第一章「それでも少年は『剣』を握る」 ―壱―
この世界には魔法があり、科学があります。
貴方が住む世界に似ているかもしれませんが別世界…
いや、もしかしたら、貴方の住む世界の出来事かもしれませんね
なぜならば、私はこの物語りの詳細を我が主から聞かされておりませんので
おっと、自己紹介が遅れました。私、主のお世話係のセレスと申します。以後、お見知りおき下さい。長くなりました。それでは、
我が主の語りし世界と物語りをごゆっくりとご堪能くださいませ
この世界のどこかにある古いしきたりを守り続ける村イージスには、戦う事しか取り柄がない少年がいる。
「九十九、百――」
少年には両親も祖父も祖母もいない、唯一の血縁者である妹は原因不明の病にかかったきりずっと寝たきりである。ずっと闘技場で戦って、戦って、戦い抜いたそのお金でその日を暮らし妹の病の少しでも良くなるように手当たりしだいの薬を買っては飲ませている。そんな暮らし。経済面的には裕福であるが心、精神面的には裕福ではない。ある意味の貧困でいつか妹が死ぬかも知れないと言う強迫観念に駆られている。常人には耐えられない暮らしだろう。
村から少し離れた所に大きな家を持つが妹の女の子らしい部屋を除いては少年専用の寝床と闘技場で貰うお金の保管庫、それと自身の命の剣ぐらいしかなく、電気の明かりもなければ魔法による明かりもない。妹の部屋を除いては人が住んでいる感じなんてものは一切ない。無人。廃墟。捨てられた家だ。
「百一、百二――」
そんな少年にも、恋はできた。が、それが恋と言う感情なのかどうかは妹が教えてくれるまでは全く少年は知らなかったが、それでも、その子と一緒に居たい気持ちは揺るがなかった。そして、その恋の相手はなぜかいつもの場所にいる。
「ねぇ、ずっと剣を振っていて、楽しいの?」
いつもの時間。いつもの剣の鍛錬メニューをこなす場所の丘で会う相手。腰まで伸びる黒髪は漆の様な華やかさを持ちながらもどこか気品と近寄り難くまるで皇族を相手にしているかの様な雰囲気を醸し出す。
村一番、もといこの国、一番とまで言われている少年にとっては唯一の友人であり、幼馴染の少女なのだが、少年は名前を知らなく、反対に少女の方も知らないし、どう言った経緯で関係を持てたのか、ですら忘れてしまうほどの長い時間を過ごしてきた。だが、名前を知らない以上、只の顔見知りの関係と言えばそんな関係かもしれない。
「生きて行く為に必要。自分が楽しいとか楽しくないとかは関係ない」
「つまんなーい、もっとさ、男の子だったら燃える様な事をしないの?」
「燃える事がない。暇も。時間もない。そんなことしてたら命を落とす」
少年は生きる為に必死だった。でも、豊かで、恵まれている環境で育った少女にはつまらない答えが返って来た。
「悲観的だね」
「違う。現実を見ている」
「現実を見ているなんて、逃げる口実だと私は思うな」
「……」
少女の言葉に少年は答えなかった――答えられなかった。
「で、黙り込むんだね。逃げるのがお上手で」
「……」
少年は剣を振る手を止めた。
それは刹那の出来事。
「少し嫌になったからってすぐ武器や力で脅すのね、私はそう言うの嫌いだわ」
さっきまで地面に向いていた剣先が少女に目先で止まっていた。少女が普通であるならばここは尻もちをつく所、もしくは少年に対して恐れを抱く所だが、少女は眉一つ動かさずことに動じなかった。
「違う」
だが、少年の行動は脅す事ではなかった。もっと別の事。
「え?」
少年は剣を持つ手を少し捻り、そのまま、少女の目先にある剣先を青空に掲げあげる様に斬り上げる。すると、上から真ッ二つに斬られた小指の第一関節ぐらいの大きさの毒蜘蛛が足を微動させて落ちてきた。
「こんな小さな蜘蛛を……、いえ、ここは素直にありがとうと言った方がいいわね、ありがとう……、なんて言うとでも思った? 思った? 私の髪の毛が数本短くなったじゃない!」
「別にどうでもいい事。目の前でもがきながら、泡吹きながら死なれたら困るだけで斬った。髪の毛は命より軽いし、また伸びるから気にしない。」
剣を鞘にしまう前に強く左右に振りゆっくりと鞘にしまう。蜘蛛の体液がついているから剣を錆びさせない為の行動だろう。
「本当に、かわいくないわね。私が素直にありがとうって……言ってないけど、そこいらの男どもなら失神するほどの行為をしたんだからね」
誇らしげに言う少女に少年は少し笑ってしまった。
「フッ」
「あ、今、笑ったでしょ。本当の事よ、なんなら、そこに居る畑のおじさんを失神させてやるわよ!」
「迷惑」
少年の言葉が深々と少女の心に突き刺さった。迷惑。ずっと美少女扱いでちやほやされていた少女には無縁だった言葉、だった。
「君、私を怒らしたわよ?」
「だから、どうしたの?」
只、少年には少女のプライドなんてちっぽけなモノには興味なんて持てやしない。むしろプライドは生きる為に不必要なモノ、生きる為には最初に捨てるべきモノをなぜこの子は捨てずに守っているのか少年には理解が出来なかった。
「うりゃぁぁぁぁ!」
不意な少女の理解不能な攻撃、正確にはただ単にタックルしただけなのだが、少年はなぜタックルされなければならないのか理解できなかった。が、それよりも、タックルが思いのほか重く痛かった事が問題だ。
「かわいくなぁいぃぃぃ!」
少女はタックルで少年を倒してからの馬乗りで少年の行動を制限した上で、少年の両側の頬を思いっきり引っ張る。
「いぎ。いぎぎいい」
「ほらぁ、どう、痛くて何にも言えない?」
「ぎみぃヴぁ、ざっき言っだ。ずごじいやになったがらってすぐ暴力をぶるのって」
「何言っているのか、わかんないわね、えぇ、わかんないわよぉぉぉッ」
ごもっともなことを言われた事に更に引っ張る力を強くして、最大まで到達するとすぐに手を離した。
「どう、これで私の偉大さがわかったかしら?」
「君、さっきすぐ嫌になったからって暴力に走るのって言っていた……」
頬をさすりながら少年は言う。
「知らないわ、そんなこと、全く記憶にありません」
「逃げた、また暴力?」
「違う、コレは……」
なんとか逃げようとする少女だが、墓穴を埋めることはできなかった。
「静かに。誰か来る」
突如として少年が感覚を敏感にさせ、こちらに歩いて来る者に意識を集中させる。
「え?」
「また」
「えっ、あっ、ちょっと待って」
少女の呼び声を無視して瞬きをした瞬間に少年は消えていた。
「おっ、またここにいたかリンよ。探しとったよ。さぁ、みんな待っとるから行こう」
「本当に、お父さんは空気が読めないのね」
少女――リンを探していた男はリンの父親だった。まだ三十四歳にもかかわらず白髪と白髭。まるで老人の様なイメージから、イージス村の子供たちの間で「老師」の愛称で親しまれているほど老けていた。
「そ、そうか、お父さんこれでも風向きを読む事は猟師仲間の間ではズバ抜けて上手い方なんだがな……、娘に言われると、これまた……きついね……」
ガックリと肩を落とすのだが、話の内容が風向きではなく、雰囲気と言う事に気付かぬ父親にリンは頭を抱える。
「お父さん、話の内容が違うよ」
「え、空気を読むって風向きを読むってことじゃないのか?」
「もう、いいよ。お父さん早く行こう」
「他にどんな意味があるんだ、さっぱりわからん……」
「お父さん、行くよ!」
「あっ、あぁ、行こうか、今日の集会はなんだか重要な事らしいぞ」
「そうなの、まぁどうでもいいけどね」
名残惜しそうに少年の家の方角を見るも父親が急かしてくる鬱陶しさを振り払うため急いで目的の場所へと足を運ばせた。
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ここはイージス村の人々が集まる集会場。いつもなら和む空間で、夕方になると村長が子供たちに昔話をする場所ではあるが、今は和む様な空気、空間はなく首周りの空間が切り詰められ、首筋のすぐ横に日本刀の様な鋭利な刃物を付きたてられている様な雰囲気。少しでも首を動かせば細胞が斬られて血どころか、首を飛ばされてしまう錯覚、感覚。
「皆の衆、今日集まってもらったのは他でもない、我らイージス村の神から御告げがあった時だけに行われる儀式『奉天の儀』の時が来たからじゃ」
集まった村民の前に村長は立ち、行き成り『儀式』の時が来たと言う。
「『奉天の儀』とは何だ?」
率直な意見が村人から出された。
「知らぬものも多いが、無理もない話よ。前回の『奉天の儀』の日時は七十一年前の事じゃからな」
七十一年前、それは村人がざわつくのも無理はない。ここにいる村人、村長を除いては七十一年前には、誰一人として生まれてないからだ。
なぜ、そんな名前なのか、何で今、この時期なのか、具体的に儀式は何をやるのなどの意見が飛び交う、段々と多数の質問が一つの問いになっていく。
「その儀式には生贄はいるのか?」
という疑問に、重要点に、欠点に。
「それがこの儀式には生贄は必要なんじゃよ、そして、今回の儀式の生贄に選ばれた者のは――」
いかがでしたでしょうか? 我が主に質問に疑問。感想に評価。
があるのでしたらどうぞご自由にお書き下さい、評価ください。
ですが、我が主は物語りを書くのは未熟ですので、どうか評価してくださいますようお願い申し上げます。それでは、またの機会に会いましょう。