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八歳の思い出

 


 タイトルを覚えていない乙女ゲーに転生した事に気づいて数日。

 日本人の黒髪黒目の方が珍しい色彩豊かな髪色と瞳に精神ゲージを削られる事も少なくなってきた。

 いやー、慣れって怖いね。っていうか今まで普通だったのに記憶を振り返すのは精神的によくない事かもしれない。


 鏡を見るたびに青髪と紫の目って怖いわ。とガン見することも減った。殿下がナルシストになったとひそかにヒソヒソしていた侍女たちよ。違うからな。

 侯爵家の実家に滞在していた王妃と双子が帰ってくる事になったらしく、父上がそわそわと指折りを数えている。性格は穏やかでオレと同じ色彩を持った……父上、十年後にポンポコに太ると浮気されるんですよー。

 確か(カイン)のイベントに『王妃の浮気』でオレ(シーザー)のイベントで『王様のご病気』イベントが発生するんだよな。

 これ等が発生すると、カインとオレの仲が最悪になる。下手するとどちらかが国外追放か暗殺かー。HAHAHA……はあ。

 ヒロインがカインルートか逆ハールートに入らなければ良いだけだが、未来はわからない。仕方ない。尻を叩いてでも鍛えるか。

 とりあえず、今から飯は減らさずに食べているものを変えてみよう。

 まだまだ時間がある。いきなり、食事の量を減らして、運動量を増やしても誰もついてこない。適度な運動にラジオ体操も取り入れたい。第一しか覚えてないが……、


「父上、今日からササミを食べましょう!」

「シーザー、最近たまに話が理解できぬのだが、疲れているのか?教育が負担になっておるのなら…」


 父上が心配げにオレに休息を取りなさいと提案してきたが、そんな時間はない。



「大丈夫です。今日から、父上の食事はオレが一手に引き受けます。さあ、ぽんぽこじいちゃん(宰相)。父上の今日のスケジュールを教えてくれ。団長に時間を作らせ、父上の鈍った腕前とちょっと、危ない腹と平和ボケした脳を鍛え直すぞ」

「シーザー様、やはりもう一度くらい祈祷師を呼びましょう。まだ善くないものが憑いて居られるようです」

「宰相。ポンポコって呼ばれるのが嫌なら、一緒にシーザーに鍛えられてみるか?」

「ご冗談を。ワシはもう陛下より三十以上も上なのですよ。諦めております」


 ぴっかりででっぷりなじいちゃん宰相は、まだ六十代くらいだから鍛え直せるような気がするので、仲間を増やそうとしたが飄々と断られた。

 さすが、ぽんぽこ。





++++++++




 オレの目下の敵は厨房の料理人になると言うことだろう。

 でん、とがたいの良い山賊チックなおっちゃんがオレをうろんげな目で見下している。いや、オレが八歳だから仕方ないか。

 持っている包丁が食材より人間を捌いているって言われたら、全力で逃げよう。後ろの護衛より強そうだから始末に負えない。


「食材を見せろー…とは、どの用な意味合いでしょうか」

「そのままの意味だ」


 見た目通りの極悪人ヴォイスに若干感動しつつ、オレはシーザー・マクシェルの記憶もあるので王族らしく、つい、えらぶってしまうが、どう考えてもオレが悪い。人の職場に土足で足を踏み入れているのだ。

 普通のクソガキなら拳骨とともに放り出されている。しかし、オレは、権力のあるクソガキだ。さあ、どうする料理長。

 帰れと云うなら他で薪ぎを行ってでも野菜たっぷりのお鍋を作って父上の口に突っ込もう。

 オレは、わりと本気だ。


「材料を見たいなどと……まさか、王太子様が料理を作るなどとは申されませんよね。そのような王太子様など、どの国でも耳にしたことなどありませぬ」


 嘲るような料理長の言葉に他も追従するように笑みを浮かべている。

 しかし、嘆かわしい。

 他国を理由にして王太子を調理場にあげないようにしようなどとは衛生上なら引き下がったが、これは一度確認したほうがいいな。


「理由はそれだけか」

「は?」

「王太子が料理を作ることを否定することだけが理由か」



 別に今回は、父上の食事に何を扱うかを指定しに来ただけだ。……この前のやらかしは覚えている。

 今回は、前回の奇行を謝って、ゆくゆくは、オレにも料理させてもらえる場を提供してもらいたいとひそかに企んでもいる。


「あ、いえ……、王太子様は最近特に我々を信用なさってらっしゃいませんので。そのうえで仕事まで奪われるとなると」



 慌てて訂正する料理長にやっぱり、前回の奇行のせいかと内心のやっちまった感にため息が出そうだ。


「父上が野菜嫌いだと云うことは知っているな」

「……はい」

「だが、これからは少しずつ、量を増やしてくれ。肉は一度煮るか網焼きにして、油を減らしてほしい」

「はあ…?」

「それから、食前酒とか減らせないのか?父上は、酒を召されると食欲が増すタイプらしく」

「あ、あの」


 何故か、止めに入られた。どうした、料理長。

 オレは、まだまだ指定したりないぞ。厨房に入らないで置いているのは、職場に入られて困る年代だろうと云うこと考慮しているからだ。本当は一人二人分くらいはオレが作りたい。


「もしや、王の体型を絞るおつもりでしょうか」

「ああ、そうだ」

「それは、お止めになられた方が」

「?何故だ」

「王族の豊かなお身体は、豊穣の印。王国マクシェルが富み、豊穣である一種のステータスかと」

「食いたい物を食いたいだけ食べるのはそれとは違う気がするが?」


 ギクッと、体を震わせる料理長。

 今の発言は確かに王族として聞きなれているものだが、富んでいる国の王族・貴族が豊満で有るのはステータスだと。食に苦労している国にはそれはそれは魅力的に見えるらしい。

 だが、ここがオレの知っているゲームの世界なら妹のクレアは、今ガリガリだぞ。『食事なんて、美味しくありません。果物だけあればいいわ』と、確か飢餓に苦しんでいた隣国の王子であり、将来の婚約者の前でだいぶアウトな発言をしていた。そこから蛇蝎のごとく嫌われたのに理由がわからずさらにから回る妹は明らかに食育がなってなかった。

 まだ、出会っていない段階だから修正は効く筈だ。


 オレの指摘と冷たい視線を下から受け、明らかに視線を逸らす料理長と料理人たち。オレは、ふう……っと、頭を押さえた。仕方ない。

 このままでは、オレと弟が骨肉の争いだわ、父上が(容姿的な意味合いで)狸になっちゃうわ、母上は爛れた関係でゴシップを飾り、妹はガリガリで婚約者に嫌われるなどオレの人生に置いてない。


「ですが、自分の食したい物だけを食せると云うのも、国が豊かと云う」

「他国を理由にオレを追い出したいようだが、そんなお前たちに先人の有りがたい言葉を贈ろう」


 なおも言い募る料理長にこほんっと咳払いするオレ。





「うちはうち!よそはよそだーーこれから、父上の脱ポンポコ腹計画を行う。着いてこれない者は今のうちに言っておけ。オレは、厳しいぞ」





 誰だ。うちの母親と同じことを言ってるって呟いた奴は。






++++++++++++++






 あー、朝日が眩しい。


「さあ、父上。朝は一杯の白湯です」


 陽が昇ったと同時に父上の寝室に突撃する。父上付きの従者と侍女の目が冷たいが、明るい家族計画の為だ。すまん。


「シーザー、まだ起きる時間では」

「朝食を食べる前がカロリー消費に適しております。ですが、何も飲まずに運動すると血液の流れがどうとかで大変らしいです」

「シーザー、情報がアバウトで説得力に」

「さあ、黙って一緒に走り込みです。ストレッチは念入りにしてください」

「いや、あの」

「父上と同じお歳の団長が日ごろの恨みを……ではなく、日頃の運動不足の父上の為に念入りに打ち込みに付き合ってくださるようです。頑張って痛めつけられ……ではなく、筋肉に適度な緊張感を持たせましょう」

「シーザー、私に何か恨みがあるのか?」

「いいえ、父上。シーザーとしての本分がいまだに残っている部分もあるようですので。つい、父上を貶めたくなるだけです。お気になさらずに」

「宰相、すまないが、祈祷師をもう一度呼んできてくれ」


 息子がちょっとおかしいぞーっと抑えつける様に父上に樽抱きされたオレ。

 侍女に呼ばれたポンポコ宰相が、ほほほっと父上に笑いながら、いえ、ちょっとではなく大分です。と訂正していた。また、香を焚かれての軟禁か。


「父上、祈祷師は諦めますが、ちゃんとお酒を控え、運動し、食事も野菜を食べ、最低でも一口三十回は咀嚼してくださいね」

「シーザー、そこは諦めて良いところじゃないのだよ」

「父上が二十代後半にして脂ぎっていると、オレの将来が心配です」

「父は将来より今のお前が心配だ」

「さあ、第一師団長アレックスに無様にやられてくるが……鍛え上げられてください」

「宰相、早く祈祷師を呼んでくれ!!それとも医者か!?」

「王太子様が子供らしゅうなさって、じいはとてもうれしゅうございます」

「ジジイ!めんどくさくなったな!?」


 憤慨する父上にほっほっほっと、高笑いするポンポコ狸じいちゃん(宰相)に、では、殿下は祈祷師様に陛下はアレックスの元にと親子ともども強制的に連行された。

 宮廷料理人のおっさんたちも最初は渋々オレの云うメニューに沿った料理を作っていたが、だんだん父上と云う成果が目に見え始めたので嬉々として、料理を作っていた。





+++++++




「と云うのが、最初のオレのやらかし事件だが?」


 ピンクボブとアイスブルーの瞳の美少女(ヒロイン)ーーイリーナに前世の記憶を取り戻した時の状況を訊かれたので、掻い摘んで話すと何故かプルプル震えている。

 おばちゃんたちに調理場を借りて、試作のハーブクッキーを作りながら談笑していたと云うのにいきなり、怒りに震えるとはどうしたんだ。


「アンタ、それじゃあ、もうカイン攻略ルートが無くなったって言ってるもんじゃないのよ!?」

「は?いや、ほら、まだ大丈夫だ。オレの婚約者を想ってるけど諦めさせて自分に振り向かせるイベが有るだろ。そっち目指せよ」

「それ、あたしが知識と教養が高くないと発生しないイベでしょ!?……さっき、水晶で調べてきたら体力が異常に付いてるのよ。なんで?このままじゃ冒険者か勇者か女騎士よ。世界なんかより、あたしが救われたいわ!!」

「じゃあ、魔王攻略しに行けばいいんじゃないか?オレと同じで隠れキャラだし」

「あれ、ある意味Badendって本当!?」

「……」


 思わず、すぅ……っと視線を逸らしてしまった。


「すごいスチルだった……」

「何が!?」

「乙女ゲーとして、拳で語り合うendはないと思う」

「それは……乙女ゲーっていう流行りに乗って、大手のRPGとホラーサスペンスのスタッフが手を組んだらしいから……アンタの暗殺成功の血のりどばーっもホラースタッフが頑張ったって」

「それ、血のりじゃなく、オレの本当の血になるから。そして、暗殺成功言うな」


 気まずい空気になったところでクッキーが焼きあがったようで仄かに香ばしい香りがする。


「アンタも大変ね」

「お前が逆ハーを諦めれば、何とかなるんだが」

「生きがいなのに!?」


 一枚一枚丁寧に長箸でクッキーを窯から取り出すイリーナ。しかし、生きがいとまで言いだすか。


「オレ、ハーブクッキー苦手なんだが、どうしてこれを?」

「アンタの妹は、多分好きよ。よくハーブティ飲んでるし」


 布にひょいひょいと入れて行くイリーナに首を傾げる。


「誰かにあげるのか?てっきり、おやつかと思ってたが」

「アンタがクレアちゃんにあげてきなさいよ。仲直りしてないんでしょ?」

「……ああ、」


 そういえば、前回のまま放置していたな。呆れながら後は、私がやっておくからと背中を押してくれるイリーナに


「ありがとう」


 気持ちのままに礼を言えば、またボンってどこかから破裂音が……敵……じゃないよな。




 食堂を出て、クッキーを持って一年のクラスに足を向ければ、ちょうどよく渡り廊下を(カイン)(クレア)が仲良く並んで歩いてきた。

 金髪縦ロールと青髪のサラサラヘアーの双子。似てる所は碧眼だけだな。

 顔だちも母上似のクレアとオレと同じで父上似のカイン。


「兄上!」

「カイン、クレア。ちょうど良かった」


 ゲームだと犬猿の仲の筈のカインが笑顔でこちらに走り寄ってくる。

 なんで、この十年間の成果がクレアには出ないんだ。クレアが膨れながらも寄ってくる中、カインはオレの腹に抱き着いてくる。正直、前世でも弟がいたがこんなに懐かれてなかった。

 どこでちゃんとした距離感を無くしたんだろう。


「兄上、いい匂いがします!!」

「ああ、イリーナがクッキーを焼いたからな」

「イリーナ……ああ、あの庶民の」


 クレアがギリッとハンカチを噛んだ。何か不満があるとハンカチを噛む癖が有るな。


「この学園ではそういうことは言っては駄目だと教えただろ。ほら、クレアにって持ってきたから」


 クッキーを詰めて貰った布袋を差し出せば、カインがキラキラした目でオレを見上げている。


「兄上、私のは?」

「……用意してなかったな」

「わたくしのをあげますわ。お腹が空いてませんの」


 ふんっと、そっぽを向くクレアにカインがサンキューと礼を……カインも言葉が乱れてる。どこの誰の影響だ。


「兄上、美味しいです。でもなんか、もそもそしてます」


 遠慮なく、クッキーを貪るカイン。コイツ、手を洗って来いって言う前に。そして、もそもそってなんだ。


「クレアも食べないか」

「庶民が作った物など口にしたく有りませんの」


 つーんっと、そっぽを向いて本当に興味がないようだ。おかしいな。甘い物好きだろ。


「兄上が作ったのではないのですか?」

「いや、オレも一緒に作ったのだが」


 カインが、首を傾げて問いかけてきたので答えると、クレアがひくりっと喉を鳴らした。


「お、お兄様の……」

「?どうした。クレア」

「いいえ、なんでもございません!!」

「あ、あと、一枚しかなくなってしまった」


 カインがわざわざ一枚しかないって口にしてきたが、何故だ。もっと欲しかったのだろうかとカインを見たがクレアの方を見ていて表情が見えない。



「~~カイン!!」


 あーんっと、食べようとするカインを何故か制止するクレア。


「食べるの?」

「い、一枚くらい食べて差し上げようかと」

「庶民が作った物だぞ?」


 ぐっと、泣きそうなクレアに回り込んで見れば意地の悪い笑みを浮かべるカイン。相変わらず変に仲悪いなコイツ等。


「カイン、クレアが食べたいって言ってるんだから譲りなさい」

「えー……、今度は私の分まで用意してくださいね」


 少し名残惜しそうだったが、素直にクレアに手渡すカイン。大切そうにたった一枚のクッキーが入った布袋を抱きしめているが、実はお腹が空いていたのだろうか。


「食べないのか?」

「て、手が汚れているので」


 オレが口酸っぱく言われていることを律儀に守っているクレアに嬉しくなる。



「じゃあ、食べさせてやるから」

「……っ、し、仕方有りませんわね!やはり、こういうものは焼きたてが一番ですから」


 オレにクッキーを渡しはい、あーんっと口を開けて貰いそのままクレアの口の中に入れてやろうとしたら、横からパクッと横やりが入った。


「美味しいです。兄上」


 呆然と横からクッキーをさらった弟に視線を向けてしまった。いや、口をもぐもぐさせながらいい笑顔を向けんな。クレアが、目をぱちくりさせてどんどん涙目に……。


「か、カインの……馬鹿――――――っ」

「クレア!」


 ふわーんっと走り去っていく妹。


「ふ、悪は滅びろ」


 にやりととびっきりの悪い笑顔を浮かべるカイン。……うん……、とりあえず、オレが弟の頭に拳骨を落としたことは言うまでもない。


 






クレア・マクシェル


ゲーム設定

体型ガリガリ、嫌味、シーザーを慕っている。カインと不仲。アルベルトが大好きで付きまとうが嫌われている。

本編

シーザーが好きだが、どうしても素直に慣れない。アルベルトとも相思相愛だが、やはり素直に慣れない。カインとは姉弟と云うよりシーザーを巡ってライバル関係。


カイン・マクシェル

ゲーム設定

家族は父親以外が全て敵認識。クールな見た目だが、熱血漢。正しくない行いは許せない。猪突猛進。

本編

ブラコン。姉とは兄に構って貰う時間を取り合うライバル。好きなものに対する愛情表現が極端。



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