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竜と妖精 ②


 外出届けは視察という名目であっさりと許可されたので、貴方の領土にお世話になるからと王族的な言い回しで将軍に伝えにいくと、貴族スタイルで当日はお任せくださいとごねられなかった将軍に軽口を返されない関係なんだとちょっと寂しい気持ちになった。だが、それはそうだと納得し、その場をそのままにしてしまった。

 ……そう、ごねなかった理由を今まさに体感している。



「さあ、殿下!このままでは夜営の準備ですぞ!!」




 かーっかっかっ!とマーライオンが白馬を走らせ高笑いしている。

 おかしい。金棒の時に優雅がなんとか言ってたじいさんはどこ行った。

 オレはどうして王都からルーテンベル領土まで馬に乗って移動してるんだろう?

 確か魔力で動く移動陣があるから一瞬でつく筈だと、父上に説明されても……魔力を消費するから疲れたら護衛に言うんだよ。とお優しい言葉をいただいた気がする。

 なのに何故馬移動!?



「……シーザー様」




 隣で黒馬を操るフィンが話しかけてきたので、なんだ?とそちらに顔を向けると………クラウドが顔色を悪くし、うぷっと吐きそうになっている。

 文官寄りだもんなー。朝から馬移動でも走り続けたら体力消費するよなー。



「将軍」

「なんじゃ殿下」

「オレの講師が限界みたいなのだが」

「殿下、限界とは己が決めることではない。他人が止めるまで続ける事にこそ」



 話が長い。切ろう。




「わかった。将軍、オレはクラウドが限界だと思うので休憩した…」

「黙れこわっぱ!他人が他人の限界を決めるんじゃねえ!」



 今度は短く逆に切って捨てられた。

 ダメだ。ドーパミンの出すぎか話が通じない。

 ただ鍛練したいのみか。ーー仕方ない。

 オレは、オレを心配げに見つめている途中で合流してきたっていうかさせる気で準備させていたのだろうルーカスに頷き、促す。



「ルーカス」


 名を呼んだだけで力強く頷き、ルーカスは将軍に向かって口を開いた。



「はい。ーーじい様、疲れたので休憩したいです」

「よし、殿下。休憩じゃ!」




 シーザー・マクシェルは将軍の転がし方を覚えた。

 ……レベルアップした気にならない。


 通りがかりの森の近くの川ので顔色を悪くし、吐くのを堪えるクラウドの背中を擦る。




「吐いた方が楽になるぞ」

「シーザー様、そう思うのでしたら離れてください。クラウド殿が耐えているのはシーザー様が居られるからです」



 フィンの言葉に納得し、クラウドから離れるとルーカスがトコトコとオレの居た位置に場所を移し、代わりにクラウドの背中を擦っている。

 さすが王道ヒーローだな。労る事を知っている。



「……シーザー様の真似ですね」

「ん?」

「彼は身をもって感じたのですから、ここの様な場合には、どうするべきかをシーザー様を真似てみているのですよ。熱中症の時にシーザー様以外、迅速な対応をしなかったのですから」



 フィンの言葉になるほどと頷く。

 常識とは違っても誰かがお手本になったり真似したくなるように振る舞えば、ルーカスみたいに行動に移す人間も出てくるのか。

 オレが嬉しい気持ちで眺めていたら、フィンがぼそりと呟いた。



「真似をされる立場の人間なのですよ。シーザー様は。それが間違いであっても」



 ……キリキリと胃が痛むのは気のせいだろうか。


「しかし、オレが言うのもなんだけど、王子の移動に護衛が四人ってどうなんだ?」


 ルーカスは数えるべきでないとしたら三人か。


 フィンがふぅっと息を吐いて、半眼だ。続く言葉は冷たい。



「将軍が他の護衛の準備を終える前に飛び出したのをシーザー様が追ってしまったからじゃないですか?将軍の暴走はいつもの事ですので」

「追わなくて良かったのか!?」



 あんな全力で「儂について来い!」という背中に思わず馬を走らせたオレが悪いのか。



「それにここは本来のルーテンベルへ向かう正規ルートではございませんので。王都からルーテンベルクは急いでも三日は掛かる筈です」


 確かにものすごい獣道だった。父上に道の舗装を提言すべきか悩んだが近道だったのか。


「護衛より先に準備を終えていらっしゃったのも驚きでしたが」

「時間に余裕があるのは良いことだろ?」



 基本五分前行動だ!と胸を張ったら、フィンは黒の瞳をオレから、クラウドに向けて。



「……それに付き合ってしまわれたクラウド殿はおかわいそうに」



 クラウドもオレと一緒に準備していたからすぐに飛び出せたんだった。それを言ったらフィンの用意の良さはなんだ。



「ですが…」



 また、オレに視線が戻った。……いや、背中の物に視線が向けられている。



「何故、金棒を背負っているんですか」


 本気で呆れきった目だ。

 今度はオレが視線を外そう。……違うんだ。確かに金棒は個人の嗜みにしたがこういう王子としての公の場では最終的には細身の護身用の剣を持つ筈だったんだ。



「……馬上でも金棒を扱えるか試してみては、とマルコスに……で、そのまま」

「変態に付き合ったのですか?」



 同僚を迷いなく変態呼ばわり!?



「あれは責められると喜ぶのですよ。使いどころを間違わないと得難い人間性ですが、同僚だと思うと近づくのも嫌がる人間がいて、どう班を作るべきか悩みますね。まあ、私には今のところ関係ないのでアレックス様に投げていますが」



 ……オレの護衛にまともなのはいないのか。

 目がくりっとした茶色の愛馬の顎を擦っていたら、顔色が大分良くなったクラウドがこちらに歩いてきた。



「この辺りは、盗賊が多いと聞いたのですが、ルートが変則なおかげかおりませんね」

「オレがアレックスに適度に見回りに行けと背中を押しているからかな」

「脅しているのですね」



 どうして、物騒な言い回しにするんだ!?

 後、フィン、「クラウド殿、正解です」じゃないからな!



「ちっ、腕試しに盗賊狩りをしようとしていたのだがのう」



 不穏なじいさんは、ルーカスが少し眉を寄せて「とと様にシーザー様にお怪我がないようにと言われてるよ」と釘を刺されている。

 しかし、定期的に盗賊のアジトを潰しているのにすぐ復活するとは、リーダー格が捕まらないせいか。それともゲーム補正によるものか…。

 ゲーム開始の前に亡くなる設定のヒロインの母親の為にオレが出来る事はなんなのだろう?

 主人公の学園(アカデミー)入学一年前という事はわかってはいるが、季節がわからない。そして、オレは頻繁に城下から出るわけにはいかない。

 このまま盗賊の討伐をアレックスに任せるだけで良いのか…、将軍に領土なのだからと命令して他の事が疎かになるのも困る。ヒロインを見つけて気をつけろと言っても、信用してもらえるのか。もう少し、大きくなったらお忍びで来てみよう。その時の仮名はヤシチか立場的にシンさんにするべきか。いや、まだ居候先を見つけていない。どこかで住み込み賃金仕事(バイト)をして……宿なら掃除も洗濯も料理も……、



「何をお考えでしょう」


 ……意識が脱線していたようだ。



「いや、……あ!そうだ。フィンの弟の人を捕獲する植物をこの辺りに置けば盗賊が減る……うん、止めよう」



 フィンが笑顔なのに怖い。

 この護衛の機嫌を損ねてはならないと本能が訴えている。



「シーザー様、痛む所はありませんか?癒し手には劣りますが多少の治癒は出来ますので」

「いや、特にないぞ」

「……本当ですか?」



 何故疑うような目付きなんだ。本当だぞ。



「馬上で擦りむいたり」



 言い辛そうに……あー、け………乗馬あるあるだな。だが、安心しろクラウド。擦りむいた場所などない。



「エアクッションで防護していたから大丈夫だ」

「「エアクッション?」」



 二人からクエスチョンマークが見える。ふ、乗馬を初めて体験した時に思い付いた小技だ。



「鞍の上に風魔法で空気のクッションを作ってだな」



 ……何故、説明を始めた瞬間から死んだような目をするんだクラウド。

 フィン、肩を叩いて「頑張って聞きましょう」じゃない。

 オレ、今回のはかなり自信があるんだぞ。



「ほら、触ってみてくれ」



 風魔法を唱えて、鞍の上に固定させていた風のクッションを差し出すと、クラウドが「あ…、もう良いです」と、拒否するだと!?

 フィンは、オレが差し出したエアクッションをふかふかと興味深そうに弾力を確かめている。



「クラウド殿、確かめもせずに拒否はしない方が……」

「いえ……、違うのです……わかっていたのです。なんとなく、いつか、馬車などでそのような事をし始めるのではと……なんとなくで、シーザー様の発想を先読み出来た自分が辛い」



 目元を抑えて、考えてはいたのです……っと悲痛なクラウドの告白にフィンも自分の目元を拭った。

 クラウドの発想の幅が広がってよかったとはならないのか……。

 オレ的に風魔法ときちんと向き合った結果だった分釈然としないぞ。




+++++++++++




 適度に休憩を取りながら領主の館を訪問した瞬間、待ち構えていたルーカスとよく似た容貌の男ーールーテンベル領主が真っ青な表情で将軍を怒鳴ろうと息を吸い、……夫人に先にオレだろうと肩を押さえられ、挨拶してきた。



「父が王太子殿下に大変なご迷惑を」

「安心してくれ。いつもの事だ」



  ……沈痛な表情をされた。

 どうも、オレは一言が間違っているらしい。

 慌てて、クラウドとフィンにフォローを任せると、クラウドが頷き、



「将軍は、シーザー様に特別お目をかけてくださって…」

「ふん、半日でここまで来られんとは、まだまだなガキだ」

「……」



 クラウド、固まるな。舌先三寸でどうにか誤魔化せ。フィンが懐からソッと手紙を出し、「陛下と宰相様がお身体を鍛え直したいと望むシーザー様のお気持ちを尊重する。と云った内容となっております」と……、父上とじいちゃんの先読み能力がオレも欲しい。

 夕食は、体育会系が多い土地柄なのか肉一色だった。さすがに腹が重たい。

 明日から領土を見て回る事となったが、オレ的にルーテンベル領で気になるのは『魔剣』と『(ドラゴン)』と『主人公の母親』だ。

 どれも、流せない出来事だ。

 まあ、色々ごねられたが地下の剣収集場(コレクション)に入っても良いと言われれば、オレは一目散に問題の『魔剣』が飾られている場所に……行けなかった。

 かび臭く埃っぽい地下室ではないが無造作に置かれた剣と槍の山。




「将軍」

「なんじゃ」

「片付け下手なのか?」


 部屋いっぱいの槍やら剣にしかめ面になってしまう。さすがに部屋としては掃除されているが。



「老後にゆっくり並べる予定だ。家族はルーカス以外興味は無いし、手入れの知識も無い奴らばかり雇う…儂に気に入られると辞めるに辞められない場合が出来てかわいそうとかでの」

「え?引退する気あったのか?」



 フィンがそっとオレの口を塞ぐ。生涯現役とか言い張りそうだったのに。「儂はそのつもりだったが、陛下が『国王より偉そうなのが居すぎる!』と嘆いたのでな」



 ……居すぎるって事は宰相と将軍以外にもいるのか。父上には後から胃痛薬でも届けさせよう。王位第二継承者の父上が若い時に王位は継がないと、家臣のような振る舞いばかりしていたせいで特に武功を誇る人間は、父上を王として崇めきれていないらしい。……父上の兄は確か恋に生きたとかなんとか……ダメだ。思い出せない。


 魔剣を探す。……わからないな。


「なあ、将軍」

「なんじゃ」

「禍々しい存在感を放つ奴とかないか?」



 フィンとクラウドが迷うことなく将軍を指した。



 おーい。



 一緒に来てくれたルーカスが将軍の手をそっと握って抑えている。領主夫妻も将軍を抑える事が出来るのはルーカスだけだと思っているのだろうな。



「二人とも、人を差したりしちゃダメなんだぞ」

「殿下、注意する所はそこだけか!?」

「あと将軍にはついては、わざわざ確認しないでも知ってるから」



 ここまで存在感を放つじいさんもいないだろう。

 顔をゆでダコのようにした将軍をルーカスが抑えつつ、……悪いルーカス。

 薄暗い地下を『灯り(ライト)』で照らしながら歩く。

 ーーこれについて『灯りも立派な生活便利魔法だと思う。だから、オレの発想もそのうち普通になる』と主張したら、クラウドに真顔で『では、シーザー様から発案したと宣言なされなくても宜しいですよね』と流された。

 別に流行りになりたい訳じゃないが、オレの扱いがぞんざいになってる気がしてならない。

 しかし、ないなー……『魔剣』の癖に存在感がない。まさか、まだ購入前か?


 しばらく、探していると



「シーザー様」

「なんだクラウド」

「フィン殿が居りません」

「ん?迷子か」

「あり得ませんね」



 クラウドがばっさり切った。

 確かにフィンが迷子はあり得ないか。



「なら、オレ達が迷子か」

「将軍はこちらですので、故意にはぐれたと思われます」



 クラウドの言葉に将軍が暴れないようについてきてくれたルーカスが答える。



「フィン殿は先ほど『弟の気配がする』と、表情を変え、あちらの部屋に走って行きました。……シーザー様に万が一がないように遠くに避難するようにとも」



 ……フィンの弟、兵器か何かか?



「居るなら挨拶した方が」

「いえ、常識的に居たらおかしいです」



 確かに。

 そうなると、フィンの弟に似た気配がルーカスが指した先に存在していると云うことか。



「よし、行くか」

「何故ですか!?」



 クラウドが悲鳴のような声をあげたが、気にしてはいけない。

 それにオレの背中には日本古来よりの最終兵器がある。



「大丈夫だ。多少の敵ならこの金棒が殺ってくれる」



 見ろこのトゲトゲしい物体を!とわざわざオーダーメイドし、赤鬼さんと青鬼さんも古くから愛用している逸品に仕立てた作品をクラウドに高々と持ち上げて見せると、



「……あ、もう良いです」



 目が死んでるぞ。



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