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問題提起 中編

 日課だった朝の白湯を父上に持って行く役割を母上に泣き脅しされ譲る事となった。宰相がGoサインを出したらしいので譲ったら、犬なら全力でしっぽを振っていそうなくらいの満面の笑みを浮かべて「シーちゃん、大好きですわ!!」と、……ゲームシナリオの恐ろしさを改めて認識した。ない。あの母上が浮気なんてない。どんな流れがあったんだ。子供でも誘拐されたか。カインのイベントだから、オレか、クレアか。……クレアを守れるくらいに強くならないと。

 オレは別な日課であるラジオ体操を自室で生暖かい視線にさらされながらも勤しんだ後、梅酒もどきの中に入っている梅を確認する。……また、無くなっている。そして、小さなメモが『別な物はよう』……そろそろ、別な差し入れがほしいようだ。護衛を伴って訓練所の方に足を向ける。シーザーって基本運動不足なスケジュールなんだよな。理由はわかっているが、やりたくないことが有るのでどうしても訂正する気にならない。

 ダンスやだなー。コサックダンスで許されないだろうか。一人で踊れって言われた方が気が楽だよな。エアーで踊れるくらいになるから許可してくれないかな。とぶつぶつ言っていたらこけそうになったので、護衛の一人に「失礼します」と姫抱っこされかけ、ものごっつう暴れて止めさせた。………訂正を早めにしないといけないと危機感を持てたぞ。



 そして、只今。

 オレは師団にいる兵たちに恨みがましい目を向けられているんだ。父上の本格的な打ち込みを見に訓練所まできたオレに視線が集中している。わざわざ訓練を止めてまでオレを見る理由をフィンが聞いてくれたが、必死に笑わないように我慢してやがる。口端が上がるのを必死にこらえて曰く、



「殿下がいつも煙に咽ているのを見ていたら、燻製ってあんなかわいそうな目にあって美味しくなってくれてたんだって思うと涙が。これからも酒のツマミとして美味しく頂かせて貰います」

「王妃様の肌の露出が減って悲しいです」

「『ご飯をちゃんと食べないと大きくなれないぞ』って、田舎の母ちゃんみたいなこと言うから、おうちに帰りたい」



 ………最後だけは謝っても良い案件なのだろうか?そして、最初の奴は何が言いたいんだ?真中は論外。



「一番多い恨み言は、王妃の露出面積が少なくなったことですね」

「そうか。ーー冷水でも頭から被って貰ってすっきりとさせてやろうな。フィン」



 今日はちょっと陽射しがきつい気がする。陽気で浮かれているらしい兵たちに冷水でも食らわせてやろう。きっと、正気に戻るはずだ。空を眺めたら雲一つない晴天で、あー、干したての布団に突っ込んで寝たい。



「ご命令とあればーー、で、いつ頃冷水に頭から突っ込ませれば宜しいのでしょうか」

「ん?」



 平和だなって和んでいたらフィンが物騒な事言い始めた。ど、どうした。クラウドが移っているぞ。



「特に何も準備しなくても……いや、いきなり冷水などかけたら心臓麻痺の心配が……。ーー準備運動を」



 ラジオ体操をこの機会に浸透させてみようかな。自分ひとり、中庭でやっていた時に通りかかったクレアの表情が若干引きつっていたのは知っている。でも、止めない。父上にばかり運動を押し付けたりはしないぞ。って……何故、沈痛な表情で眉間を押さえている。



「シーザー様、『これから王太子殿下が貴様らに冷水かける。準備運動を』と私に伝達しろと?」

「……止めよう」



 鬼軍曹っぽい口調も気になるけど。想像したらかなり間抜けな絵面でフィンが不憫だ。



「ありがとうございます。しかし、冷水を用意しなくても良いとは?」

「ああ、オレ、魔法で冷水も温水も思いのままだから」



 ほらっと、オレのてのひらにちょっと熱めの温水の球体を作って見せたら、フィンが無言で球体に手を突っ込んできた。クラウドとカインは恐る恐るだったから思いっきりが良いな。



「……」



 無言で球体から手を引き、自分の手を確認するフィン。なんで、絶望したような表情をする。口元を覆うな。



「……温水ですね」

「いや、うん。そこを目指したのに何故、憐みの目を送ってくるんだ。」

「これは、シーザー様に対してではありません。真面目に講師をなさっているクラウド殿に対してです」



 おかわいそうにってどこに繋がるんだ。その言葉。



「それと使用許可のない場所で扱わないようにしてください。城内は、使用できないようになっていると云うのに何故、使用出来るのですか」

「さあ?攻撃魔法以外は使えるぞ」

「……シーザー様の使用なさっている系統は攻撃だと思われますが」

「……」

「何故今気づいたとばかりの表情をなさるのですか。魔法は生活便利道具なんかじゃありませんからね」


 フィンが笑顔だが恐ろしいのでそろそろこの話題は終了しよう。しかし、辺りを見ましたが父上がいない。誰かがフィンに近寄りひそひそと報告している。面倒だな。このワンクッション。



「シーザー様、陛下は今日は急な公務が入り鍛錬に来ていないそうです」

「そうか。じゃあ、クラウドに」



 今日の予定をどうするか訊こうと言う前に威勢のいい掛け声が聞こえてくる。





「はあっ!せい!!」






 どこかから子供の掛け声が聞こえてくる。



「誰だ」


 オレの疑問にフィンが即座に答える。


「そうですね。ルーテンベル将軍がまたお孫様を城内にこっそり連れてきて、こっそりと鍛錬しているおつもりなのでしょう」

「?孫を連れてきてはいけないのか」


 オレの何にも考えていなかった問いにフィンから何かが切れた音がしたのは気のせいだろうか。


「誰も彼も身内なら引きつれて来ていいなど云う事になった場合、城内の警備体制をどうお考えになるおつもりですか。シーザー様」



 寒々しい笑顔を向けられた。オレは、とりあえずその笑顔を見ないことに努めたが、通りかかったフィンの同僚っぽい奴らがヒィッ!!と悲鳴を上げて逃げ去っていった。誰でも良い。この護衛からオレを護ってくれる相手を求む。……矛盾を感じる。



 しかし、ルーテンベル将軍って、メイン攻略キャラのルーカスのじいちゃんの筈だよな。キャラデザインはなかったが、名前だけは何度か見たな。じゃあ、鍛えられてるのってルーカスか?



「見に行きたいのだが」



 オレが護衛に視線を向けると、何故か必死に首を横に振っている。



「どうした」

「シーザー様、将軍に嫌われていることをお忘れでしょうか」

「は?……ああ、そういえば、剣術の講師だったな」

「はい、シーザー様がおさぼりになり続けた結果、『ざけんな!!あの卵からも出てこねえひよっこが!!』事件の当事者です」

「……三年前の事だったな」



 前世の記憶をぶり返す前の我が儘はなかった事にならんか。……ならないな。記憶は確かにあるのにどうして忘れていたんだ。さっさと謝りに……。ダンスの講師にも謝罪しないとという事にようやく思い至る。

 憂鬱な気分に頭を抱えたくなるがやってしまった事は仕方ない。悪いと思ったから、すぐ謝りに行こうとやはり将軍の元へ行くことを伝えると、誰もいい顔はしない。



「しかし、あれ以来、将軍は誰憚ることなくカイン様派ですよ」

「謝りに行くだけだろ。問題はないぞ」

「陛下ですら、『あの狸爺(ミカルド)に匹敵する面倒なイタチのクソ爺だ』と仰るのですよ。せめて、私が護衛でない日にして頂きたい」

「おいコラ、本音はそれか!?」

「仕方ありません。途中まで一緒にいきますので。後の護衛はあの面倒な爺さんに押し付けても宜しいでしょうか」



 やれやれこの我が儘な子供はって顔で自分が妥協してやってるって顔するな。



「わかった。一人で行く」

「私の護衛としての資質が問われます。」



 もう問われても仕方ないぞ!?

 他の護衛に目を向けるとフィンほど正直ではないにしろ、行くのを嫌がっているのを感じ取れる。やばい。これは、頑固爺の匂いがする。そういえば、シーザーは訓練所にすら足を運ばなかったからこれがほとんど初対面になるのか。



 辺りを見まわしてもオレと視線が合わないようにそーっと逃げていく兵たち。情けない。それでもマクシェルを護る立場か。



「ふ、良かろう」

「行くのをお止めに」

「いや、行く。オレが迷惑をかけたことを謝罪したいからな」

「……ただの自棄に見えますよ」



 心を折らないでくれ。




+++++++



 訓練場から少し外れた剣や槍……訓練用らしい。刃が潰れた武器を保存している建物の前で幼い子供が素振りしている姿を厳しい目で見つめる爺さんがいた……。

 マーライオンのような髪型の爺ちゃんだった。燃えるような真っ赤な赤髪に少々混じる白髪。……どうしよう。メインキャラよりキャラが濃い。八歳のルーカスが霞んで見える。いや、確かに美少年なんだろうが、精悍な顔つきの爺ちゃんが腰も曲げずに大剣を地に突き付け、オレを確認すると如何にもないけすかねぇなこのガキはって眼光で睨みつけてくるので、から笑うしかない。



「ヘラヘラと、あいもかわず軟弱そうですな。殿下」

「その件に関しては反論の余地はないですね。将軍」



 嫌味に苦笑で返すと、片眉を上げる将軍。なんだ?



「祈祷師など怪しげな存在の処に入り浸るのもシーザー殿下には正解だったらしいですの」

「祈祷師は、確かに怪しいがあれでなかなか楽しい話をしてくれます」



 横流しも。というのは止めておく。それにしても、会った先から嫌味か。なかなか強烈な爺さんだ。それだけオレのイメージが悪いという事か。



「ルーテンベル将軍、シーザー様に対してあまり」

「なんだ。フィン、お前、こんな小僧の護衛などやっておるのか。儂からアレックスに言うて、血肉沸き起こる前線に置いてやろう」

「いえ、それはある意味左遷ですのでお断り致します。私には幼い弟がいるので楽しくお給金を頂くという今の状況が最高です」



 フィンに本格的にクラウドが移っているようだ。心配になるくらいきっぱりと断ったフィンに爺さんが面白くなさそうに唸った。



「あ、あの」

「おお、ルーカス。どうした」



 将軍の厳めしい顔が一気に崩れて孫にでへーっという擬音でも付きそうなくらいだらしない笑顔を送っている。将軍の服の裾を握り締めつつ、オレを見上げてくるルーカス。ん?汗が凄いな。




「王太子殿下、ですか?」

「ああ、………」



 見上げてきた顔がほんのり赤いような……、うん。あれか。この陽射しの中、ずっと、鍛錬してたとかか?



「将軍、」

「なんじゃ」



 思わず半眼で睨みつけてしまった。おい、大事な孫だろ。



「鍛錬始めてから孫に水を飲ませましたか?」

「……い、いや、」



 返答を聞いて無遠慮にルーカスの額に手を当ててみる。熱い。風邪か熱中症か。驚いたように緋色の目を丸くするルーカス。



「寒気は?」



 オレの問いに首を傾けるルーカス。



「頭痛はしないか」

「あ、ちょっとだけ……」

「気分は」

「……ちょっとだけ悪いです」

「そうか。フィン、水枕か濡れタオルを三つ用意し、侍医も読んでくれるように手配してくれ。将軍、近くに休めそうな場所はないか。」

「と、突然なんだと」

「爺さん」



 何か反論しようとする爺さんにオレは、後から何を言われようが知ったことじゃないとばかりに黙らせ、言う事を聞かせる選択肢を選ぶ。




「孫がどうなっても良いのか?」




 後から考えると、何故こんな悪役のような言葉が出てきたのか。シーザーの本分のせいだろうか。しかもフィンに訊くと軽く顎をあげ腕を組み、如何にも悪役といった姿だったらしい。……気にしたら負けだ。



 そのあと、限界を超えたとばかりにぐったりしたルーカスをみた瞬間、突然使い物にならなくなった将軍を無視し、フィンにルーカスを抱き上げて貰い、近くの兵の宿舎のベッドを借り寝かせたが、正直、病人がさらに悪化しそうな宿舎の状況にオレは眉をひそめた。……汚い。洗濯ものが山のように重なりあって廊下には埃も溜まっている。おかしい。下働きがいない?



「人は雇っていないのか?」

「居たのですが、続きません」

「待遇が悪いのか?」

「はい。兵の態度も悪いですね。鍛錬や野営訓練後などに疲れているからとすぐにベッドに寝てしまうため、シーツの汚れ方がひどいと何度か苦情が有ったそうですが、無視です」

「疲れてると何もしたくないものな」



 ため息と同時に同意してしまう。兵の気持ちも理解できるが、ちょっとだけ頑張ってくれと言いたくなる。

 次から、父上の鍛錬を見学を早めに切り上げて、ちょっと掃除と洗濯に来るか。



「砂糖と塩とコップはあるか」

「砂糖と塩と水と入れ物ですね。ちょっとした軽食が作れるようにと厨房が有るので有りますよ」

「フィン、先読みが辛い」

「慣れというものは恐ろしい物ですね。シーザー様」



 オレは、お前が恐ろしい。

 笑顔のフィンに慄いてる場合ではない。

 看病という件で爺さんがまったく役に立たないという事が判明したので、他の護衛は侍医を呼びに行っているのでオレとフィンが積極的に看病を行うことになった。爺さん、病気って何?的な人だった。見事な脳筋エリートだ。多分熱中症だから身体を冷やさなければいけないと言ったがまさか「水をぶっかければ良いのだな!?」と桶を取りに走ろうとしたので、慌てて止めるように頼んだフィンに「冷水を掛ければ止まります」と誘導されて、つい温水を頭に掛けてしまったことは謝った。テンパったオレも悪いが、しれっと、とんでもない男だなフィン。

 砂糖と塩をひとつまみ分入れて混ぜた水を渡すと飲んだ後にぐえっと舌を出すルーカス。こら攻略キャラ。乙女の夢とやらはどうした。その顔はアウトだ。



「このお水、変な味がする」

「なんじゃと!?毒か。殿下」

「落ち着け、爺さん。塩と砂糖を混ぜたものだ。ゆっくり飲めよ」



 オレがルーカス毒殺して誰得なんだ。腰の名刀をオレに向けるな。孫可愛さに発想が貧困になっている。



「むしろ、シーザー様への暴言だけで処罰されますよ」

「大丈夫だ」

「……何がでしょうか」

「慣れた」

「早いです」



 いやだって、そう言って置かないとまじでこの爺さん、処罰されかねなくないか。嫌われてるというのは理解したが、爺さん自由過ぎだ。



「まったく、侍医が来ると云うなら侍医に任せれば良いというのに」



 ぶつぶつ言う爺さんを尻目にルーカスからコップを受け取り、用意した水枕に頭を乗せるようにルーカスに指示する。孫は素直に枕に頭を乗せてくれたのに爺さんはオレに敵意を向けている。具合の悪い人間に良くない環境だな。仕方ない。追い出すか。



「ああ、じ……将軍。悪いがルーカスの口直しの為に何か果物かお菓子でも持ってきてくれ」

「はあ!?何故、儂が」

「孫って、爺さんが用意してくれたものが一番嬉しいらしいぞ」

「よし!ルーカス、待っておれ。爺が今一番美味いと評判の菓子を用意してやる!!」



 タオルを絞りながら、爺さんを買い出しに行かせる魔法の言葉を唱えると、一目散に部屋から出て行った。その後ろ姿を見送りつつ、



「爺さん、良いキャラだった。長生きしてくれよ」

「もう会わないようなモノローグを入れないでください」



 一応まだ将軍ですので。式典とかにはいるらしい。ポンポコ爺ちゃんよりもインパクトが有ったな。ただ、底の知れなさは爺ちゃんが上だが……オレ、そういえば謝ってない。剣術の稽古サボってたこと。

 目をつむり息苦しそうにしているルーカスに一声かけてから両脇に水枕を挟むとフィンが、感心したように頷いた。どこに感心した。



「手際が良いですね」


「そうか?……そういえば、」

「はい」

「ルーカスでこの状態ならもしかして、訓練中に適度な休憩と水分補給をしていないのか?」



 フィンの目が何言ってんだコイツという目をしている。



「シーザー様、そんなに剣術の鍛錬がお嫌なのですか?」



 逆に責められただと。



「違うぞ。熱中症は命の危険があるんだぞ」

「………」



 胡散臭そうな顔をされている。何故だ。基本的な事じゃないのか?



「熱い中訓練をすると倒れる人間もいるだろ」

「そう云う者は根性がないと切り捨てられます。ルーカス殿はまだお小さく居られるので仕方有りませんが」

「だから、」



 そこまで言い募ってはたっととある事実に気づく。そういえば、共通依頼イベントに『村を苦しめる毒の正体』とわりと初期になんでこんな普通の事が出来てないんだと首を傾げた依頼が有った。じゃが芋の芽は毒だろうと。これをクリアすると知識が上がったからゲームとしては正しいのかもしれないが。……食育をテーマにしていたせいか。では、何故医療関係に関しても根性論だ?山田(前世)の基礎知識とも呼べないものですら、眉唾になるのか。



「フィン、」

「はい」

「もし、オレが手を洗うことは病気の予防になる。長時間、陽射しを浴び続けると身体に熱が溜まり命が危険に直結すると言った場合信じるか?」

「根拠の提示を求めます。」



 きっぱりと切りすてやがった。



「それに……」



 言いにくそうな表情をされた。なんだ。



「どうした。言いにくいなら時間をかけても良いんだぞ」

「いえ、シーザー様、城内人気がない事をどう柔らかく教えようかと考えている最中です。お気になさらず」

「ないのか!?」


 埃が気になったのかフィンが窓を開けながら続ける。


「ないです。大幅マイナスが周りから改善されて居るくらいです。それと、祈祷師様を怪しいと思っている者は少なくないので、そこに入り浸っているシーザー様は、我が儘な上に怪しいと評価が下降気味ですね。レヴィン様が突然お痩せになったのは、シーザー様の渡すあのウメシュ?でしたか。あれが毒だからではないかと噂がたっております。実際、毒とされていたものから作っているので根も葉もない噂と断じることはできません」



 やばい。落ち込んだ。そして、フィンの容赦のない指摘が痛い。



「父上は」

「ですから、愛が重たいと申し上げたのです。」



 やばい、父上が本気で親馬鹿の部類に云っている。そういえば、母上に「子供は三人まで義務は果たしましたわ」と的な事を言われて、カインとクレアが産まれてから疎遠になったようなことを言っていた。嫌な予感によろめく。



「父上って、人間関係へた……っていうか素直なのか」

「ご安心を」

「何が」

「好意的な相手限定ですので」


 それはそれで安心できない。フィンもそう思っているらしく、若干笑顔が引きつっている。


 うーんっと、唸ったルーカスの額の濡れタオルを交換している最中に頼んでおいた真新しいシーツを持ち侍医を連れてきてくれた護衛達に「後は我々が」と言われると侍医が何をするのか気になるが引き下がることになった。


「今度からは、具合が悪くなる前に言うんだぞ」


 最後にルーカスの一言告げてから兵舎から出る。

 爺さんが戻る前に出れて良かったのかもしれない。オレがいると病人に構わず食って掛かってきそうだったし………謝罪は後日にしよう。



 次の日辺りに父上の訓練の見学を早めに見学を切り上げ、兵舎の掃除を軽く行おうとすると、フィンは苦笑し後の二人の護衛達が渋い顔をしたが


「次の予定の時間までですからね」


 と、なかなか話がわかることを言ってくれた。なので、一部屋一部屋時間が許す限り掃除し、ベッドのシーツの取り換え、それが完了した部屋には花を置いていくことにした。もちろん花瓶はないので、普通のコップに水を入れてそれに花を入れておく。洗い物は魔法の実験の為と言って護衛に持たせた。泥棒とか勘違いされないようにメモを残すべきかと悩んだが、大丈夫ですからと……。何が?


 魔法の使用許可のある部屋まで持ってきた洗濯物を見て口元を引きつらせたクラウドにまず、土魔法で石をドラム缶のような形にし、それに石鹸と水入れ、さらに風魔法で小ぶりな竜巻を出しその中に洗濯物をひょいっと入れてじーっと結果を見てみる。………・あれ?簡易洗濯機のつもりだったが、あんまり意味がない?そういえばもっと複雑な動きをしてたような……。ボタン一つで動かしたら洗濯機任せにしていた洗濯意識の弊害を今反省しろだと言うのだろか。手洗いの方が楽ではとも考えたが魔法の実験の為って言ってしまっている手前、どうするべきか。


「何をしていらっしゃるのですか?」

「洗濯だ」


 魔法じゃなく普通に洗濯したいと言えたら面倒がないが、無理だ。今クラウドが半泣きだ。まだ魔法の実験と言ってるから耐えてるようだが。


「ただ、洗い物をぐるぐる回してるだけにしか見えませんが」

「……うーん、」

「回転を一定の方向にせずに変えてみるなど、」

「それだと魔力制御の問題が」

「入れ物を少し大きめになさって」



 あーでもないこうでもないとクラウドと魔法での洗濯談義をしていると、フィンが「かわいそうに………」としきりに呟いている。クラウドの目が若干虚ろなのは気にしてはいけない。結構高度な魔法の談義をしているんだ。クラウドにとっても良い事に違いない。お互いにそう思わないとやってられない。

 正直、洗濯板とかハンドル式の洗濯機があるらしいからそっちで洗濯したいが、きっとそう言ったらクラウドが泣くのでもう少しオレに慣れてもらってからにしよう。



+++++++



 こっそりと兵舎にきて掃除を繰り返していると、何故か掃除していた第四兵舎に花の女神が居着いているという噂が流れていた。女神は恥ずかしがり屋なので女神が掃除や洗濯に現れる時間帯は兵舎に戻ってはならないという噂を休憩中のアレックスに茶に誘われ、訊いた話にオレは飲んでいた紅茶を吹いた。笑いではなく驚きで。どうした。男臭に塗れているせいで幻覚でも見ているのか。……目撃者がいたわけではなく、花なんか飾って行ったせいだと云うことが判明した。師団は独身者が多く可愛い恋人の夢を見るメルヘン地帯だった。花なんか野郎が飾って行くかという結論だったらしい。可愛くてシャイな女の子が俺達の為に掃除と洗濯をしてくれる。という妄想が訓練所で繰り広げられているらしい。………ごめん。オレだ。


 真実を知った後の野郎どものメンタルが心配だ。


 何か夢を壊してはいけない気がしたので次は、別な兵舎に行こうかと護衛達に言ったら「そうですね。女神様」とにこやかに………今日フィンいないのにからかわれただと!?


 そんな日々を繰り返す中で筋肉をもっと付けたいと嘆いている兵たちにぼそっと、鶏肉を薦めた数か月後に上半身むき出しのムキムキ野郎どもと追いかけっこをする羽目になる。

 フィンが護衛で無かった日だったのと、他の護衛が最初からムキムキに及び腰で役に立たず、アレックスが助けに来てくれるまで木の上に登り後から登ってくる野郎どもを蹴り落としていた。蹴り落してしまった奴らよ。正直怖かったけど、ごめん。そして今、オレは密かにフィンは皆に恐れられているんじゃないかと勘ぐっている。オレを追い掛け回した奴らがフィンの顔を見ると真っ青な顔で逃げていくので。

 ついでに父上の打ち合いの相手がアレックスだけじゃなくなっていた。……なんか知ってる顔ばっかなのは気のせいかな。オレを追い掛け回した……あんまり過保護はどうかと思うぞ。父上。


 母上の侍女たちから、母上のドレスを売り払った旨を報告された。本当は積年の恨みが積もって憎いあんちくしょうを思い浮かべながら焼きたかったらしい。どんだけ。そして、その責任者がオレになっていたので、じいちゃんに相談すると「ほっほっほっ。」としか言わなかった。やばい。なんかあるなこれ。あと、野菜ジュースを飲んだらしい。が、普通は魔力が混ざった物質は意識してなくとも相手を傷つける場合があるので気をつけろと言われたので、それは、精霊への頼み方が悪いんだぞと返したら、目を丸くされた。

 何か問題でも有ったのだろうか。


 それから気になった事をつらつら書いて父上に提出したいと言ったら、しばらく、爺ちゃんがオレに報告書というものの書き方を教えてくれた。そこまで大事にしたいわけではなかったが、ま、いっか。





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