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白き御遣いと神子  作者: 木谷 亮
白き御遣いと聖なるお山
9/26

第9話 泉へ

その日は泉に一緒に行った。

王子が「ちょっと臭ってきたな」と自分自身の体をクンクン嗅いでいたためだ。

私はそんなに気にならなかったけど、人間の王子にとってはとても気になっていたらしい。


「お前が食料を採りに行っている間に、そこの水たまりの水を掬って体を拭ったりはしていたんだが。どうにも………臭さが限界を迎えてしまってな」


そう苦笑いしながら言われては、なにはともあれ泉に案内するしかない。

人間一人分の飲み水程度であれば巣穴の脇にある水たまりでも良かったのだが、体を洗うとなれば話は別だ。

王子の体調もだいぶ回復しているようだし、そろそろ水浴びくらいしても大丈夫だろう。


「グゥガルゥゥゥ(こっちだよー)」


とスキップしながら歩いていく私に「嬉しそうだな」と笑って、王子も後を付いてくる。

私も王子の世話を始めて以来、久々の水浴びなのだ。そりゃあ、心も浮き立つってもんだ。

この頃は王子も私に慣れてきたので、私も安心して野太い声を出すことができていた。種族を超えた友情って美しいね!


泉に着くと、私は躊躇いもせずに泉に向かってジャブーーーンとダイビングをかました。

実はダイビングするのはいつものことなんだけど、王子は突然の私の行動に随分驚いたみたいだ。


「うわっ、お前いきなり…っ水しぶきが……コラ!…ッ」


バッシャンバッシャン泳いでみせると、王子は「分かった分かった」と笑いながら自らも服を脱ぎ始めた。

王子が最初に着ていたローブは、王子を拾ったときにうっかり私が川へ流してしまったために無い。

今の王子の恰好は複雑な模様の入ったシャツと、紺色をさらに濃くしたような色のズボン、そして革のブーツだけだ。

王子はさっさとシャツを脱ぎ捨て、その引き締まった胸筋を露わにすると、そのまま下半身を包むズボンに手をかける。


(んんんん?!)


ベルトをガチャガチャし始めた様子を見て、私は水しぶきを立てていた腕を止めた。


(こ、これは………38歳の乙女としては、ピンチなのではないでしょうか……!)


裸の女と男が一人ずつ。

周りには人っ子ひとりおらず。

それこそ、ここでピンクな出来事がいつ始まってもおかしくない………そんな、状況。




―――――なぁんてね。

私の今生は獣ですから、イヤンアハンなことなど欠片も起きるわけがないというわけです。チッ!


とはいうものの、正直、前世の意識がある私には刺激が強すぎる。

慌てて泉の端っこまで泳いで行って背を向けたが、王子の動きは思ったよりも素早かった。その素早さを他のことに活かせばいいのに、と思うくらいに素早かった。

いつの間にか近くにきたらしい王子の引き締まった腕が、私の後ろから肩越しにそっと伸びてきて。


「どうした………。急に大人しくなったな?」


咄嗟に振り返って。

私は、カチンコチンに固まってしまった。


(お、お、お、己はなんというお色気を……!!)


王子の全身は―――――太陽の光を受け、水に濡れた肌が艶めかしい輝きを放っていた。

筋肉がバランスよく全身に付いていて、まるで彫像のような体型だ。きっと鍛錬で得た肉体なのだろう、私の顔に触れた手に目を落とせば、その手には剣ダコらしきものがシッカリとついていた。


それを見て、私は一瞬胸をキュンとさせる。

乙女は、生まれ変わっても乙女らしい。

こういう見た目キラキラ、中身は努力してます、みたいな人に前世の私はまさに弱かった……!


そして再び王子の体に目を戻せば、麗しく括れた腰が目に入り。そのまま視線を落としていくと、惜しげもなく晒されたその下半身の中央にはご立派な魔王が鎮座――――――ってコラァ!隠せ!おまえ、隠せ!男として、隠せェェェェェ!!!う、ぅぅぅ~~~鼻血出たらどうすんのよぉぉ!!

せめて全身水に入っていればいいものを、この辺りは水深が浅いのだ。見えるのだ。思わず、み、見てしまうじゃないかぁぁぁぁ~~~~。


(あああ私は獣、ケモノ、アニマルなの、だから見ても大丈夫、だいじょ――――)


「おい。お前、挙動不審だぞ?行動がおかしいのはいつもの事だが」


と言われて「なんだと~~~?!」と言い返すために思わず王子に向きなおるが。


(やっぱり大丈夫じゃないよぅ~~~~!!やっぱり見たらマズイって!いくら獣でもマナーは大切でしょ!)


私は慌てて下を向いた。

この全身を覆う白い毛のせいで肌の色が分からないのが幸いしたが、もし人間の姿だったら全身真っ赤に染まっていただろうな、とチラリと頭の隅で思った。


慌てふためく私を見て、分かってるんだか分かってないんだか、王子は「フ……」と笑うとようやく私から離れて目的であった水浴びを開始してくれた。

去り際に「そんなに俺はイイ男か?」という戯言を私の耳に残して。




くそぅ、からかったな?!


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