猫から見たある家族の朝
猫視点の短編小説です。
猫視点なので、ある意味で擬人化要素があるかもです。
そういったものが苦手な方は、ご注意ください。
――――――吾輩は猫である、名前はシャルル。
シャルル・ゴ・ドール、それが吾輩の名前である。
人間は必ず「シャルル・ド・ゴール?」と一度は聞き返す、誠に失礼な話だ。
吾輩は西洋の国の指導者でも海とか言う水たまりに浮かぶ平たい船でも無い。
吾輩は「シャルル・ゴ・ドール」、正真正銘の猫である。
とある家の、誇り高き飼い猫である。
◆ ◆ ◆
・・・トントン、トントン・・・。
・・・ある朝、太陽が昇る気配と共に耳を震わせて音を拾う。
ちなみに吾輩は耳を震わせて「トントン」と言う音を拾っているが、けして起きたわけでは無い。
あくまでも身の安全を確保するため、外部の情報を得ているだけなのだ。
万が一にも危険が迫った場合でも、俊敏に対処するために。
そう、例えばご主人が作りたてのお弁当箱をリビングの椅子の上で丸くなっている吾輩の背中の上に乗せようとも・・・にゃにゃにゃにゃにゃっ!?
「にゃーっ!? にゃにゃっ、にゃうぅるるるるっ」
「あら、ごめんなさい。気付かなかったわ」
「にゃにゃ!?」
にゃんとっ、ご主人ともあろう御方が吾輩の存在に気付かなかったと!?
この白と黒のモノトーンが美しいぶち柄に、気付かないとは!
どう言う了見にゃ、事と次第によっては高級ネコ缶では済まないのである。
「ごめんなさいね」
しかしご主人―――この家のヒエラルキーの頂点、「お母さん」―――は豊かな黒髪をサラリと流しながら、その柔らかな白い指先で吾輩の背中を撫でる。
出来たてのお弁当は熱いのである、気を付けてほしいのである。
「にゃー」
「あ、子供達を起こしてきてくれる?」
「・・・にゃ・・・」
謝罪を受け入れた瞬間、ご主人にお願い事をされてしまったのである。
抗議しようとすると、ご主人は素早く台所に戻ってきてしまったのである。
・・・にゃー。
◆ ◆ ◆
しかしご主人のお願いならやむを得ない、吾輩は椅子の上から降りてトトトッ、と歩く。
リビングの扉の隙間からを出て、階段を上り、匂いを頼りに「お兄ちゃん」の部屋へ向かう。
勝手知ったる何とやら、この家に仕えて長い吾輩を舐めてはいけない。
カリカリカリ・・・とドアをひっかくも、何かが出てくる気配は無い。
仕方が無いので、猫ジャンプにて取ってにブラ下がり、ドアを開く。
「にゃー」
声をかけるも、「お兄ちゃん」は起きてくる気配は無い。
床の上に敷いた布団の上で、何やらムガムガと言っているようだ。
「むにゃむにゃ・・・妹は俺のよm「にゃう」目がああああああああああああああっっ!?」
軽く爪でひっかくと、物凄い音を立てて「お兄ちゃん」が床の上でドッタンバッタンし始めた。
相変わらず面白い御仁だ、人間にしては猫受けする。
耳を閉じて音を封殺しながら、吾輩は役目を果たしたので次に行くことにする。
「シャルルうううううううううううぅっ、てめええええええええええええぇぇぇっ!? あがっ!? うぅ・・・敵が、敵が見えないよ・・・」
「にゃにゃにゃ」
「お兄ちゃん」の部屋のドアの所で後ろ足で首をかいてから、隣の部屋へと向かう。
次は「妹君」を起こさねばならい、優秀な飼い猫は仕事も早いのである。
と言うか、早く終わらせてご飯にありつきたいのである。
◆ ◆ ◆
「にゃー」
まず扉の前で鳴く、しかし外国の言葉で「シスター」と書かれた札のかかった部屋の扉が開く気配は無い。
耳を震わせて部屋の中を伺うが、かすかな呼吸と寝返りの音が響くばかり。
やむを得ないので、再び猫ジャンプにて扉を開ける。
そのままスルリと部屋の中に入ると、「お兄ちゃん」の部屋では感じなかった不思議な香りが鼻についたのである。
嫌な匂いでは無く、冬のコタツで良くする香りである。
ここ最近、「妹君」からはこのような香りが漂っているのである。
にゃにゃ・・・ぐるりと部屋を見渡すと(人間の部屋は大きいのである)、大きな台の上でモゾモゾと動いている人間を見つけた。
「にゃー、にゃ~」
鳴いてみるも、台の上からは「む~?」と言う音しかしない。
春に咲く木の花と同じ色の布が蠢き、ベッドとか言う上がモゾモゾと動く。
ヒクヒクと鼻先を動かしてみても、起きる気配は無かった。
にゃう、と鳴いた後、吾輩は猫ジャンプで台の上に飛ぶ。
するとそこには、ご主人そっくりな女子が寝ていた。
豊かな黒髪が、モノトーンの吾輩の視界の中でやけに際立って見えるのである。
すんすん、と鼻先を震わせると、ご主人に近いがより爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
「にゃー、にゃー」
「ん~・・・?」
「にゃうにゃう」
耳元で鳴いても起きないので、舌先で頬を舐めるとむずかりながら目を開けた。
にゃう、朝だにゃう。
起きるのである、ご主人が呼んでいるのである。
「・・・あー、しぃちゃんだ~」
「にゃう」
「妹君」、何度も申し上げるが吾輩は「しぃちゃん」では無く「シャルル・ゴ・ドール」である。
できればそのような崩れた名で呼ばれるのは不本意・・・にゃにゃにゃにゃうっ!?
「やわらかいーい、いいにおーい、えへへ~」
「にゃにゃっ、にゃにゃにゃっ!」
ちょ、「妹君」、そんな抱っこは良いとしても仰向けになったまま持ち上げないでほしいのである。
足がプラプラして怖いのである、落ち着かないのである。
・・・だからといって、顔を押し込んでモフモフするのもやめてもらいたいのである。
あ、顎は撫でたら・・・。
「ゴロゴロゴロ・・・」
「かぁ~い~・・・むにゃむにゃ・・・」
「・・・にゃ!?」
わ、吾輩を抱っこしたまま・・・寝る・・・にゃと・・・?
にゃうにゃうと鳴いてみるも、「妹君」はどうもそのまま眠ろうとしているらしいのである。
不味い、不味いのである。
薄布越しに「妹君」の温度が伝わってきて、吾輩も何だか眠・・く・・・いやいやいやいや!
「にゃ、にゃーっ!」
「ん~? しぃちゃんもねむいー?」
違うからして。
モガモガともがくも、「妹君」ががっちりホールドで外れないにゃ。
不味い、不味いにゃこれは、ご主人のお願いを完遂できないのである。
ど、どうにかしなければ、どうにか・・・。
その時、吾輩に救世主が現れたのである。
その救世主はどかんと「妹君」の部屋の扉の枠に手をかけると、真新しいひっかき跡がついた顔で怒鳴りこんできたにゃ。
「シャルルてめこのやろー! ・・・って、あ」
「・・・」
「・・・にゃ」
むきーと怒った「お兄ちゃん」が、その声と音に一気に目が覚めたらしい「妹君」と見つめ合う。
にゃにゃにゃ、助かったのである。
「妹君」さえ起きてくれれば、吾輩としては大助かりなのである。
吾輩は緩んだ「妹君」の腕から抜け出すと、床にとすっと着地。
そのまま尻尾を立てながら歩き、「お兄ちゃん」の足の間をくぐって外に出るのである。
廊下で、やはり後ろ足で首を掻いて・・・。
「お兄ちゃんっ!!」
「え、いやごめっ、でもシャルルがっ」
「信じらんない!! そんなに中学生女子の部屋に入りたいの!?」
「ち、違っ、ごか・・・ぎゃあああああああああああっ!?」
ドッタン、バッタン、バサバサ、ドササー。
・・・何やら騒がしいのであるが、吾輩は役目を果たしたのである。
そのまま階段を降りて行くと、途中でまた別の人間に出会ったのである。
玄関から何やら文字がたくさん書いてある紙の束を持ってきていたその人間は、「お兄ちゃん」に年季と渋みと経験を加えたような容姿をしていた。
「ははは、この調子で行けばあのドラ息子が娘に嫌われる日も近いな」
「にゃう」
「そうか、シャルルもそう思うか」
「にゃうっ、にゃうっ」
むぅ、この目の前でヒラヒラする感じが心惹く。
爪先でひっかこうにも、ご主人の「旦那殿」の背が事の他高いので届かない。
むぅ、しかし吾輩を甘く見ないで貰いたい。
「にゃうにゃうにゃうにゃう―――――っ!!」
「どぅお―――っ!?」
・・・ふ、他愛も無いのである。
床に散らばった紙を後ろ足でペイッと弾き、吾輩は悠然とリビングに戻るのであった。
後ろで「旦那殿」が嘆いているようだが、吾輩は満足である。
◆ ◆ ◆
「ちょっともー、聞いてよママ! お兄ちゃんったらね、私の部屋に勝手に入って来たんだよ!」
「あれ、状況がより悪く伝わってるよ!? え、何、俺そんなに悪いことしたの!?」
「ふはは、ドラ息子め嫌われろ嫌われろー」
「あなた? 玄関の前が凄いことになっているんだけど?」
「な、なんのことかわからんな・・・」
今日も騒がしい朝なのである、そして一仕事終えた後の猫缶は最高なのである。
にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃ、と鳴きながらテーブルの側で猫缶を食べる吾輩。
そのテーブルにはご主人達が同じように朝ご飯をしていて、吾輩にはよくわからない人間の餌を食しているのである。
「しぃちゃん、おいしいの?」
「にゃう」
「かわいー」
椅子の上で屈んで吾輩の背中を撫でる「妹君」、ご主人が「行儀が悪い」と叱ると手を引っ込める。
吾輩は特にそれには構わず、モフモフと猫缶を食べる。
うむ、いつもの味である。
「はい、お弁当忘れないでね」
ご主人が他の面々に布に包まれた箱を渡すと、吾輩も猫缶を平らげて毛づくろいしていたのを中断して、トテトテと玄関までついて行く。
吾輩も一緒に出るのである、今日は近所の猫達と猫会があるのである。
なわばりのパトロールも必要である、最近マナーの悪い新参者が出て大変なのである。
「「「いってきまーす」」」
「はい、いってらっしゃい」
「にゃう」
「シャルルも、いってらっしゃい」
ご主人に見送られて、家を出るのである。
猫会の会場は「妹君」の行く学校とか言う大きな建物の近くなので、吾輩は途中まで「妹君」と一緒である。
吾輩が側にいると、「妹君」に声をかける近所の人間達が多いのである。
「おっはよーございます!」
「あら、おはよう。今日も元気ねぇ」
「にゃー」
「あら、今日は猫ちゃんも一緒なのねぇ」
吾輩は「シャルル・ゴ(以下省略)。
そのまましばらく「妹君」について歩くと、だんだんと「妹君」と同じような格好をした人間が増えて来たのである。
「シャルル、じゃあねっ」
「にゃう・・・ぶにゃにゃにゃ」
「ん~、もふもふ♪」
「妹君」と似たような格好をした人間達の視線を感じながら、「妹君」にお別れの「ぎゅう」をされる。
苦しいのであるが、「妹君」のことは幼い頃より知っているので無下にはできないのである。
出会った時から大きかった「お兄ちゃん」には、特に保護欲は感じないのである。
「じゃあねーっ」
ぶんぶんと手を振って、似たような格好の人間に囲まれた「妹君」が大きな建物の中に入る。
毎度思うのであるが、人間達はあそこで何をしているのであろうか。
・・・ひなたぼっこ?
「にゃう」
かかかっ、と後ろ足で首を掻いて、吾輩は尻尾を塀の上に昇って歩く。
さて、今日は猫会で重要な話し合いがあるのである。
議題は、人間の景気悪化の煽りを喰らった高級ネコ缶摂取量の減少について。
◆ ◆ ◆
――――――吾輩は猫である、名前はシャルル。
シャルル・ゴ・ドール、それが吾輩の名前である。
人間は必ず「シャルル・ド・ゴール?」と一度は聞き返す、誠に失礼な話だ。
吾輩は西洋の国の指導者でも海とか言う水たまりに浮かぶ平たい船でも無い。
吾輩は「シャルル・ゴ・ドール」、正真正銘の猫である。
とある家の、誇り高き飼い猫である。
この物語はフィクションです。
実在する団体・個人とは一切の関係がありません。
あしからずー。




