顔以外を痛め付けられた父上は、見事に半年間で細マッチョになった。

 正直、何が正解だったのかはわからないが、一番は父上の継続性だろう。若干ぷにょぷにょだった腹が割れた瞬間の感動はおつかいを初めて果たした子供を見て、涙したくらいの感動だ。ただ、あの番組は、ときどきスタッフが見え隠れしていて子供に話しかけれたりと別な意味でどきどきしたものだ。

 今日も今日とてアレックスに痛め付けられた父上を自室に招いて貰い、マッサージをしようとしたが握力が足りずに仕方なくベッドに横たわっていただき、ふみふみと背中を踏みつける。

 九歳になったオレでは若干重たいかもしれないが、仕方ない。父上が侍女にマッサージされるのを嫌がったのが悪い。男はもっと嫌だったらしいが、ほっとくと筋肉痛だ。




「父上、お疲れ様です」

「………ああ」


 アレックスに痛め付けられて、自信喪失気味な父上を踏みつける。……なんだろ。なにか誤解を招きそうなのは何故だろう。実際、オレが父上を足蹴にしているという噂がここ最近流れているのは知っているが、マッサージだぞ。

 ぐったりしている父上に話すべきか話さぬべきか……チラッと背中を眺めて、相談しなかった事を叱られてもなーと考え直す。


「そういえば、今日、母上からお手紙を頂きました」

「シンシアは、宮殿内に居るのに何故手紙……」

「要約すると『アンタ、最近でしゃばってんじゃないわよ』って感じなのですが」


 父上が頭を抱えた。……要約しすぎただろうか。

 しかし、それ以上の簡略化はできなかった。だって、後は延々と最近の父上の様子を遠くから眺めていると云う内容だった。正直、家庭内ストーカーかとツッコもうかと思う内容で、父上には言わない方が良いだろう。

 母上は何がしたいんだ。


「何が不満なのだ…シンシアは……」

「父上、すみません」

「何がだ」

「女性の気持ちはアドバイス出来ません」


 だって、モテ男になりたくて乙女ゲーするくらいだったし。

 父上がベッドから上体をあげて、大きくため息を吐いた。


「九歳のお前に女心を助言されたら父は泣く」



 ですよねー。




+++++++++



 最近のマイブームは、梅干しを眺める事だ。

 父上がアレックスと打ち合う訓練場で、木から落ちたコロコロと転がっていたものを見つけた瞬間、オレが「度数の高い酒もってこーい!」と叫んだ瞬間、走ってきた父上に樽抱きされて、祈祷師の元に連れていかれた。

 ……祈祷師と最近、茶飲み友達になったのは秘密だ。オレは祈祷師から塩と砂糖と酒の横流しを大いに喜び、三か月後に祈祷師はまだ若いが飲めるかもと差し出した梅酒を大いに喜んでいた。

 ああいうのを生臭坊主というのだろうか。それとも別物だろうか。

 梅干しを作るに辺り、梅を干すスペースには困ったが、護衛のフィンが薬剤師にスペースを借りればよいのではと提案してくれて、事なきを得た。……まだ梅干しとしては生後半年の物だが、すっぱい匂いが食欲を誘う。

 ご飯が3杯いけそうだけれど。


「シソの葉がなかったことだけが悔やまれる…っ」


 白いご飯もない。シーザーとしての初めての調理は作った物も出来もしょっぱい感じだ。


「シーザー様、いい加減にしてください」


 最近、オレの教育係になった将来オレの右腕兼最年少宰相(予定)の二十歳近い年の緑髪をオールバックにした赤い目の青年クラウドが、さっさと魔法の練習をしましょう!とオレを担ぐ。……いや、普通に歩けるのだが、何故みんなオレを運ぶ時、荷物のように持ち上がるんだ。

 姫だっこじゃない事を喜ぶべきだろうか。


「不敬って騒いでいいかー」

「祈祷師様に横流しにしている梅酒を没収されたければどうぞ。……さすがに鍋まで用意して貰うのはもっと協力者を集めてからにしましょう」


 ……ち、バレてやがる。梅酒は瓶に入れて土魔法で掘った地中に埋めておいたというのに。父上が気に入っちゃったのが問題なんだよなー。甘党だったのか父上よ。

 でも、何杯も飲むのダメ。オレも消費できないのに作ったせいで、誰かに飲んでもらわないといけないのが問題だ。



「……クラウド、何歳?」

「は?……十九ですが」

「あといちねん…」



 元日本人として、未成年の飲酒を手伝うべきではないだろうと結論付けた。




+++++++




 王族の為に造られた結解の張られた魔法の訓練場でオレの風魔法だけが何故か上達しない事にクラウドが、眉間に皺を寄せてうむむ、と考えている。


「基本属性の他の三つは問題ないと思われますが、何故、風だけが伸びないのでしょうか」


 魔力は最上級とはやはり、シーザー・マクシェル(転生先)はハイスペックらしい。しかし、風魔法か。


「必要性を感じないせいかもしれないな」

「……確かに他の、特に水魔法は他の群を抜いての才能ですが、出来なくてもいいとは」

「ーー風って、家事に必要か?」

「は?」


 目を丸くするクラウドにいやだってなー、とオレも頬を掻く。



「火は薪とか炊き出しに必要だろ?火力調整も基本だし」

「……確かに焼き払う範囲は指定出来た方が宜しいですね」


 ひくひくと口端がひきつってるぞ。そして、なんだその飛躍。


「土も石とか退けたりする細かい作業って畑を耕すのに重労働だろ?」

「……地形を変えて戦を有利に進めるのですね。岩石などは邪魔ですから」


 なんだろ。クラウドは妄想癖があるんだろうか。それとも耳が悪いんだろうか。………現実逃避してるだけか。

 これで水魔法は、飲み水として使うとか畑とか花壇にかけるのにとか、製氷をできる様になって、国から馬で半日かかる海へ行き、海の魚などを程よく冷凍して持ってきたいとか言ったら怒るんだろうか。

 しばらく魔法の微調整は自分でどうにか考えよう。うん、刺身食べたいとか口走ったらやばいな。



「……水魔法はどうなのですか」



 ここで、今更普通の答えを言っても疑われるのだろうから、普通にダメージが低そうなとこで答えよう。



「の、飲み水に」

「飲まないでくださいね!?」



 惜しい。クラウド、もう飲んだ後だ。






+++++++






 夕食を家族一緒にと父上に誘われたと云うのになんだこの状況は。

 誰も何一つ喋らないと云う重い空気。母上と父上のナイフとフォークの音だけが響くってどういう状況だろう。



 妹のクレアと弟のカインは、緊張のし過ぎで顔色が悪い。そういえば、同じ王宮内にいると云うのに久しぶりに顔を見た気がする。

 生前の記憶が戻ってからじっくりと顔を見たのは初めてじゃないだろうか。



 クレアは、やっぱり、少し細いなー。カインは好き嫌いが激しいらしく嫌いなものを皿の端っこに避けている。

 母上に視線を向けたら、ぎろっと睨まれた。ので、慌てて視線を父上に向けてしまった。クレアに似ていて、金髪碧眼、ふわふわの髪を高く結い上げている。アゲハ嬢……とうっかり、母上の前で呟きそうになったが飲み込んだ。

 オレは何か悪いことをしたのだろうか。確かゲームだとシーザーを溺愛してただろ。何が違うんだ?



「そういえば、シーザー」

「お酒は食後です」

「う……いや、違うぞ。ええっと、梅酒が飲みたいとかじゃなくてだな。苦手な属性があると」

「申し訳ありません。風属性なのですが、どう、清掃に使えるか今思考錯誤しております」

「清掃!?……いや、室内では使えぬかもしれぬが、外で扱うなら問題はないのではないか」



 父上の返事がおかしい。

 普通、魔法使用は城内において制限されてるって、さっき、フィンに指摘されたばかりだ。毒されてるのか。まあ、バレてる件は正直に話そう。



「……それなのですが、手加減が利かなくて城壁の一部を欠損させてしまい」

「シーザー、教育係が許すまで訓練以外で魔法を使用しないように」



 父上にストップをかけられた。

 仕方ない。と云うより、それが普通です。父上。

 室内でも扱って、椅子の足の部分をすっぱりと斬ってしまっている件はどうしよう。風魔法、なんて、恐ろしいんだ。そして、証拠隠滅をいつ行おう。このままでは、ポンポコじいちゃん(宰相)賄賂(梅酒)を贈らねばならない。………問題ないような気がしてきた。否、もうバレてる可能性の方が高いけど。



 それにしても、妹と弟が気になる。クレアを指摘するにも最初から別なものを食べているから一応、出されたモノを食べているクレアは、注意しづらいな。そうなると大量に残して、好きなところだけ食べているカインか。



「カイン」

「はい!あにうえ!!」



 いきなり、オレに話しかけられるとは思っていなかったらしいカインの声が裏返った。

 そういえば、記憶がよみがえる前は会えばプレッシャーばかりかけていたな。苦笑するしかないな。



「食事は苦痛か?」

「は?……あ……」



 真っ赤な顔で自分が皿に残している物に視線を向けている。慌ててカイン付きのの従者が皿を片付けようとしたが、それを止める。



「待て、責めているわけじゃない。カインにちょっと、試して欲しいことが有ってだな」

「ぼく、じゃなくて。私にでしょうか」



 にこっと、愛想の良さを売りにご近所のおばちゃんから、安いスーパー情報やおすそわけの品を頂いてスキルを駆使し、(もちろん、お返しはきちんとしていた)カインに笑いかけると、あーとかなんとか。大丈夫だぞ。兄は、お前と敵対するつもりはない。

 ただ、ヒロインが出てくるまでに偏食なお前を治してやりたいだけだ。



「とりあえず、嫌いなものを一つ食べてみてくれないか?」

「た、食べるのですか!?」

「どれくらい嫌いなのか確認したいからな。」

「……はい」



 渋々、カインは緑色のピーマンっぽいものにフォークを刺すと、目をつむりながら口を開け、一回でも噛んだのかという様子で飲みほした後に果汁を少し搾った水で飲みほし口直しをした。…典型的なタイプなんだよな。



「じゃあ、次に」

「次ですか……」



 あー、新手の嫌がらせだと思ってるのかカインが暗い。クレアが、カインの様子をクスクス笑ってるが、嫌がらせじゃないからな。

 それにしても、妹よ。悪役としての才能が開花しそうで兄は悲しいぞ。



「今度は、すぐに飲み込まず、しばらく咀嚼しなさい。最低三十」

「……」

「オレも一緒に食べるから」

「あにうえは、食べれるじゃないですか」

「わかった。父上も一緒だ」

「……別に構わないが」


 巻き込まれたとは何ですか。さっき、これをちゃんと噛まずに飲んでたのしっかり見てましたからね。

 父上まで出されては、カインも断り切れずに一緒になってピーマン……うん、単体で食べるとピーマンの味がするから、ピーマンだな。を三人一緒に咀嚼する。何故か途中から母上とクレアも参加しているのは、まあ、問題はないか。


「………あれ?」


 最初は、いやいや食べていたカインだが、途中で首を傾げる。


「兄上、途中から苦くありません」


 もう一口と箸をのばすカイン。

 それで、また苦くなくなっていくのが不思議なのか、また一口に手をのばす。こいつは、もともと初見だけで苦手と判断すると食べなくなるって知ってるからこうして、一口目以降が平気だとわかるとどんどん食べて行くんだよな。……ヒロインが、そこまでの関係になるには好感度と教養が高くないといけないが……まあ、兄という立場でさっさと好き嫌い治しても構わないか。


「…そうだろう。噛むごとにその食材の本当の姿が現れるものだからな」

「本当の姿ですか?」


 う、なんで、カインはキラキラした目でオレを見つめているんだ。何かを待っているような。なんだ。お兄ちゃんは、食べれて良かったね。しか言えないぞ。


「シーザーの言う言葉は人間関係にも当てはまるのだよ。カイン」

「父上?」

「カインにも苦手な相手がいるのだろう」

「……はい」


 何故か、オレを見るカイン。


「しかし、今日は思わぬ相手の姿を知った。ーー好きになれそうか?」

「ーーはい!!」


 パーッと花が綻ぶように笑むカイン。ピーマンが好きになれそうなのがそんなに嬉しいのか。良いことだ。

 しかし、侍女たちと従者が微笑ましそうな顔をカインに向けてくれている中で何故、オレには母上の睨みが来るのだろうか。クレアもふくれっ面だ。どうした。


「兄上、今日はたくさんお話がしたいのでお部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか?」

「ん、構わない。」

「では、兄上の好きな女性像(タイプ)は」

「は?」

「侍女のナンシーが初恋って本当ですか!」

「よし、カイン。人の気持ちをべらべら喋るとどういう目に遭うかしっかり教えてやろう。そして、逆にお前はその情報をお前に仕込んだ阿呆も教えろ」


 そして、オレが好きと言ったのは侍女じゃなくばあやのナンシーだ。内緒ですよと、梅酒の為の瓶と梅干しの為の壺を用意してくれたからだがな。……侍女のナンシーって誰だっけ?あとで調べよう。


 夕食後、カインとクレアがオレの服の裾を引いてるのが凄く気になるが、さすがに妹と一緒の部屋に寝る事は出来ないと、クレア付きの侍女に寝る時間なったら迎えに来てもらうと大泣きされた。


「カインばっかりぃ!!」

「べー」


 この頃から二人の仲が悪くなった気がするのは気のせいだろうか。

 あと、カインにはデコピンしておいた。


+++++++


 数日後、母上がちょうど、椅子の件でじいちゃんに賄賂を贈っている最中にオレの部屋に訪ねてきた。何の前振りもなかったので、驚いたが母上がニコニコと微笑んでいたので、オレは最大限に警戒した。

 山田太郎時の母親の笑顔というものは、母という権力を使ったとても理不尽な権限を扱う瞬間だった事を植え付けられている。


「ほっほっほっ、ついに始まるのですね」


 狸じいちゃん(宰相)が楽しそうだ。


「シーザー、ちょっとお話があるのだけれど」

「少しお待ちください。すまない、母上のお好きな紅茶は果物を入れたもので、お菓子はあまり甘くないものだ。すぐ、用意してくれ」

「「はい」」


 足音はたてずにスッと急いで部屋から出て行く従者たち。侍女たちは、母上の座る椅子をすぐさま用意してくれた。……足を斬った椅子しかなかったんだ。隠していたせいで、じいちゃんにさんざん説教されているところにくるとは。おかげで、梅酒も梅干しも出しっぱなしだ。


「……シーザーの心遣いに感謝いたします」


 従者が用意してくれた紅茶と茶菓子に目を丸くした母上だが、気を取り直して本題に入った。


「シーザー、貴方はゆくゆく一国の王となる立場。そろそろ伴侶を決めても良いころだと思いませんか?」


 ね!!と、ばかりに母上が何かおかしなことを言っている。……伴侶をそろそろ?いや、確かに婚約者は居たが、その相手は一つ下の相手が十三になってからだ。打診というだけで、断ってもいいのものか?


「母上、オレは」

「我が国と敵対関係の帝国皇女、リリアンナ様よ。こんな好条件、滅多にありませんわ」


 ゲームでも婚約者のドリコちゃんだった。あれ、おかしい。後、数年先の話じゃなかったっけ?じいちゃん、うんうん、頷いてどうしたよ。


「良妻の天敵は賢母ですからな」


 ほほほ……げふんってなんすかー。




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[気になる点] 風が使えない…??? 薪をでかくするのは風だし、 ドライヤーも風と熱だぞ…? 冷暖房も、乾燥機も、ワンチャンマカロンとか乾燥させるのにも使えるだろ…?
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