食事会
「フリルは火をおこせるのか?」
「はい!できます。」
「じゃあ程なくカインドが薪集めてくるから頼むよ。
洞窟でて、すぐのところで焚き火するから。」
「あ、すみません。じゃあ火のエレメントをお借りしていいですか?」
…え?ひのえれめんと?
「?」
小首をかしげるフリル。
いやいや、当たり前のように言ってるけど、火のエレメントって何よ?
これ聞き返していい流れなのかわからない。
全くこれだから異世界は。
「…えっと、火のエレメント?ちょっと今手元に無くてね」
「ええ?それでしたら………どうしましょう。」
「盗賊団のところではどうしてたの?」
「えっと、やはりエレメントを使ってました。」
……まぁ『火』ってついてるし、
言葉の流れから、火種をつくる道具なんだろう。
「じゃあ、それがないと、できないんだな。」
「……すみません。」
「いいよ。オレがつけておく。」
「え?でもエレメントないんですよね?」
「…そうだな。まぁなんとかするよ。」
アイテムボックスの中に親父のジッポライターがあったはずだ。
バグの産物である家の小道具は
この世界では見慣れなく、珍しく映るだろうし
バグの影響で何か変な事が起る可能性もあり、
使わないですむなら使わないにこしたことはなかったのだが
この際仕方ないだろう。
誰にもみられなければ、騒ぎになる事もない。
「え、ええと火をつけるところ、み、みたいです。みせてもらってもいいですか?」
だが、このアマ現場を見たいという。
妙にめをキラキラさせて、喰いついてくるではないか。
「見ても楽しいものではないよ。」
「そ、それでも、ぜひ!お願いします。」
「まぁ……別にいいけど。」
腹は減っていないがオレも少しは食べる気でいる。
その際、さすがに魚だけで喰うきはしない。
ボックス内の米も食べたいし、調味料も使いたい。
今更一個増えたところでどうということもないだろう。
洞窟を出ると、既に外は暗い。遠くで狼の遠吠えとか聞こえるが
大丈夫なんだろうか?
カインドなら狼くらい追い払えるか。
カインドはいないが薪はおいてあった。
仕事がはやいな。
…いやオレがシャルの部屋でちょっとハッスルしてしまったせいか
シャルは、可愛かった
オレの初体験の相手となったしもうモブとはよべないな。
ぱちんっ、とジッポのふたをあけ、火をともす。
木に数秒当てるが、先に葉を燃やして移した方がはやいときづき、
葉に火をつける。
「…わぁ」
じょじょに火が焚き木に燃え移っていくのを
フリルはうれしそうに眺めていた。
とこちらを向き、身を乗り出してくる。
「それ、魔具なんですか?中にエレメントがはいってるんです?それとも精霊が?」
やけに積極的だ。
「…さぁな。」
何がうれしいのか、はしゃいでるフリルに火の番をまかせ、洞窟にもどる。
米をたくには、電子ジャーが必要だ。電気が通ってないが
中の釜はつかえる。
米と水をいれて、適当に吹かせばいいのだろう。
電化製品はアイテムボックスから出してしまったからいちいち取りに行かなくてはならない。
「……面倒くさいな。」
そもそもまだ確証があるわけではないが、今の俺に三度の食事は多分必要ない。
そして、外を移動できるなら、別にこんな洞窟にこもる必要もない。
「明日あたり、人里にでもいってみるか。」
近くには人里はないといっていたが、
フリルがいた村ならそう遠いものでもないだろう。
話が本当なら今頃村全体悲壮感につつまれているだろうが、
危ないのは可愛い娘だけだ。
オレには関係ないだろう。
むしろ、
平和ボケしたオレにはいい刺激となるかもしれない。
米を研ぎ水をはった釜をもって洞窟をでると、
カインズとフリルは既に焼き魚を食べ始めていた。
「……ああ、わりぃ今日は動きまくって疲れてから先いただいてるぜ。」
屈託のない笑顔で言ってくるカインド。
「す、すみません、カインドさんに勧められて、香ばしさについ。」
フリルは謝ったが、カインドがいいっていいって、てもう一匹フリルに手渡していた。
「……まぁいいけどな。」
「おっなんだ?それは食べ物か?」
「おいしいんですか?」
カインドとフリルが釜を覗き込む。
「…みんな死ねばいいのに。」
おれは二人を無視し。
釜をうまく棒にひっかけ、焚き火にあてる。
今から30分程度はかかるだろう。釜。直火で大丈夫だろうか?
「…スグル様、怒ってます?」
「お~い。ノリ悪いぞ、スグル。おなかが減ってたんだ仕方ないじゃないか
おれとお前の中じゃないか。な、水に流せよ。」
何がおれとお前の仲だよ
いまのいままで、お前オレの名前すらしらなかっただろ。
しかしカインドは薪も集めてもらったし、魚も数日分とった。
確かに仕事はしている。
ここで不機嫌になるのも大人気ない。
「わかった、わかったよ。ほれ。魚にはこれでもつけるといい。」
「!?…これは…!?塩か!?」
「え?ほんとですか?」
「わかるか?塩、ポン酢、おろし醤油。すきなのつけるといい。」
「これ全部調味料か!?」
「は、はじめてみるものばかりですぅ~。え、えとじゃあいただきます。!!??
!!!?
スグル様美味しいです!!」
「オレも初めてみるものばかりだ。………確かに、うまい!」
カインドは調味料の一つに目をむく。
「……これは、まさか胡椒か!?」
「めずらしいのか?」
「ああ、金の粒と同等の価値があると聞くぞ?信じられん。使っていいのか?」
「そんなに価値があるのか、じゃあ出すのはやめておこう。」
「ちょっ!ばか!…ちょっとだけ!ちょっとだけ!」
カインドの必死な顔を始めてみた気がするぞ。
仕方ないので振りかけてやる。
カインドは感激しながらも、フリルに半分わける。
仲いいな。
フリルも胡椒の話を聞いた事あるのか、あるいは、今の話をきいていたためか
震える手で慎重に口に運び、
「~~~~!!~~!!」
声にならない声をあげる。
たれる目、口元からはよだれがでている。
胡椒ってそんなにうまかったか?
オレは魚にふりかけたことなどないが
本人が満足ならべつにいいか。
「どれも、ほっぺたが落ちるように美味しいです!
こんなの今までたべたことありません!!」
「これが胡椒か…。いや、全く今日のオレは運がいい。」
そんなフリルの様子をながめながら、
カインドも味をかみしめるように租借しながら感想を述べる。
「胡椒や醤油はともかく塩はめずらしくもないんじゃないか?」
「ここは内陸だし、塩は専売制で国が独占してるからな。
手に入らないわけじゃないが高くてそうそうは食べられないな。
…うめぇ」
素材もとりたて、あぶりたてで、いいのだろうが。
調味料は大好評のようだ。
「~~~ほっぺが3個落ちました~♪今は四個めです~。」
フリルは意外にも大食いのようだ。意味不明のことを言いながら魚にかぶりついている。
それにしても遠慮が全くない。
今は塩を馬鹿の一つ覚えのように、小魚一匹一匹にかけまくってる。
のどが渇かないのだろうか?
調味料はオレも家に大量にあったわけではないので、
ここでは入手が困難ならば
できればちょっとずつ節約して使いたいのだが…。
まぁ今日くらいはいいか。
二人の幸せそうな顔をみると何もいえなくなる。
いいよな?一日で使う量なんてそんな多くもないし。
……いいのかな。多いな。本当に大丈夫かな?
………むかつくくらい、ふんだんに使うな。
おいおい、こいつらひょっとして今日中に全部使う気じゃないだろうな?
それにしてもカインドが遠慮しない性格である事はうすうす勘づいていたが
フリルはカインドの二倍はつかってやがる。
どういうことだ?
これはいったいどういうことだ!?
素直とおしとやかさが売りの美少女じゃないのか?
「!?」
おれは焦燥のあまり、新たな調味料を取り出し二人にあたえる。
劇的な反応をしめすフリル。
「あ、この緑のはなんなんですか?それも調味料ですか?」
「これはわさびっていうんだ。単体で食べても美味しいものだよ。
好きなだけ食べるといい。」
にこっ。
「あ、ありがとうございます。
今晩のスグル様は後光がさしてみえます~~~ばくばくばく………うぐふぅっっっ!」
口のものを吹き出し悶絶するフリル。
きたねぇ。
しかし、よっし、ようやく、大人しくなったか。
それにしてもさすがはカインド。
後からでてきた調味料を用心して手をつけないところとか、
いかにも盗賊って感じがする。
思えば胡椒のときも、さりげなくフリルに先に毒見させていた気がする。
「お、おい。お前それ毒とかじゃないよな?」
「ああ?んなことしてオレにメリットないだろ。」
二人の食べてる姿をみていたら食欲がわいてきた。
まだちょっと早いかもしれないが
炊いた米をもりつけ、魚に醤油と、わずかなわさびをつけ、食べる。
「うん、いきがいいな。景色もいい、悪くない。」
「……なるほど。少量つけるんだな。」
「調味料ってのは、素材を生かすためのもので、そもそも、そういうものだろ?」
「そうだな。うん。まぁ、びっくりするくらいわさび?を盛り付けられて
笑顔でそういわれるのもなんだか釈然としないが……うん、
ピリッとくる味か。確かに癖があるが悪くないな。オレは塩のがいいが。」
「米とくうとわるくないぞ。たべてみろよ。」
「それか?いいのか?」
「ああ。」
「なるほど、こりゃうまい!酒の一杯もほしくなるな。」
「この辺に売ってないのか?」
「おいおい、ここは山奥だぜ?
……そうだなこの辺なら、一番近くてフリルの故郷の村かな。」
「なるほど、そうだ食後、少し話がある。部屋にもどってろ。」
「部屋って…。あのイスだけの部屋か?」
「そうだ。」
「……わかった。ところで今更なんだがシャルが見当たらないが。」
「…寝てるよ。後で食べ物だけ届けておく」
「…そうか。ほどほどにな。」
なにがほどほどなのか、
見透かしたようにいってくるカインドに生返事を返し、オレは後にした。
美味しかった、しかし、一口で満足してしまった。
俺には本当に通常の食事は不要のようだ。
今後も考えると不安が多い。
ともあれ、異世界での初の食事会は幕を閉じた。