プロローグ
『モテたかったら、乙女ゲーでもしてみれば?』
リア充モテ男の親友よ。
その助言はアウトだったと今なら教えてやれる。
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剣と魔法が盛んである大国マクシェル。
王宮にて。
毎日、毎日、食卓に並ぶ肉料理に王太子シーザー・マクシェルはとうとうぶちギレた。
「いい加減野菜も食わせろーっ!!」
八歳の時だった。
……厨房に殴り込み、身体を造るためとか体力作りになるような食べ物を作れと確かに命じたが、ーーと、料理人たちをコンコンと説教した所、父上に呼び出された。
「シーザー、どうしたのだ」
「父上、今の食生活ではお腹がポンポコになりますよ。そのうち血糖値があがって倒れるんです!過去の栄光にすがって、そのように絞まりのなくなっていくお体では、母上に愛人ができても文句は言えません。鍛えましょう。お風呂あがりの酒とツマミは今日から禁止です」
王座に座る父王にえっへんと胸を張り、自己主張を滞りなく行ったオレは、しばらくベッドの住人になり、祈祷師を呼ばれ、香を咽るほど焚かれた。
今思うと、廃嫡か監禁にならなかったのが不思議だ。
どうも、キレたと同時に前世の記憶が甦っていたらしいのだが、食べもののことばかりに頭が回っていたらしく、王太子としての振る舞いとして大分アウトな言葉遣いで、なにか善くないものにとり憑かれたと判断されたらしいが、ーー父上的に三人の子供は目に入れても痛くなかったのと、おとなしく寝ていたオレが毎日の義務やら作法やらで疲れたものだと判断したらしい。
いや、これ以上のお香漬けがひたすら嫌だったから我慢してただけだけど。あと、なんか変な呪文っぽいのも精神にクルな。
「今までが大人び過ぎて居たのだ。王太子としての教育はこれからゆっくりとしていくが良い」
オレの自室にわざわざ訪問し頭を撫でながらそう言ってくださった。
ごめん。父上。生前の記憶が甦るまでどう蹴落とそうかと考えてた。八歳なのになかなか野心家だったらしい。しかし、シーザーか。どこかで訊いた名前のような。
父上に頭を撫でられ、軽い軟禁から解放された後によくよく周りの人間を観察していくと、生前の記憶ー…、山田太郎としては違和感だらけの髪と瞳の色と帯刀している騎士が城内だと云うのに護衛として後ろに着いてくる事になかなか慣れない。
そして、オレを皆が『シーザー様』、『殿下』と呼ぶ事に妙な記憶の引っ掛かりを覚えた。
そういえばオレが、前世でプレイした乙女ゲーにそんな名前の隠れキャラが……うん……別にシナリオ通りに生きる義務もないか。好きに生きよう。
シーザー・マクシェルに転生したオレ、山田太郎は早々に切り替えた。さて、オレが堂々と生きるために何をしていこう。