たたかいが始まる
ダンジョン運営者には、
初めに一つ、ランダムで固有の能力が
神からの恩恵として与えられる。
このユニークスキルは、当たり外れが激しく、
持ち越しアイテムを除けば、
序盤のゲーム進行具合はこのユニークスキルしだいといっても過言ではない。
オレが何度もプレイした限りでは、
相手を生かしたまま捕らえる確率をあげる【手加減攻撃】
捕らえた相手を高確率で更生させる【調教】【洗脳】
などが、あたり、と思われるスキルである。
まぁ、そうそう希望通りのスキルを得る事ができるかというと
当然そんなわけはなく、
今回与えられた恩恵は『魔力隠蔽』であった。
『魔力隠蔽』
アクティブスキル。
魔力を隠す能力、ダンジョンコアから漏れ出す魔力を隠蔽できる。
効果:使用中は冒険者および魔物の侵攻がおこらない。
…微妙である。
冒険者がこなくてはゲームはすすまない。
ダンジョンの改築中に任意で冒険者をこなくできるのはありがたいが、
それだけである。
そもそも、ダンジョンコアの魔力は、
不法侵入する冒険者達から奪う事によりまかなう事がほとんどである。
ダンジョンの維持に魔力は常に消費しているので
ずっと【魔力隠蔽】してると魔力の補給ができずこれもつむ。
…はずれではない。
『魔力隠蔽』はダンジョン同士でおこる【共食い】においては、
ステータスを隠せる利点を持つ。
もっとも【共食い】なんてのはゲームの終盤で起ることであり、
その前に死ぬ事がほとんどであるが。
「…と、さすがに食料を確保しなきゃだし状況を把握しておかないと。な。」
もちろんゲームの…ではない。
オレの現実世界はなんだかよくわからん事になってしまっている。
コタツが
全く知らない、じめじめした暗い洞窟の真ん中にちょこんと
置いてあり、そのなかで携帯いじくりながらぬくっているオレがいる
という、まったくもって意味不明の状態だ。
こうもりだかなんだか知らないが、時々不気味な鳴き声もきこえる。
だれか至急なんとかしてくれ、
そして、何かないものかと、あたりを見渡すと、
みたこともないような、でかい、こぶし大ほどもある赤く輝く宝石が、
堂々とコタツの上に鎮座していた。
コタツの上だというのに、
まるで美術館に飾ってある美術品のように、
違和感無くそこにあった。
(…ダンジョンコア…)
オレの頭の中に言葉が勝手に浮ぶ。
みるものを、いや、視覚にいれずとも近場にいるもの全てを魅了するかのような
怪しい光を煌々と放っている。
オレは、この宝石が、ダンジョンを生んだ魔力の結晶である事を
理解していた。
他にもコタツの上には、
見た事もない呪を刻まれた首輪と、お守り、運転免許証のようなものが、
並んでいる。
…これは、あれか?迷い込み系か……。
何が原因かはわからない、しかし
オレは、攻略者いまだ0、
死亡率100%のDDEの世界に足を踏み入れてしまった、
そう考えるべきだろう。
どうすべきか、考える。
宝石は隠すべきだ。これがあるかぎり、オレの死亡率は100%
しかし、これがなくなる事=ゲームオーバーである。
腫れ物にさわるかのように、おそるおそる、宝石にふれる。
―とたん
【ビービービー】
音と共に、緊急、の文字が携帯に浮ぶ。
思わずビクゥ!と手を引っ込めてしまったが、
別に宝石に手を伸ばしたためにおきた音ではない。
ダンジョンに侵入者がやってきた事を知らせる
警戒音であった。
きたのだ
この宝石、ダンジョンコアが放つ魔力に引き寄せられた
欲望に身を焦がしきった略奪者が。
スマホを思わず強く握り締めてしまう。
オレは、
以下にこの死亡フラグを回避すべきか、頭をフル回転させていた。
――防衛戦が、始まる。
迷い込み系。現実から持ち込めたのは、
こたつ、スマートフォン
スマホ充電器(ソーラーパネル式)
私服