表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第一話・『暗闇、硝煙、紅い瞳』…前編


この世界は、不条理で満たされている。


また、日常のすぐ裏には、非日常への入り口が待ち構えている


条理は不条理に抗えず、日常はいとも簡単に非日常へと変貌するのだ




 群青の下、緋色の上

第一話・『暗闇、硝煙、紅い瞳』…前編



その男は、警察に追われていた。

ガラの悪い上着をはおり、その下には悪趣味な色彩のシャツを着ている。典型的なチンピラの服装である。

その足は、ただ一心不乱に地面を蹴り、また時折、水溜まりの水を蹴った。

その泥水はズボンの裾を汚したが、当の持ち主である男……チンピラは、そのようなことには目もくれずに走り続けた。

もはやその足は、走ること以外の動作を忘れてしまったかのように。



いったい、どれぐらい走っていたのか?

あたりは廃墟しかない住宅街、夜道を照らしているのは夜空に浮かぶ半月のみである。

チンピラは怯えきった目で後ろを確認したあと、糸の切れた操り人形のように、その場に崩れるように座り込んだ。


もはや呼吸も満足に行なえず、足は鉛のように動かない。よほど体を、肺を酷使したのか、喉の奥からじわりと鉄の味がにじんだ。


「へへっ……しばらく煙草はいらねぇか…」


汚れてシワだらけの上着の内ポケットから真新しい煙草を一箱取り出すと、自嘲気味に下卑た笑いを浮かべながらそれを投げ捨てた。

周囲は暗闇と静寂に包まれ、人間どころか野良猫の気配さえない。

これからどう行動しようか、それを考えていたときだった。



――グシャ―


まだ中身の入った煙草の箱を踏み潰す音が、男の背後から夜道に響いた。


「ひっ……!!」



チンピラは物音に驚きながらも素早く、上着の内側のホルスターから拳銃を取り出し、体ごと振り向き背後へと向けた。


チャキッ……と軽い音をたてながら、震える親指で大口径のリボルバーの撃鉄を起こした。

人差し指はすでに引き金へとかけており、いつでも発砲できる態勢だ。


「だっ……誰だ、テメーは!!」


…どう見ても、警官には見えない。

僅かに声を震わせながらも、しっかり拳銃の照準を目の前の男に合わせて声を張り上げる。

射撃の基本通りに、狙いを体の中心へと向けながら、チンピラは恐らく敵であろうその男を観察した。


…黒い……


その男に感じた最初の印象はそれだった。

短く刈り揃えられた、漆黒の髪。この北国ではめずらしい、恐らくは生まれ付きなのだろうか、褐色の肌。

上下は黒のスーツ、中のシャツは茶色だが、ネクタイはまた黒だ。

そしてその上に黒のロングコートを羽織り、また表情もサングラスで隠されている。


「…………」


「だ、誰だって聞いてるだろうが!!」


ただ無言で見下ろしてくる男に、再度チンピラが声を張り上げる。


「……アラン・ノーチェスだな…」


はじめて、目の前の男が口を開いた。冷たく低い、静かな声だったが、その名前は確かにチンピラのものだった。



「だ……だったらなんだってんだ!」


なおも声を荒げるチンピラに、男はゆっくりと一歩を踏み出した。


「…簡単なことだ……」


再び、静寂の中に男の声が響く。決して大声ではないが、その冷たい声色は、ただそれだけで堪え難い威圧感があった。


「……今、この場で、お前には死んでもらう……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ