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現在 プロローグ

 さて、もと山田太郎である記憶を八歳の時に取り戻してしまったオレ、シーザー・マクシェルと云う存在は、転生者。

 しかも、男なのに乙女ゲームの舞台に転生させられいた。現在十七だが、すぐに十八になる。

 十年前は、まあ、知らない世界よりマシかな。と舐めていた事は確かだ。

 この乙女ゲームの舞台の主人公(ヒロイン)と出会う可能性を完全に除外していたからな。HAHAHA。

 ゲーム上では、シーザー・マクシェルの性格と色々有って通わない学園(アカデミー)に父上に我が儘を押し通し、通わせて貰っている。

 うん、視野を広めたいって理由と色々有ってだった。

 通う当初はもの凄く高い志も有った気もするが、三年通う学園(アカデミー)で残すところ、あと一年。志が若干低くなったのは……目を逸らそう。なんで、友達が欲しいに変わってたんだオレ。

 ……いや、うん、そういえば、忘れていた事だがヒロイン、妹と弟と同じ年だから、今年から入学していたんだってことを。

 自分が好き勝手してるのに出会いイベントは通常通りに部下に命令して、弟が毛嫌いする魔力の高い女をかっさらって来なければ大丈夫!とか変な自信は何だったのだろうか。

 ヒロインが通う学園(アカデミー)に通わないキャラなのに通ってる時点でアウトだと云うのに。

 それにしても、ヒロインを無理矢理城に連行させるキャラにどんな需要があるのだろうか。完璧にただの悪役だろ。

 なんて考えながら、副担に反省文を書けと命じられたので食堂の一角を借りて書いている。

 数日前にオレが花壇に変な物を埋めたせいで、叫ぶ植物が生えたって……それ、絶対あの禍々しい研究をしている生物研究部のせいだと思う。決して、出会った時にあまりの異臭にとりあげたヒロインの弁当を埋めたせいじゃない筈だ。

 何かあると、すぐオレのせいにする副担め。あんたの嫁が『これ見よがしに浮気して!!』って実家に帰ったのは、オレのせいじゃない。オレが作った菓子を毎回持って帰った副担任が悪い。担任のロリバ……魔女みたいな先生は別な意味で、オレに厳しいが。

 他にも理由があるみたいだけど……今は、反省文か。ーー難しいな。ヒロインの弁当を捨てたという食べ物を粗末にした事か、生物研究部の成立を手伝った過去から反省すべきか。


「あの、先輩。ボタン取れそうですよ」

「え、マジで?」

「あ、あの…もし良かったら、私が付けましょうか」


 オレが、カリカリと反省文をでっちあげている中で食堂内で甘酸っぱい青春が繰り広げられている。……羨ましい。

 オレって、王太子って入学式でバラされ、周りに距離を置かれた所から友達作りに勤しんでいたせいで、ある程度身分の有る奴らは仕方ないが庶民はオレの王太子って云うのを貴族特有のジョークだと認識し今では庶民側からは『王太子(笑)』と云うあだ名を付けられたりしてーー今は庶民や貴族の一部とも、世間話は出来る程度の距離にはなったが、恋愛とは疎遠になってしまった。


 だから、こういう青春的なイベントは死ぬほど羨ましい。が、しかし、今は反省文だな。前世で無縁だったのに今のオレは何が問題なのだろうか。

 

「あー、良いよ。やって貰うの悪いし」

「わ、悪くないですよ。今から裁縫箱持って来ますから」


 女子生徒よ。ガンバレーと心で応援し眺めていたら、男子生徒……友人だった。と目が合ってしまった。

 なに、ラッキーみたいな顔してんだよ。それ多分、フラグだぞ。へし折る気か!?


「お母さん!ボタン取れそうなんだけど」

「誰が母親だ!?」

「王太子(仮)様が」


 ケラケラ笑って、オレの近くに来て制服を差し出す友人。その友人の後ろから、オレに殺気を向ける女子生徒。HAHAHA。こええよ。


「あー、友人。可愛い彼女にボタン付けて貰いたまえ。お母さんは君の将来が心配だ」

「え、やだ。俺。マザコンだし」


 シーザー様ラブーッじゃねえよ。完璧に男子の間の悪ふざけのノリだな。一応、この世界じゃ結婚適齢期だぞ。

 女子達が積極的なのに男子がのんびりしている。普通、学園(アカデミー)三年は、必死こいて相手を物色中の筈だと、担任にも愚痴られた。曰く、オレと同じ学年は何故か男子生徒の恋愛意識が低いと……。

 そういう世代(とき)ってあるんじゃないの?草食系とか。オレのせいにされても困るのだが。



「女性にしてもらった方が嬉しくないか?」

「んーでも、ほら。裁縫道具わざわざ持って来て貰うのも。その点、シーザー様は、あれあるじゃん?」



 友人の言い分はわかる。しかし、睨んでいる女子生徒と恋愛へのきっかけを潰すのはどうかと思いオレは、妥協案を模索し思いついた。


「……あー、裁縫道具(ソーイングセット)貸すから、この友人の制服を……」


 制服のポケットから持ち運びしやすいように自作した裁縫道具と友人から頼まれた制服を差し出すと、女子生徒が無言で手のひらサイズのそれを見つめる。この自作裁縫道具の存在を知っているから遠慮なくオレに頼むんだよな。友人よ。


「ちゃんと糸と針は入ってる」


 見てるだけじゃどうにもならないと云うのに固まったまま動かない女子生徒を見返す。友人も同じ気持ちだったらしく、オレと一緒に彼女を見守っていると後ろから突然、何かが当たる。


「ーー?」


 それを拾い上げると紙を丸めた物だった。

 当ててきた犯人を探すために辺りを見回すと、近くの席で椅子に隠れるように身を低くしているピンクのボブショートヘアーでアイスブルーの美少女がちょいちょいとオレを手招きしている。なんだ?


「すまない。ちょっと…」

「ん、わかった」


 まだ固まっている女子生徒の前に裁縫道具を置いて、紙屑を投げてくれた相手に近づくと、屈むようにジェスチャーされた。……椅子があるのに?

 しかし、逆らうのも面倒なので相手の視線に合わせて片膝を付けてる。


「どうしたんだ」

「あんた、アホなの?」


 藪から棒になんだ。アイスブルーの瞳に呆れを滲ませ、まったくと頭を振る知り合いに首を傾げる。


「オレは今、友人の恋の架け橋を」

「叩き割ってる最中なのね。わかるわ。確かに自分が独り身だとつい友人でも『不幸になれ!お前の幸せなんか自分に余裕がなきゃ祈れねえわ。ばーか。彼氏が出来た?結婚式?は、呪詛でも唱えてやろうか!パンクでな』って、心の奥底から罵りたくなるわよね」


 ………どうして、そんな根が暗い事をお前の気持ちはわかるわ。的に頷きながら言えるのだろうか。

 恐ろしいことにこの目の前の悪役全開、唯我独尊、自己中の美少女こそがこの乙女ゲーの主人公(ヒロイン)で、オレと同じ転生者だ。

 生前は、バリバリのキャリアウーマンで独身アラサーだったと自己申告を受けた。ついでに会社の金を横領していたのがバレそうになったので、捕まるまでの豪遊先にホストクラブを選び、浴びるほど酒を呑んでいたらしいが、その途中で急性アルコール中毒になって亡くなったらしい。……本人的にそれに満足していなかったらしく、乙女ゲーの主人公に転生したことを幸いにちやほやして貰う為に逆ハーを目指すアグレッシブなアマゾネスだ。

 見た目は守ってあげたくなる小動物系だというのに……完璧に鋭い目付きが肉食と云うのを隠しきれていない。


「なあ、そんな事言うために呼んだのか?」

「違うわよ。あんたがガラスより割れやすい乙女心を割った上に傷に良く沁みる消毒液やハバネロを垂らしそうだったから止めに入っただけよ。見なさい。あのモブ顔女子。頑張って将来性のあるちょっと無理めな先輩男子に無謀にも突進したのよ。あたし、ああいう無謀な子嫌いじゃないわ」

「どこからの上目線なんだ。お前」


 右斜めか左斜めか。確実にわかるのは上からと云うことだ。うんうん、胸の前で腕を組んで頷くイリーナ。


「だからね。あんたの自作の裁縫セットは、引っ込めなさい!なにあの『ちょちょいっと手先の器用なとこを見せとこうかな?』的な細工品は!?前世の知識を活用して、この世界にまだ無いポケットに入れて持ち歩き可能な裁縫セットを作り、手先が不器用な人間を嘲笑いつつの女子力アピール!……あんた、世界を変える気ね!?」


 ビシッ!とひと指し指で指してくるヒロイン様に呆気に取られつつ、反射的に手刀を落としてしまった。


「いたっ!」

「……発想がげすい」

「どこがよ!?」


 頭を押さえながらぎゃーぎゃーと喚かれている。うろんげな目で見てしまうのは仕方ない。……仕方ないだろ。

 ふーふーとチョップされた頭を押さえて、オレを睨む様は手負いの野生動物を連想させる。このまま放置するときっと、予想だにしない報復行動がありそうだ。仕方ない。


「欲しかったら作るぞ?」

「欲しいわ」


 ちょうだい!とてのひらを返すイリーナの頭に今度は、デコピンをしてみる。ピンって、いい音鳴った。ちょろいけど!!

 でも、なんか、物に釣られる子供を連想させる行動に思わず教育指導が。


「いったい!」



 額を押さえて、恨みがましく頬を膨らませるイリーナに呆れが先行してしまう。


「欲望に素直過ぎる」

「当たり前よ。乙女の夢の具現化がヒロイン(あたし)なんだから!」


 ……胸を張って、迷いがない目だな。状況と台詞が違っていたら、美少女だから見惚れるって選択肢があったのだろう。

 しかし、今のオレには呆れる一択しかない。


「この美味しい状況を骨の髄まで楽しむ権利を手にいれてるのよ!欲に負け、テンションに身を任せ、逆ハールートを突き進むわ!」

「…………ああ、そう」


 夢みちがちでキラキラした大きな瞳にこれ以上、何を言えと……。


「……言いたい事は全部言えたか?」

「は、今はそんな事を言いに来た訳じゃなかったわ!ーーあんた、ちょっと人の恋路を邪魔し過ぎてるって自覚しなさいって言おうとしてたのよ!」

「どこが?」


 今だって、裁縫道具貸してる最中だったぞ。


「バカね。今のは、頼まれても『今、道具がないから出来ない』が正解でしょ!なんで、道具出しちゃったのよ。そして、トドメに貸してるのよ。女の子は色々複雑なのに。嫉妬とか劣等感を持とうにもあんたが狙ってる男より、総合的にランクが上なせいでどう反応したら良いのかわかんないでしょ!見なさい。ーー必死に素直に惚れてみるか。このまま計算高く手ごろな男で行くか悩んでいる乙女の顔を!」


 後ろを振り返って友人と女子生徒を見たが……さっぱり、わからない。ただ、裁縫道具を借りて良いのか戸惑ってるくらいにしか見えないオレは、女心に疎いのだろうか。


「ふ、わかったわね」


 どうして、コイツが、こんなに自信満々なのかがわからないのも、オレの女心への理解力の低さ故だろうか。


「シーザー様、どうしたー?」


 ……オレを王太子とは信じていないが、貴族の位ではあると考えてはいるらしい下克上を果たしそうな学園(アカデミー)エリートな友人が、オレに制服を差し出して直してくんねえのって。……邪魔していいのか?

 そして、その様子にイリーナがチッと舌打ちしたのが聞こえた。と思うとおもむろに立ちあがり、友人に向かって突進していく。



「え、な、何?」



 突進するヒロインに真っ青な顔をしている友人の襟をガシッと掴むイリーナ。そして、かがめとでも命令したのか……いや、体制的におかしい。力づくに友人の顔が自分に近づくように引いたのか?

 おい。ソイツ、就職先、騎士団なんだけど!?



「え、いた……へ……ッはい!!」



 ひそひそと何を耳に囁いたのか必死に首振り人形よろしく頷く友人の肩を満足げに叩きながら解放し、オレの裁縫道具を女子から奪い取ってから戻ってくるイリーナ。ちらりと視線を友人に戻すと、引きつった表情のまま、女子生徒にボタン付けを頼んでいる。

 ………それで、何故、ぱあっと花が咲いたような笑顔で了承するんだ女子生徒。今の友人とイリーナとの不自然で恐ろしいやり取りはなかった事になるのか?



「まったく、あたしの手を煩わせないで欲しいわ」



 パンパンと手を叩き、イベント関係ないモブの分際でって呟くイリーナ。……どこかはオレも学ばなければならない事が有ったのに何故か学びたくないとプライドが刺激される。呆れた表情で屈んだままイリーナを見上げると、何故か、目が有った瞬間に真っ赤な顔され、どこかからぼふんって破裂音が。

 辺りを見回す。……うん。敵襲じゃないな。オレが安堵のまま、立ちあがりイリーナを見れば、イリーナが何故か頭を必死に振り、



「コイツはあたしの敵。逆ハー否定。むしろ、邪魔ーーあたしは、前世(過去)とは関係ない顔も性格も立場も良い男達をわしづかみするのよ」



 ぶつぶつ何か聞こえるが無視していいならするべきだろうか。



「ち、中身がシーザーのままなら多少罵りを堪能してから、腹が立ったら殴ってやるのに」

「普通に暴行か傷害でしょっ引かれるぞ」

「じゃあ、陰から狙うわ!」

「なんで殴る前提なんだよ!?」

「は、女に暴言吐いて悦に入っているナルシストに正義の鉄拳を」

「逆ハー狙う社会的にアウトな人間……いや、お前、横領してたんだろ。正義って自分で言ってて虚しくないのか?」

「ふ、バカね」



 何故かものうげに遠く見つめるイリーナ。



「……警察はここ(転生先)まで追ってこれないわ……」



 確かにそうだけど。ーー視線逸らしすぎだろ。そして、周りを見回して、いないわよね……って呟くな。お前。若干トラウマなのか。



「だから、国家権力にお世話にならないようにだな」

「そうね。その為のヒロインだわ」



 今生では真面目に生きろ手伝うからと口にしようとしたオレを遮り、握りこぶしを上げ、高らかには周りの目が有るから叫ばないと云う常識を持ちつつ……否、無かった。



「顔も良くて立場もある男どもをあたし(ヒロイン)の魅力で骨抜きにして、毎日気持ち悪くなるくらい愛の言葉を囁かせてやるわ……ふふ、ふふふ……うふふふーーあたしが法律!!」



 高らかに誰しもが耳にしたらやばい人認定される発言をガッツポーズとともにするヒロイン(イリーナ)にオレは反射的に拳を握りその拳をイリーナの頭上に落としつつ、力の限り叫んだ。






「アホかああああぁぁぁぁぁっ!!!」






 ゲーム開始時期になった。主人公(ヒロイン)と出会ってしまった。彼女は転生者で………ヒロインの頭に拳骨を落としながら思う。逆ハー阻止(更生)の道は険しそうだ。とーー、そして、なにより、






 それって、隠れキャラ(オレ)がしないといけない事だろうか?



「あ!!」


 拳骨の痛みから早々に回復したイリーナがオレを指し、


「あんたがヒロイン(あたし)を好きって言うなら、特別枠に入れるわ!だって、あんたを攻略したほうが色んな男にちやほやって前に……」


 反射的に二度目の教育的指導(拳骨落とし)を行ったオレは悪くない。


 そして、さすが癒し手(ヒロイン)だな。いったいわねって平気な顔で復活するんじゃない。反省してくれ。





ゲーム設定

主人公 イリーナ (名前はプレイヤーが変更可能)

王国マクシェルの都市から離れた場所で定食屋を行っている父親の手伝いをしている健気で少し天然の入って少女。癒し手としての才能と異常な魔力の目覚めたことで学園に特待生として入学することとなる。

能力の開花となるキッカケはゲームスタート時の一年前に盗賊に襲われその時の怪我で亡くなった母の存在があるが、その過去を主人公(ヒロイン)が克服するイベントはない。


本編



ゲーム開始前、転生者であるイリーナは主人公設定を思い出し、盗賊どもをフルボッコした結果、お母さんは、ただ今無口で優しい旦那様と一緒にかわいい娘のもとに婿養子にきてくれる子を希望中。


能力開花のキッカケは無くなったがイリーナ、「あたし(ヒロイン)にできないことはない」と自力で才能開花をさせる。

ただ、何故か最初から腕力が最高値に近いことに首を傾けている。


同じ転生者のシーザーの事を茶飲み友達あるいは逆ハーの壁だと思っている。



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