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白き御遣いと神子  作者: 木谷 亮
白き御遣いと人間の事情
22/26

第22話 神殿探検

現在、私は神殿内の探検中である。

王子たちは今頃部屋で私には聞かせられない難し~~い話をしているそうなので、私はこうして王子たちには内緒で探検しているわけなのだ。


私が神殿を探検し始めてからというもの、幾人もの人間から声をかけられたが、大体相手の反応は2種類に分けられた。

例えば神官。

彼らの場合は私を見るなり、「御遣い様!」と伏し拝んだ。

……文字通り、伏し拝むのだ。床に頭を擦りつけんばかりに姿勢を低くし、ありがたやありがたやと拝み倒す。こちらとしてはちっとも有難くない。

それでも彼ら神官はまだいいほうだ。彼らは「白き御遣い」に対して敬意を強く持っているため、一定の距離を置いて話しかけるから害はない。

もちろん平伏して拝まれるのは嬉しいものではないが、それでも勝手に私に触れようとしないだけマシだ。


私が辟易するのは、神殿にお祈りやお布施にきた女たち。

彼女たちの場合、数人の集団で現れては「きゃーー可愛い!!」などと騒ぎながら私を代わる代わる抱き上げては頬っぺたをしつこいくらいに突くのだ。

私の頬っぺたが柔らかいのは分かる。突きたくなる気持ちも分かる。

私だって前世、友人の子供を見ては「可愛い!」と心ゆくまで頬っぺたを突いたものだ。

しかし自分がされる立場になった今は、あのとき突きに突いた友人の子に心底詫びを入れたいと思うほどに私は辟易していた。頬っぺたツンツン、地味に痛いです。


そんな彼らから我が身を守るには、王子のそばに隠れるのが一番の策なのだが…。


(ったく、なーにが「これから大事な話し合いをするから部屋で大人しく待っていろ」よ)


先ほど言われた言葉を思い返して、私はムカムカとする気持ちのままに床をダンダン踏み鳴らしながら歩いていく。

もしこの神殿が木造りでできていたなら確実に踏み抜く勢いだが、床も壁も天井も何もかもが天然石でできているこの神殿が壊れる心配は、幸いにもない。


不審者の侵入を防ぐためか、はたまた「白き御遣い」様が脱走するのを防ぐためか。

王子たちによって、専用に与えられた部屋に押し込められた私は「なんぇとじこめーうんでしゅか!(何で閉じ込めるんですか!)」と外鍵の付けられた扉の前で抗議の声を上げたのだが、返ってきたのは王子の「ほんの一時だ。良い子にしてろ」という素気無い言葉と、アラヴィの「御遣い様。発音が元に戻っていらっしゃいます。どうぞこの機会に特訓なさると宜しいかと…」というやんわりしつつも厳しい言葉だった。

アラヴィのことは味方だと思っていたのにこれはちょっとショックだった。…もしも獣の姿に戻ることがあったらアラヴィのベッドや椅子にもたっぷりと私の毛と脂を擦りつけてやる!


…おそらく私をいろんな危険から遠ざけるための処置なのだろうとは、分かっている。私の存在というのは誘拐の危険すらある貴重なものらしいということは山を下りる時に散々聞かされてきた。

私を心配するその気持ちはありがたいが、閉じ込められる私としてはこの状況には全く納得がいかない。これでは私は鳥かごで飼われている野鳥ようなものではないか。

閉じ込められた私はしばらくの間頬をプクーッと膨らませていたが、しかしすぐにハッと顔を上げ


(……ふっふっふ、私を舐めていませんかね?諸君!)


と不敵な笑いを浮かべた。


確かに私はヨチヨチ歩きで、言葉もおぼつかない。

見た目にも小学生ですらない年齢の幼女だし、「鍵をかけておけば出入りできないから大丈夫だろう」と彼らが思い込むのも無理はない。

しかし!私をそんじょそこらの幼女と一緒にしては困るのだ!


私は部屋の前から人の気配が完全に消えたのを確認すると、さっそく行動を開始した。

脱出ルートを確保する為である。

ああまで言われて黙って閉じ込められているのは性に合わない。絶対にこの部屋を抜け出してやるのだ!

部屋をグルリと見回してみたところ、この部屋には窓があるもののそれは嵌め殺しの物でとても開きそうになかった。外側から鍵を掛けられた出入口の扉は内側に鍵を解除する場所はなく、この部屋はまさに人を閉じ込めるのに適した部屋のようである。けっ!

しかし出入口扉の上を見上げてみると、遥か高いその場所には小さな通風孔があった。…小さいが、今の私のサイズなら出ようとすれば出られないことも無い。

他にも出入口になる場所はないかと天井や床も探ってみたが、通風孔以外に出られそうな場所は見つからなかった。どうやら廊下とこの部屋を繋ぐ唯一の道は、この通風孔くらいのようだ。


通風孔から出る、と決めた私はさっそく部屋中の家具を集め始めた。

小さな踏み台から大きな飾り机まで。どんなに大きなものでも、私にとっては大した重さではない。もし傍で見ている人がいたなら、こんな小さな体をした幼女が自分の体の何倍もある家具を運んでいる様は、非常にシュールに映るだろう。

先日気が付いたのだが、どうやら私は小さな子供姿になった今も、獣姿の時と同様の力があるらしいのだ。

この力に気付いたキッカケは、菓子包みをうっかり飾箪笥の裏に落としてしまった時のこと。

菓子包みを拾おうと箪笥の裏を覗きこみ、何気なく「この箪笥、邪魔だなぁ」と箪笥を持ちあげるように力を込めたら……軽々と箪笥が浮いてしまったのだ。

慌てて後ろを振り返ると、そこには瞑目している王子と、窓の外を眺めるグラウ、カンチーと呼ばれる石と水を使った時計を覗きこんでお茶の蒸らし時間を計るアラヴィ。

3人とも丁度こちらを見ていなかったので私のこの尋常ではない腕力を知らないが――――今回はそれが功を奏したようである。


私は重い家具を壁際に配置し、その上には軽くて安定感のあるものをどんどんと乗せていった。

背が足りないので、順番にひとつひとつ階段状に並べていく。

ひとつ乗せては下がり、またひとつ乗せる。そんなことを繰り返していると、ついにドアの上にある通風孔まで家具の階段が到達した。


(後は……ロープがあればいいんだけどなー)


部屋の中をもう一度見回し、私はベッドシーツに目を付けた。これを捩じって結び付ければ、強度もある程度は確保できるだろう。

私はせっせとシーツを捩じって簡易ロープを作り上げると、それを室内の柱に結び付けた。

そして簡易ロープを肩に引っ掛けて家具の階段を上って通風孔までやってくると、ロープを通風孔から外へ垂らす。

するとアラびっくり!脱出ルートの出来上がりである。


「っしゃ!!やったぁ!……っと」


思わず漏れた歓声に、慌てて口を手で塞ぐ。

声が王子に漏れ聞こえたら元の黙阿弥、せっかくの「部屋脱出計画」も台無しだ。

周囲の気配を探り、大丈夫そうだと確認した私は一人ほくそ笑む。室内を振り返ると、脱出するために移動した家具やシーツで部屋は滅茶苦茶になっているが……、そもそも王子たちが私を閉じ込めたりするから悪いのだ。私は悪くない!たぶん…。


私は念のためロープを数回軽く引っ張り強度を確かめてから、それを伝うようにスルスルと壁伝いに降りる。

ロープの材料となったシーツはいかにも高級品の柔らかなものだったから途中で破けないかドキドキしたが、その場仕上げにしてはなかなか良いロープが出来上がったようだ。


無事に地面に着地した私は乳白色の廊下の先に視線を向けると、鼻から大きく息を吸った。

最初は閉じ込められた腹いせに部屋を抜け出そうと思っていただけだったのが気がつけば探検気分も盛り上がり、今の私は冒険小説の主人公!……のつもりなのだ。

そう。この廊下の先には、冒険が待っている。神殿探検という名の冒険が!

私は改めて「いくぞー!おー!」と小さな声で気合を入れると、意気揚々と冒険の第一歩を踏み出した。


こうして私は神殿内の探検に繰り出していったわけなのである。

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