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十歳 竜と妖精 ①


 接待料理と云うものをした。

 野菜も肉も切って有るものが小鍋に入っている。水も入れてあって、はい煮込んで、味付けしてね。だ。ーーキレかかった。



「己、副料理長!!しばらくの敵は決まった!!」

「しばらくで良かったです。」



 ストレスのまま兵舎の掃除をすると、なんと云うことでしょう。埃も洗いものの山もなくなり、気分的にピカピカに輝いて見える。今日の勉強を全部無しにしてくれたクラウドのおかげだな。機嫌悪くしてたせいだってわかってる。すまん。

 まあ、ものすごくイラっとはしたが、売られた喧嘩に負けじと出来る範囲の調理をしようと捨てる予定の野菜の皮と鳥の骨を貰いさんざん煮込んでブイヨンを作り、塩で味を調えるくらいはした。煮込んでいる間、無言で恐ろしかったらしいというクレームを頂きながら、出来上がった三人分のうちの二人分をクレアとカインに押し付け、そのあと、自室に一人分持って行っていまだに姿を見せてくれない助言をメモにして残してくれている相手にお供えしておいた。三人とも無反応だったのだが、オレの機嫌を伺わなくていい立場ならそんなものだろう。………美味しくなかったんだろうか。やっぱり、怒りのままに料理は作っては駄目だな。反省しよう。




「シーザー様、足は痛んだり……」

「え?あー……掃除してたら治った」

「普通、逆ですよ」



 ひそひそと足の心配をして、オレの返事に苦笑するフィン。しかし、『呪い』め。オレになったから消失したとかじゃなく、オレが基本的にお調子者だから収まっていただけか。しかし、料理出来なかっただけで機嫌悪くなるオレって……。いや、まて。理由も納得できなかったからだ。



「剣ぶんまわして鍛錬してるオレに『包丁などで怪我をされては、と身を案じ』ってなんだよ。意味わかんないよな」

「鍛錬を再開する前でしたら通じた理由ですが。副料理長もタイミングが悪い」

「でも、そうせざる得ない理由もわかった」



 見習いの気持ちを考えたら、王族が気まぐれで厨房に立って自分たちですら出来ない事をやろうとしていたら面白くない。いや、むしろ、立場がある料理長や副料理長の方が面白くないだろう。オレの厨房での料理がしたいと云うのはやめた方がいいのかもしれない。………でも、オレらしく生きる為に制限したくない。



「これが許されざる愛と云うものか……」



 したり顔で頷く。引き裂かれる運命、だが、オレは抗って見せよう。そう、料理に対するこの愛、成就させてみせる!!

 握り拳を高々あげ宣言する。



「フィン、オレはやる!!」

「そうですね。気位の高い連中は無視して兵舎の厨房など使用許可を将軍とアレックス様に頂いてみるなどいかがでしょう。」



 困難な愛がいきなり簡単になった。握った拳をどうすれば…。



「え、ほら、こういうのってもっと困難なものじゃ……」



 あんまりにも理解がありすぎるフィンにオレが困惑する。



「『呪い』が発動するくらいですし」



 さらに苦笑を深めてフィン。『呪い』の発動条件をクラウドとフィンには言って置いたが、まさか、『呪い』に感謝する日が来るとは!!



「マジでいいのか!?」

「はい。このままだと城外に脱走しそうな勢いだと云うこともあります。私がいない時ほど姿を消されると愚痴られると正直面倒ですし」



 にこっと、フィンが軽くオレを責めている。仕方ないじゃないか。フィン以外は本当に脱走が楽なんだぞ。むしろ、フィンがどうして、オレの行動を先読みしてんのかが知りたい。



「どこに身をお隠しになっていらっしゃるのですか。」

「ああ、最近は庭師に無理を言って空けて貰った花壇スペースに畑を作っているんだけど、そうだ。フィン、何か植物の種を」



 フィンが無言でオレを樽抱きをし、祈祷師の元に運んでくれた。………どこが問題だったんだ。いや、結果的に植物の種を融通してもらえることになったから結果オーライか。






+++++++






 アレックスに兵舎の厨房を借りれないかという交渉をしに執務室に来たが、難色を示された。



「殿下、一回の嫌がらせで折れてたら男が廃るぞ」

「ちょっと、どこでリカバリーできるか難題過ぎてな」



 大量の書類に囲まれ………机、埋もれてるな。髪も瞳も灰色な偉丈夫は鋭い瞳を向けてきた。まったく恰好ついていないが。



「また、溜めたのか。アレックス。こういうのは後からにしようって気持ちになるから溜まるんだぞ」

「あーあー、聞こえない。つーか今、大概の人間が耳を塞ぐ内容だぞ。殿下」

「ちゃんと聞こえて反論してるじゃないか。まったく、計算くらいは出来るから、手伝ってやろうか」

「マジか。殿下!?」

「シーザー様、甘やかさないでください」



 バンっと机を叩いて立ち上がったアレックスと駄目だと云うフィン。机叩いたせいで書類が崩れ落ちたので拾って整える。……『お前のかーちゃん、でーべっそ』って落書きがある。これ、アレックスが書いたのか書かれたのか。どっちだ?



「なんだよー、フィン。良いじゃんか」

「十歳の子供に甘えないでください。」



 ぶーぶーと文句を云うアレックスにフィンは冷たい。



「後、お前に見合い話があるんだけどー」

「弟と一緒で良い相手ですか?」

「………なかった事にするな」



 ぴらぴらと見せた書類をあっさりと下げるアレックス。



「複雑な家庭なのか?」

「ちょっとなー、フィンの弟、殿下と別な意味で変わってるしな」

「そうか。それは大変だな。フィン」

「ご自分が変わっていることをあっさりとお認めにならないでください」



 ポンッと、フィンの背中を叩いてどんまいって言ったら、フィンが頭を押さえてため息を吐いた。



「変な植物育てて喜んじゃう子でな。この前、蔦が伸びる人捕獲植物育てて騒ぎになったなー」

「それ、変って段階超えてる」



 何のんきに言ってんだ。



「面白かったから、山賊のアジトにおいてきたけど、あの後、どうなったんだろう」

「まさかの放置か!?」



 オレの驚きの声を放置し、うーんっと、背中を伸ばすアレックス。慌ててフィンに助けを………あれ、確かそんな依頼イベントがあった気がする。確か『商人を阻むもの』……もっと長かった気がしないでもないがイベント。ーー犯人、お前か!?

 思い出した瞬間のオレの行動は速かった。



「吐けー!!どこに置いてきた。つーか、今すぐ撤去してこい!!師団の責任で処分してこい!!減給すんぞ!?むしろ、一人で逝ってこい」



 最低でも八年放置か!!思わず、椅子に座っているアレックスの首襟掴んでがっくんがっくんと揺らす。何一般人に迷惑かけてる。そして、あのイベント解決しないと新しい料理本が手に入んないんだぞ!?



「ぐえ、お、落ち着け」

「減給だけで済まさないでください。シーザー様」

「う、裏切るのか。フィン」

「弟の変な植物を買い取っている犯人が分かって助かりました」



 にっこりと、フィン。まだ、有ったのか。



「後、何買い取った!?」

「動いて増える茸」

「気持ち悪いもん買うな!!」

「食えたぞ?」

「「食べるな!!」」



 フィンまでツッコんだ。茸は駄目だ。……何が駄目なのか。何故このタイミングで母上の顔がちらつくんだ。やばい。今更、魔法で出した水を飲んだ事を白状した時のクラウドの気持ちがわかった。

 アレックスがちょっと具合悪くなってきたというので、冷静になって手を離す。



「フィン、弟の魔改造どうにかならないのか」

「時々使えるものを作るので、なんともなりません。あの子が『ふははははっ』と高笑いしながら作った時は何故か異様なモノが出来上がる確率が高いので、その時は処分しております。……時々、やけにしぶといので退治に苦労致しますが」



 フィンの強さの秘密を垣間見た気がする。なるほど、家でも鍛錬しているのか。



「オレ、ちゃんと普通の植物育てるつもりだから」

「弟も同じことをよく口に致しますけど」



 どうやら、植物を育てることはフィンに取って地雷らしい。にっこりやんわり否定しやがる。



「まあ、あれだ。アレックス、この件を父上にばらされたくなかったら兵舎の厨房を使用できる許可をくれ」

「シーザー様、何しれっと脅しているんですか」

「くっくっく、良い脅しだな殿下。将来が楽しみだ」



 あくどくニヤッと笑いあうオレとアレックス。と呆れ顔のフィンーーそれはともかくとして、



「やっぱり、気になるからこの書類整理手伝うが、次からはきちんと自分で片づけてくれ」

「マジか、殿下!!愛してるっ!!」



 思いっきりはぐされ、わしゃわしゃと頭を撫でられた。まったく、と呆れるとフィンがあーあって顔をしている。



「子供の尻拭いをする親みたいです。シーザー様」

「いや、待て。アレックスは父上と同じ歳」

「いや、二つ上だな」



 にかって、満面の笑顔なアレックスに………うちの国は大丈夫だろうか。割と本気で。






+++++++




 オレの兵宿舎の厨房を借りれないかという頼みに意外にも将軍は好意的だった。



「兵の持ってくる材料を調理致すのですな」

「なんだ、材料まで用意してくれるのか?」

「殿下がどう用意されるおつもりですか」



 確かにそうだが、うまい話しすぎる。詐欺かと勘ぐってしまったが、フィンが珍しく将軍の鍛錬に着いてきたかと思えば、微妙な表情で「なんて、嫌がらせを……」と呟いた。



「ちょうどほれ、ルーカスが狩りをしてきたものが有るので、調理してみなされ」

「狩り?」



 将軍に言われ、ルーカスが血抜きは終了しました。と、差し出してきた物体に思わず呻いてしまった。首無しの鳥って、ぐ、ぐろい……。しかも、結構なでかさだ。オレの半分以上はある。



「どうしましたかな。殿下」

「……」



 思わずドン引いてしまったオレの横からフィンがルーカスから鳥を受け取り、しばらくお待ちくださいとどこかに持っていこうとしているが、オレは慌てて待ったをかける。



「処理なら手伝う!!」

「ご気分が悪いのでは」

「大丈夫だ。いや、むしろ、オレの戦いはここからだ」



 自分でもだいぶ混乱していると思うが確かにこの世界観で生肉がトレイに入って売ってるわけがない。処理を覚えなければ、料理など出来ない。オレは覚悟を決めた。



「シーザー様、では、まず、足を切って」

「……すまない。羽を毟るところからでいいか……」



 ちょっとまだハードルが高かったけど、そのうち……っ。






 厨房に移動し下処理を続けた結果、視覚的要素がどれだけ大事かよくわかった。かるく鳥を湯がいて羽をむしり取った後に出てきた鳥肉の姿にオレは軽く感動した。そうだ、オレが求めていたのはこの姿だ。



「では、内臓の処理を」

「ああ、そこからは一人で出来ると思う」



 鼻歌まじりにフィンが渡してきた短刀で下処理をしているオレの姿を見ている護衛がドン引いてる。



「あ、あんなに楽しそうに死体解体を……」



 何かおかしいこと言われてるが、気にしては駄目だ。いや、なんで。料理してるってわかってるだろ。ルーカスが生肉をじーっと見つめている。お腹がすいてるらしい。



「えーっと、ルーカスが狩ってきたのか?」

「はい。とても美味しいので」



 返事がずれてるように感じるのは気のせいだろうか。将軍がオレとルーカスの会話をじーっと熱い嫉妬の視線で眺めている。



「ローストにしようと思うのだが、すぐには」

「大丈夫です。待ては出来ます」



 よだれを流しながらそう言われても説得力がない。それにしてもこんなローテンションな性格じゃない筈なのに何故、ぽけーっとしているんだろう。



 いや、やっぱりお腹がすいてる人間がいるのにオレの欲望優先はないな。



「す、すぐに出来るものに」

「シーザー様」



 いきなり、キリッっと表情を改めるルーカス。



「美味しいものが出来るというならば、妥協は致しません」



 ………何か、どこかおかしいセリフなんだが、どこをツッコめば良いのか悩み、そして、少しふらふらしている様子に有る可能性を感じて言ってみることにする。



「妥協しないも何も、ーー眠いのだったらひと眠りしてみては?」



 オレの言葉にポンッと手を打つルーカス。



「おやすみなさい」



 ぺこっと頭を下げるルーカス。………ふらふらっと、将軍の近くに行き、持たれるようにその場で寝てしまった。フィンが上着をかけている。良いのか。そこで寝かせてて。そして、やっぱり眠かったのか……。どうも、自分の体調に気が回らない性格みたいだ。いや、確かに思い出してみればルーカスのイベントって基本がそんな感じだ。ともかく手柄を上げたい。強くなりたい。そんな感じの……そういえば、あいつがヒロインの初恋相手になる相手でOPで再開イベントがあるんだった。



「腹を切った後は何を」

「肉を洗って、水気を切った後に塩と……こしょうはないんだった。で味付けし、腹に香草を詰めて、ローズマリー、クミン、オレガノ……」



 胡椒は、主人公の教養がちょっと上がってから手に入るんだった。ん?黒コショウがだっけ?まあ、お菓子の材料は事欠かないのに普通の料理の材料は意外とイベントに組み込まれていたりする。面倒だ。理由がわかっているから潰してさっさと流通させよう。ーーアレックスのせいも含まれていた事がわかったから、積極的に協力してもらわないと。



「ここに有るのは毒消しと飲む薬草と腹下しを直す香草と、塗り薬に使う薬草……薬草しか有りませんね」

「……それ、料理に使って大丈夫なのか?」

「いえ、使用なさってほしいといっておりません。ただの状況の確認です。ご用意致しましょうか?」



 とりあえず、口に出来るならと毒消しの味を確認してみる。……うん、何かのハーブっぽい味がする。とりあえず、全部口にしてみた。フィン含む護衛が、先に毒味をしているが、ちょっと恨みがましい目をしている。



「……毒消しは使えそう」



 一番それっぽい味の毒消しを入れ、切り口を絞り、肉の表面は塩で味付けし、そこではたっと気づく。



「……オーブンがない」

「さすがにそこまで本格的なものはここには、ーー他の料理に致しますか?」

「いや、ちょうどそこに肉を串させそうな槍があるじゃないか」

「………儂の槍を何に扱うつもりなんじゃ」

「夜間訓練などで時々そのように扱うので問題有りませんよ」



 しれっと、フィンが言うので将軍がぐっと詰まった。使い方の否定がないなら問題ないな。と借りる。

 槍で鳥肉を串刺しにし、たき火を外で行う。結局、厨房あんまり使わなかった。槍を薪の上でくるくると回せるように槍をもう四本持ってきて、Xの字にし、その上に肉を刺した将軍の槍を置き、じっくりとローストしていく。



「……一国の王子が兵舎の前で鳥肉を焼いてる……」



 誰かが呟いた。そういわれると確かになかなかシュールな絵面だ。しかし、火加減がなかなか難しい。焼き加減がよくになるにつれて、この場にいた人間が薪を持ってきたり、火加減の調整をしたり……最終的にオレが魔法で一定の火加減を維持してみたり、くるくる焼き加減を見ながら槍を回し、



「……これ、多分、訓練所に匂いいってますよ……」



 フィンが、かわいそうにって。いや、知らんから。……うん、後から料理長にその日に兵たちからチキンローストの注文コールが殺到したって愚痴られた。……副料理長も苦労したらしいからちょっと溜飲が下がった。



 じっくりと時間をかけて出来上がったこんがりローストチキン。ちょっと焦げ目があるのもご愛敬だと思って、パリッとおいしそうな部分を起きたルーカスに渡す。



「もぐ……」

「いただきますって言ってから食べなさい」

「はい。いただきます」



 素直だ。けど、はふはふしながら物凄いスピードで肉を食べている。骨だけになった部分を名残惜しそうに見つめていたかと思えば、



「おかわりをください」

「うん、……いや、ルーカスが採ってきたものだから良いんだけど」



 護衛に渡した分より多めだったのにあっさりと消化してしまった。



「なあ、ルーカス」

「はい」

「なんで、そんなに自分を押し殺しているんだ?」



 オレの言葉にルーカスが目を丸くし、うーんっとと考えている。



「とと様に」

「うん」

「じい様がかなりシーザー様のご機嫌を損なうことをしているんだから。お前まで失礼なことするな。と言われました」

「ん?どこが」



 オレが将軍の機嫌を損なうことをしていても、……違うな。立場的にはそうだった。将軍は、はっきり、カインが王位を継ぐべきだと応援してるんだった。それだと、オレ相手だと気まずいか。



「なので、失礼をしないように考えてから話しております」



 頑張ってます。とのルーカスの主張にオレは脱力した。正直すぎるし。そうかー。オレのせいか。でも、それだと、オレが気持ちのままにルーカスにいつも通りにしていいんだと言えば、オレの取り巻きにしてしまうんじゃないか。それって、将軍がオレの事を嫌っている今の段階だとルーカスの家的に不和を起こすんじゃないか。……考えてみる。……うん。



「わかった」



 オレだけでは、どうすればいいのかわからないから宿題にしよう。

 フィンが、呆れた顔をしているが駄目とは言わないので、とりあえず放置で。




+++++++




 なんて、のんきに考えていた日もあった。



 自室の机上に小さなメモ紙が置いてあったのでそれを読む。



『竜の卵、ルーテンベル領で育っている』


 ……あー、ルーカスさんのイベントが着々と準備されてるのな。と、一瞬遠い目をしてしまった。


 外出許可ってどうやって貰えるんだろう。

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