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白き御遣いと神子  作者: 木谷 亮
白き御遣いと聖なるお山
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第4話 落ちてた人間

その日も、私は食料を探しに山を歩いていた。

獲れる果実は、この間のリンゴもどき以降大量には見つからないけど、それでも何とか細々とやっていける程度にはある。

それに山菜もあるし。

本能ってすごいね!「これは食べれる」「これは食べれない」っていうのが何となく分かるんだよね。

おかげで山菜採りのとき、大変助かってます。ビバ、本能!


昨日までは少し遠い岩場あたりまで足を延ばして食料を探しに行っていたけど、今日は久しぶりに水場近くの採集ポイントへ向かう。

水場近くって言っても、いつも水を飲んでいる泉の付近じゃなくて、そこから少し川下へ下ったあたり。

その辺りには木苺もどきがいっぱい生っているポイントがあるのだ。

最近は果実が獲れる量も減ったけど、そこへはもう3週間近く行っていない。そろそろ実を付けていてもおかしくないだろう。今日のご飯は、少しは期待出来そうだ。


タッタカタッタカ、テンションを上げて泉のところから川下へと川沿いに歩いて行く。

スキップする獣というのも、なかなかお目見得できない光景だ。だが私にはできる!ふふん。

前世の記憶が、こんなところでも無駄に活きている。いよいよサーカス入団への道も開けそうだ。入らないけど。


上機嫌に歩いていると、何かがポツンと落ちているのが見えた。


(むちゃくちゃ大きい……蓑虫?)


山では見慣れない物体に警戒して、とりあえず遠くから眺める。

鼻や耳をヒクヒクピクピクさせて気配を探った。

知らないけれど、知っているような匂い。なんだか懐かしいような、初めてのような。

小さく聞こえる息使いに時折「う、うぅ……」とうめき声が混じるのが聞こえ、私はその不思議な感覚の正体を知った。


(人間だ!うわ、生まれ変わって初めて人間に会ったわ)


蓑虫のように見えたのも、どうやら茶色の布に包まれているからだと分かった。布……というかマントかローブ?だろうか。

私は人間の近くまでソロソロと近寄って行く。

その間も、周囲への警戒は怠らない。

もしも近くに他の人間がいて、この人間に近寄って行く私を見られたら、私はまるで「落ちてる人間を食べようとしている猛獣」にしか見えないではないか!

それはマズイ。非常にマズイ。

私は温厚な猛獣なのだ。

狩りも出来ないのに、勘違いした人間に逆に狩られたら阿呆みたいだ。


しばらく気配を探ってみたが、周りには私たち以外誰もいないようだった。

それに安心して、蓑虫状態の人間に近寄って、鼻先を押しあてた。

血の匂いはしない。

だが、何だか衰弱しているみたいだ。


(この布、邪魔くさい)


私は前足の爪を使って、人間を傷つけないように慎重に布を引き剥がした。

人間の全身が見えるようになり、私は探るような目で見下ろす。


人間は、身なりの良い男だった。

まだ若い。20代の後半くらいか。

キラキラと陽に透ける長い金髪は首の後ろで括られていて、いかにも高貴そうな顔をスッキリと見せていた。


(うーん王子様キャラだなぁ。ヨシ、こいつは「王子」と呼ぼう)


私は勝手に名前を付けた。

私の口の構造上、この人間の名を呼ぶことはまかり間違ってもないだろうが、名前をつい付けたくなってしまうのは前世の記憶のせいだろうか。



ところで王子、やたらと弱っていた。

先ほど鼻で確かめたとおり怪我はしていないようだが、このまま放置すれば、まぁ……命はないだろうな。

それに、この山には肉食獣もいる。今までは大丈夫だったようだが、この状態が続けば、いずれは餌食になることも考えられた。…………あ、私じゃないからね?!私は自他共に認める草食系肉食獣です。


しばらく「ングルゥゥ(うーん)」と悩んで。


…………。


……。


…。



ハハハハハ、巣穴に連れてきちゃったよ!

今は私の作った葉っぱベッド(with私の抜け毛)で寝かせてるよ!





ところでどうしよう、この人間!



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