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第一章「それでも少年は『剣』を握る」 ―肆―

「………そんなの知らないよ」

「他人事だと思って……」

 どんな言葉が返って来るか楽しみにしていたナミキに面白さの欠片、微塵すら無い返事が返って来た。

「よし、今日も食べ……きっ……た……。ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

 少年の日常は今日も何事もなく平穏に過ぎて行く。

  そして、平穏の陰には不穏が隠れている。そんな事ですら平穏はないことにするのかもしれない。

「さぁ、御風呂入るね。お兄ちゃん」

「うん。一番風呂どうぞ。」

「ありがとね。お兄ちゃん」

 いつもならこんなことでお礼などしないナミキの突発的な言葉だった。

「今日はどこかしいんじゃないのか? ナミキ」

「む、それは元気な私としては聞き捨てならないよ。お兄ちゃん」

「元気ならいいんだ。でも、なんだか、今日は胸騒ぎがするんだ。とてつもなく嫌な感じ」

「私よりお兄ちゃんがおかしくなってるんじゃないの」

「そうかもね」

 少し笑いながら少年は自身の手を見た。

 ――肉刺ばかりの手、僕はこの手で何人を……ころ……したのかな……。

「御風呂入るよ。お兄ちゃん」

「もう何回目だよ。それ言うの」

「しーらなーい」

 ――今日の妹は元気だった。

「そろそろ、夜の闘技場が開かれる時間かな……」

 ふと、窓の外を見たら今日が終ってしまう虚しさだけが残る夕焼けが少年の体をみにくくさせてしまった。見るんじゃなかったと思ったのだが遅すぎた事に気付く少年。

「僕は……僕であり続けられるのかな、こんな血だらけの手で妹を、あの人を触ってしまっている……。僕は……僕は……」

 全て幻覚。自分の両手が深紅の血だらけの事も。耳は悲鳴が聞こえる事も、手や、声が鳴動する事も。

――人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し。

「違う! 違う! 僕は、俺は、生きる為に、生きる為の行為だ。俺は、僕は生きなきゃいけないんだ!」

 声には出ないが頭を文字が動き回る。少年の額から冷汗が垂れる。

 そんな時だった。いや、こんな時だったのかもしれない。彼女が行き成り家を訪ねてきたのは。

「え~と、いつも木の棒を丘の上で降っている子いる?」

「は、はい!」

 ドアを開けると見慣れた顔があった。

「やぁ、こんばんは、君の家こんな所に住んでいたんだね~。もう何年も話している仲なのに知らなかったわ」

「……なんでいるの?」

「ここに住むから、私」

「……はへ?」

「いや、だからさ、私、ここに住む事に決めたから」

「そ、そんな、こ、困る!」

 ハッと正気を取り戻す。リンの言葉に少年は慌てふためいた。前々から少し破天荒な性格なのではと思っていたがこれで少年は確証が持てた。

「お兄ちゃん。お風呂でたよ……って、え?」

「ナ、ナミキ! こ、コレは……」

 少年にとって最悪なタイミングで妹がお風呂からあがり寝巻姿で現れた。

「初めまして、今日からこの家に住む事になったリンレン・ハートです」

「ご、丁寧にどうも、私はナミキ・ファルと言います。いつもお兄ちゃんがお世話になっています」

「行き成りで、すいませんが妹さん、私をココに泊めてくれる?」

 その言葉に少年は首を振って断っているが少年の妹はそうではなかった。

「えぇ、こんな狭い家ですがどうぞ」

「ありがとう、妹さん! 私のことレンって呼んでね」

「はい、お姉さん、私もナミキで結構ですので」

「お姉さんっていい響き~♪」

 苦労など微塵も考えない二人の会話が始まってしまった。二人とも初対面なのか疑いたくなる少年だった。

「本当にお姉さんが増えた様でうれしいです」

「まぁ、いつでも頼ってよ、だって私、お姉ちゃんだもん」

「はい!」

「もういいや、そっちはそっちで寝床とか決めておいて、僕は仕事に行くよ」

「はーい、狩りのお仕事がんばってね。今度こそケガして帰ってこないでね」

「……え?」

 リンは耳を疑った。夜に狩りをするなど、自殺行為に等しいからだと猟師である父がいつも酒に酔うと言っていたからだ。しかも、イージス村で狩りをするのには長に許可がいるからだ。少年が狩りをしているとは祖母から一言も聞かされてもなければ言われてもいない。

「……う、うん今日こそは大モノは狙わない様にしてケガはしないようにするよ」

――僕は好きな子に嘘をついた。

「ね、ねぇ……」

 リンが呼び止める。

「行ってくる。リン……で、よかったかな? ナミキを頼みます」

 だが、リンの呼び止めを聞えなかったフリをして近くに立て掛けてある剣を持ち走っていった。

「ごめん、お兄ちゃんなんだか、気分を悪くするようなことしてしまい……」

「いいのよ、無視されるなんてしょっちゅうだからさ、気にしないよ。私たちより『剣を握る』からあの子はあの子なんでしょうね」

「やっぱり、お兄ちゃんが好きな人だね……似てる……」

「何か言った?」

「な、なにも言ってないですよ、それより、一緒に御風呂入りませんか?」

「いいね! ソレ。一度妹とか年下の子と一緒に御風呂入ってみたかったんだよね」

 二人は温かい会話を続け、温かい部屋へと戻って行った。

 


「今回更新が遅れてすいません。色々諸事情により遅れましてすいません。

 で、いかかでしたでしょうか? 第一章はこれで終ります。次からは第二章が始まります。長い後書きですいませんでした」

 セレスでした。

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