捕虜モブ(♂)(カインズ)の場合
先ほどまでの部屋と違い、内部にベットはない
部屋も先ほどのものより小さく、無機質なつくりだ。
椅子がひとつ中央にあり、そこに男が縛られている。
カインズとかいう眼帯の男だ。
別にいちゃもんつけるわけではないが
モブが印象に残りやすい眼帯をするとは。
他の主役クラスと眼帯キャラが被ったらどうするんだろう。
特に暴れた様子はない。
椅子にしばられたまま微動だにしていない。
男は寝ているようだ。
「おい、おきろ。」
「…水をくれたら、おきる」
おきていたようだ。
それにしても冗談が言えるとは随分余裕があるな。
目が覚めるよう、顔に水をぶっかけてやりたいところだが、
小物っぷりが際立つ気がするのでやめておく。
「これでいいか?」
アイテムボックスからコップに入った1杯の水をとりだす。
アイテムボックスの欠点を直せたわけではない。
電化製品をみな捨てた結果、空きがでたので。コップ1杯の水で3枠を使っている。
あと2杯はある。自分の分の水も取り出した。
「すごいな?どんな手品だ?」
男は片目しかない眼をわずかに見開き、たずねてくる。
アイテムボックスは、人間にはないのか。
オレには答えてやる義理はない。
「おれは手品師でくっていけそうか?」
「ああ十二分にな、両手をほどいてくれたら、オレもおひねりだしてやれるんだが。」
「残念だったな。お前のしょぼい所持金は全て没収済みだ。」
「じゃあ、金をとってくるよ。家に帰してくれ。」
「帰すと思うか?」
「どうだろうな?ところで手が縛られてて水が飲めないんだが?」
軽口の応酬。口の減らない男だ。
不思議とさっきの女ほどの不快感はない。
声が低く、落ち着いた返しをしてくるからか?
しかしこの大物っぷりはなんだろう?
モブの癖に。何かこの状況を覆す策でもあるのか?
それともただ単にこういうのんびりした性格の持ち主なのか。
念のためガムテープでもう一縛りしておいたほうがいいかもしれないな。
「そのままでいい。水なら飲ませてやる、口をあけろ。」
大人しく口をあけたので、そそいでやる。
「ぷはぁ、げほっげほっ!うまいな、こんなにうまい水は久々だ。」
「金をとれるレベルか?」
「もちろんだとも」
「水のお店でもひらいてもいいな。この水にいくらだす?」
「オレなら一杯500Gだって払うね。」
「500Gでうってやっていけると思うか?」
「もちろんだとも!オレにも手伝わせてくれよ。」
話をはずませるのがうまい奴だ。話していてあきないが、
どうも、どうでもいい話になっていってしまっているがする。
話題をかえるか。
今一番知りたい事は、先ほどの女がくちばしっていた。、
ここらいったいを支配するというレズ一家の事だ。
聞きかえしても、つけあがるだけと取り合わなかったが、
こいつらが盗賊団の一味であるなら。
帰りが遅ければ何かあったのかと、仲間が偵察に来るだろう。
こいつはそれを見越して時間を稼いでいるのかもしれない。
「お前に帰る家はあるのか?」
「オレがホームレスにみえるとでも?」
「その汚らしい格好をみればな。」
「いや、痛いところをつかれたな。」
「それで、どうなんだ?」
「どうなんだ?とは。」
「お前の家はどこにあるんだ?」
「おいおい。勘弁してくれ。押し入り強盗はやめてくれよ?」
なるほど……返事はするし愛想もわるくないが、
のらりくらりとかわしてくる。
情報をこちらに伝える気はないようだ。
なんだか煮え切らないな。
敵対や拒絶する意思を見せてくれればこちらも
容赦なく行動できるのだが。
痛めつければ、態度がかわるのだろうか?
わからない。
試してみる価値はあるかもしれないが。
それで吐いたところで、その情報が本物であるかどうかの
真偽がオレには判断できない。
仕方ない。
ここは使うべきかも知れない。
この余裕ある態度が、何かあるかも、
とどうしてもかんぐってしまう。
不安を払拭するには。つけるべきだろう。
オレは奴属の首輪を取り出すと、
一瞬の躊躇の後
男の首にとりつけた。
本当は女の奴隷がほしかった。
しかしフリル・ククリに抵抗の意思は無く
すでに従順である程度は首輪無しでも従わせられる感がある。
モブ女は、態度が悪く、口も悪い。
そしてどちらも、しがらみやトラブル体質を抱えている気がする。
味方にひきいれるとすると、やや怖い。
この男はLV9とはいえ、3人のなかでは一番LVが高いし、
物腰も落ち着いている。なにより大人である。
正確な情報を手に入れるにも、
味方に行きいれ、単独行動をしてもらうにも適任であると思われる。
魔女っ娘といちゃいちゃする夢や、
高潔な神官を、堕落させる夢が遠のく。
「オレが、退廃的な生活をおくれるよう。お前には精力的にに働いてもらうからな。」
オレは恨みがましい目で、男をみる。
男は、首輪の影響か、目がうつろでまだ焦点がさだまっていないようだった。
「命令だ。オレの質問に正直に答えろ。いいな?」
「…わかった。」
まずは情報をしいれよう。
そして、この世界の常識も手に入れよう。そして行動指針をきめるのだ。