閑話 現在 主役不在の学園で (第三者視点)
頼む。どっか遠くでやってくれ!
寮住まいの学生の大半が休みだとはいえ、世話になっている食堂で鉢合わせたらしい犬猿の仲……かと、思われている我が学園の双子の王子様(笑)と姫君(真剣)と今は友好国の帝国の皇女様であるリリアンナ様とその弟、銀髪の黒曜石のような瞳でお母さんとかわらない高い身長と引き締まった身体のエルトシャン様ことエルトンが、バチバチと火花をお互いの視線から出している。ーーいや、リリアンナ皇女は途中でエルトンの後ろに隠れてるけどーっ。あ、俺とエルトン、学友でーす。あの長髪、結ぶくらいなら切ればいいのにっていつも思っていても口にしない。だって、エルトン目付き悪い。口出し怖い。口に出来る強者はいつも年上のあの方だ。
「おい、ちょっと寮に行って、お母さん連れてこいよ!」
「ダメだ。気が利いてさっさと助けを求めに行った奴等が泣きながら『夕飯までには戻るから』って、伝言が有ったらしいと。今日はお母さんが出掛けてるらしい。くそっ、今日は一緒に洗濯して貰おうと思ったのに」
「馬鹿な。俺なんか部屋が汚すぎて、そろそろどうするべきか相談しようって思ってた」
「お腹すいたから、チャーハン食べたいって頼もうと思ってた」
「それより、肉!!」
「ハンバーグ!!」
「「「カレーライス!!!」」」
欲望を口にしていたら、我らの女神クレア様に睨まれた。正直ご褒美!ありがとうございます!!と男子生徒の心からのお礼にドン引いてる。俺だけじゃないから、特に問題はない!!
「クレア、あのかわいそうな方々の相手をして来たら良いんじゃない?」
「は?相も変わらず頭のお可哀想な事を言うのね。カイン。あのような輩をどうして、高貴なわたくしが相手せねばならないのかしら」
「お似合いだから」
「消し炭にされたいのかしら」
「その前に僕が君を切り刻むよ」
睨み合う双子。おかあさーん。お宅の双子が物騒で泣ける。
「あ、あの…っ」
誰もが双子の殺意で動けずに居た中果敢にも飛び込むコウサギちゃん。そのツインテールが、……何故だろう。ものすごくボリューミーなのに透くこともせずに艶やかに先端がキラッと輝いていて……うん、あのツインテールは取り外し可能で、敵の体を貫く効力があるんだな。お母さんのせいで余計な先入観がついてしまった。
「しーざーしゃま……っ、じゃなく、」
「馬鹿姉。喋んな。シーのとこに行くのにいちいち邪魔すんじゃねえよ。ブラコン双子」
「「なっ」」
エルトンが、せっかく可愛く噛んだリリアンナ様を馬鹿呼ばわりだと!?
貴様ーっ、あとから告げ口してやる。お前が、お母さんに頭上がんないの知ってんだからな!
「誰がお兄様が好きなのですか!訂正なさい!!わたくしは、あのちょっと……お、お優しすぎて……ではなく、王家の誇りを蔑ろになさるお兄様に王家の人間としての、」
「兄上が好きなことを侮辱されるいわれはない」
顔を真っ赤にして、しどろもどろ言ってるかわいいクレア様を無視してきっぱり、カインが言い切りやがったーっ。ほら、クレア様のショックそうなお顔。かわいーっと全体的にデレーッとした空気。どんなアクシデントも我らの女神の可愛らしさが損なわれることはない。
「クレア様、最高です!」
「まじ、女神!!」
「結婚してください。いえ、愛人でもいい」
あの、腹黒い婚約者がクレア様の後ろに控えて居ないせいで我ら『縦ロールの女神を愛でる会』が好き勝手に言っている。ついでにこの会が活動できる時間は少ない。お母さんか腹黒に発見されるとお母さんは、拳骨で済むが、腹黒はヤバイ。何がやばいのかはわからないが、本能が逃げろって訴えるくらいにヤバイ。
リリアンナ様だけかわいそうな空間になってる。
「だいたい、その引きこもり皇女様がなんで部屋から出てきてるんだい」
カインにギロッと睨まれた皇女様がビクーッと体を震わせ、エルトンの後ろに隠れた。確かに珍しい。下手をすると授業中くらいしか姿を見せない方だ。
確か裁縫の腕を磨く為、対人と接触する機会が減り、「ひと、こわいの…」と、呟き、引きこもってるとエルトンが言っていた。
何故、そんな事になったんだろう。帝国の女性が裁縫をたしなみにしているのは、知っているが皇女様はすでにその域を遥かに越えている。前にとある夜会に訪れた伯爵令嬢のドレスを仕立てあげたのは、リリアンナ様らしい。細かい刺繍と上品に宝石を縫い込み、それはそれは美しいドレスだったとお母さんが言っていた。ニコニコしながらリリアンナ様の仕立てたドレスを語るお母さんの優しげな目は。……保護者的な表情だった。いやマジで。
それにしてもお母さんお母さん言い過ぎて、マザコンの気分になってきた。あの人、男なのに。
「シーに視察に誘われたんだと。一緒に学園から行こうと思って出てきたらしいんだが」
「視察…」
「兄上、僕は誘ってくれなかったのに」
ギリッと歯を食いしばる双子。しかし、ここで問題が出てきた。
「エルトン」
「俺をエルトン呼ぶんじゃねえ!」
素敵に睨まれた。まあ、エルトンったら照れちゃって。真っ赤な顔で恥ずかしがっている。
「シーザー様、もう寮から出ていったよ」
「は?」
あ、真っ青な顔でリリアンナ様が倒れた。
「おい!リリー!?倒れてる場合か。待ち合わせ場所に行けば良いだろ!?……は?怖くていけない?意味、わかんないからしっかりしろ」
必死にリリアンナ様を立ち上がらせようとしているが、ぷるぷる震え「おうち帰る」って……。リリアンナ様がメンタル弱い。
「ふん、この程度の事で帝国に帰るなんて、後から精神が落ち着くような香を届けるから、それでも焚いて自分の立ち位置を考え直しなよ」
カイン、微妙に嫌味なのか優しいのか?
「まあ、後からハーブでも届けますわ。それでも飲んで気分を直しせいぜい職人泣かせな裁縫の腕前を披露なさって、わたくしとカインとお兄様以外に称賛されてくださいまし。おーほっほっほ…ゴホッ!!」
高笑いに失敗して、咳き込んだクレア様。カインが咳き込むクレア様の背中を擦っている。
「クレア。喉の調子が悪いのなら、高笑いは止めた方が良い。馬鹿みたいだよ」
クレア様が、ぷるぷると戦慄いている。羞恥心のまま持っている扇をカインに見立てているのか両手で折ろうとしているが、力が足りずに折れなかったようだ。カイン、「代わりに折る?」は、優しさじゃない。
「あ、そういえば、シーザー様、最近一緒にいる女子生徒も誘ってなかったか?」
下火になりつつあった火種を誰か馬鹿が燃料投下しやがった。
誰かわかったのかクレア様がさらに震える。
「~~あの、庶民!お兄様にベタベタして!!お兄様のあのようなお顔!いつも、控えめでお優しくて、頼りがいのある男らしいお兄様が!あの女の前でだけは、本気の呆れ顔と真剣な眼差しで何か『ぎゃくはーが』どうのと親身に………憎いっ。お兄様の手を煩わせる全てをこのクレアが打ち払って見せますわ。立場を理解させるためにもせいぜい男爵か子爵ー…騎士団の中の有望格を集めて、ゴウコンなるものを開催して参加するように言わなくてはー…。まったく、お兄様に叶わぬ恋などせず、身の丈にあった恋愛なら応援して差し上げますけど」
ふんっと、鼻を鳴らすクレア様。……この方、お母さんがいないと全開だな。しかも、これでお母さんの事好きですねってからかうと得意の火の魔法で焼き払おうとしてくるから恐ろしい。カインはお母さんがいない時の方が大人しいほどだけど。
「ふふ、エルトも、お国のそこそこの家柄の有望格をご用意くださいまし。女性にだらしない男性は弾いてくださいね。お兄様の一応ご友人なのですから、変なのに引っ掛からせては顔向けができませんわ」
おーほっほっほっと高笑いと咳き込みを繰り返しながら言いたいことだけ言って去っていくクレア様。あの方、ご自分が最近『縁結びの女神』って有難がられてるって知ってるんだろうか。
残されたカインが、エルトンに近づき、
「ねえ、エルト、僕居た方が良い?皇女一人で寮に戻せる?」
「は、お前なんかに借りなんか作れるか」
「……そう言いながら、人の服の裾掴むのやめてくれない?」
呆れるカインにエルトンが、半泣きで。
「ばかやろう!!帰るときに一人になっちゃうだろ!?」
………おかあさーん、お友達のエルトンにカッコつけるなら最後までしなよって言ってください。
学園、今日も平和だな……。
++++++++
そのころのシーザー達。
「くしゅんっ!!」
「風邪か?」
「あー……なんか噂されてる。可愛いって罪よね」
「なんで良いほうになんだ。しかし、ドリコちゃん、来なかったな」
「嫌われてんじゃない?」
「……確かに最近、目も合わせてくれない」
「そういえば、あんたと同じ隠れキャラが弟よね。どんなの?」
「うーん…………」
イリーナの言葉にオレは、ちょっと考えてから
「ああ、お前よりヒロインっぽい」