第3話 山の食糧事情
山の生活にも獣の体にも慣れてきた。
と言っても、翼はもうハッキリキッパリお飾りだね!背中に付いてるくらいだから使えるんだろうけど、力の入れ方とか分かんないし、アクセサリーとして認識してる今日この頃です。
私が主に活躍させるのは、前足。
人間だったころの記憶のせいか、獣にしちゃあかなり器用に動かせているほう。
だって、ほら見てほら見て!
こうやって肉球の間に石を掴んでだね。
―――ヒュッ―――…ボトッ―――
っと、いう具合にリンゴもどきに石を投げつけて落とす、なんて芸当もできるわけなのだ。凄いでしょ?サーカスにも本気で入れます。
うん。中途半端に木に登って転がり落ちる前に、最初から石投げれば良かったじゃないか、と思うよね。自分でもそう思う。後悔という言葉はね、後に悔いると書くから後悔なのです。………私が一番悔いてるんだよ!
しかし、前世の記憶というのは「こういう時に役に立つなー」と私は認識を改めた。
生肉食べられなかったり、獣らしい軽やかな動きがいまいち出来なかったりと、マイナスなことのほうが多い気もするけど、たまには良いこともあるらしい。
私が石で落としたリンゴもどきは、そこそこの収穫になった。
全部で30個くらい?いやぁ頑張った頑張った。
これで明日……食べる量を我慢すれば明後日くらいまでは、空腹をしのぐことができる。
私はホクホク顔(たぶん見た目には分からないけど)で、木の枝で粗く作ったカゴの中にリンゴを入れていく。
本当に目の粗い、どっちかというと「鳥の巣?」という感じのカゴだが、我ながら「よくぞ作った!」と思う快心の作品だ。
なぜなら、このアニマルなお手手ではね、カゴは編めないのですよ……。だからいろんな形の枝を拾ってきて、生け花のように、いやむしろパズルのように組み合わせて作ったのが、このカゴというわけで。
どうだ!凄いだろう!
前世知識、またしても役に立ちました。
リンゴもどきを我が家(洞穴)に持ち帰り、ホッと一息つく。
収穫してきたばかりのリンゴもどきをひとつ口に入れ、芯ごとバキバキに噛み砕いた。
「グガァ、グルルゥ(うーん、ジューシィ)」
この逞しい顎は、食材を無駄にするということがない。種だろうが芯だろうが、私の歯と顎の前ではスポンジのようなもんだ。
どうしても口の構造的に、口の端から果汁が零れてしまうのだけが難点なんだけどね。まぁ、零れた分も舐めとっちゃうから問題ないけど。勿体ない、勿体ない。
しかしバキバキジャクジャク咀嚼しつつも頭に浮かぶのは、最近の食料事情への不安だ。
ここ数週間、目に見えてこの山から食料が減っていっていた。
それは「私が食べ尽くしたから」とか「季節が冬に近づいたから」という理由では、絶対的にない。
なぜ絶対的に、とまで言えるか。
それは、まず第一に、私が食べ尽くすほどこの山に生る果物は少なくないからだ。
元々多くの果実が実っていたというのもあるが、この山は花を咲かせ実を付けるまでのスピードが異常に早い。
私が捥いでしまったこの実だって、数日も経てばまた同じようにそこに実を付ける。
だから私がこの山に生まれて半年間、高い枝に生っているようなリンゴもどきなんて狙わなくても、低いところに生っている果物だけをお腹一杯に食べてこられたのだ。
それが、最近はなかなか実を付けなくなってしまった。今日や明日はこのリンゴもどきを食べていられるが、そのあとはまた食べ物を探すのに苦労するだろう。
そして第二に、季節についてだが…。
この山にはどうやら四季というものが無いようなのだ。
半年間ここにいるが、気温も気候も毎日似たり寄ったり。たまに雨が降ることもあるが、嵐になるほどではない。
つまり、環境は何も変わっていないのだ。
なのに、なぜ。
急に、獲れる果実の量が減ってきたのか。
私がその答えを知ることができたのは、それからもうしばらく後のことだった。