表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き御遣いと神子  作者: 木谷 亮
白き御遣いと聖なるお山
2/26

第2話 生まれてから半年間のこと

私はこの山で生まれた時から、ずっと一人で生きてきた。

別に育児放棄されたというわけでもない。気がついたときには、ただ、私という存在だけがたった一匹、ここに生まれていたのだ。


たぶん、私には母親とか父親そのものがいないんじゃないかな。自分のことながら良く分からないけど、そんな気がする。

分からないと言えば、そもそも私は何という生物なのかすら分からない。初めて自分の姿を見たとき「もしかしてホワイトタイガー?」とか思ったけど……………、うん。ホワイトタイガーに翼は生えません。



私には、生まれた瞬間から前世の記憶が存在していた。

前世の名前?

もちろんちゃんと覚えていますとも。

叶五香かのういつか、38歳。ついでに独身で、会社員。それが……前世の私。

大手商社でバリバリ働くキャリアウーマンで、自慢は夜景が綺麗に見えるマンションに住んでいること……といえば聞こえはいいが、ぶっちゃけて人生の負け組でした。ハイ。

友達は次々と結婚し、「五香は仕事ができてカッコイイねー」なんて私を羨みつつも皆幸せそうに我が子をその腕に抱き。

彼氏と眺めればロマンチックな気分に浸れるであろう夜景の綺麗な自慢のマンションは、実はシングル用マンションで、一人ぼっちで酒飲んで寝る毎日。

夜景?そんなの関係無いわぁぁ!通勤に便利だったから、ってだけだもん。あのマンション選んだの。……寂しいヤツとか言うな!


―――正直なところ……、前世の自分の死因は分からない。

気がついたら既にここにいたからねぇ。

まぁ、毎日あれだけ不摂生な生活して酒かっくらってたのだ。肝臓か心臓か、何かの病気にでもなったのかもしれない。

生まれ変わった今となっては、自分が死んだことを大して気に病んでもいないけど。



ともかく生まれたての私は、しかし生まれたてにしてはしっかりした足取りで、山を歩き回った。

まず寝ぐらを見つけなければ、と本能が促したのだろう。

やがて寝ぐらに良さそうな洞穴を見つけ、そこにいたキツネっぽいがキツネよりかなり体の大きな動物の家族を追い出して、そのままその洞穴を我が家にすることにした。


ハハハ、鬼だって?いえいえ獣です。

そりゃ少しは「キツネ(?)一家に申し訳ない」とか思ったけど、こっちだって生活がかかってるからね。住むところは大事ですよ。

コチラとしてはキツネ一家と同居するのも吝かでもなかったけど、アチラのほうがノーサンキューだったらしい。

そりゃそうだ、いくらまだ生まれたてとはいえ、こんな見るからにバカでかい肉食獣っぽいのと一緒には住めまい。


洞穴の奥には貯蔵された木の実類やネズミっぽいのの死骸が転がっていて、せっかくなので私はありがたく食料も頂くことにした。


フフフ、鬼だって?いえいえしつこいようですが獣です。世の中弱肉強食なのです。

お腹が減っていた私は、前足で器用に木の実を掴んで齧り付くと、後ろ足でネズミ(?)の死骸を洞穴の外へと蹴っ飛ばした。

私の素晴らしくレベルの上がった脚力は、一撃で不要な食糧を吹っ飛ばしていく。というか食えるか、こんなもん!

死骸はそのまま放置しておいたんだけど、気がついたら無くなってたから、多分どっかの動物が持っていったのだろう。

持って行ってもらって良かった、玄関先で腐ったら嫌だなぁと思ってたんだよね。




山は食物の宝庫だ。

獣としては偏食の激しい私でも生き延びられる程度に、果物やら山菜やらがそこら中にあったし、水浴びもできるような水場だって洞穴からそう遠くないところにある。

それに天敵になるような獰猛な動物がいなかったことも幸いした。というか私が一番獰猛っぽいぞ。見た目だけだけど。

おかげで小動物には怖がられる怖がられる……。


それでもここで暮らして半年ほど経つ。

一回も彼ら小動物を襲わないどころか、猛禽類に狙われているところを助けたり、溺れてるところを助けたり、獲ってみたはいいものの生臭くて食べれなかった魚なんかを貢いだりしたおかげか、最近では警戒心もだいぶ薄れてきたみたい。

私が木陰でお昼寝とかしてると近寄って来て、フンフン匂いを嗅いで舐めてくれたりもするようになった。

あまりにもそれが可愛いからついギュ~~ッとしたくなるんだけど、実際にやったらひ弱なこの子たちのことだ、簡単に死んでしまうだろうと想像がついた。うぅ、この強靭な体が恨めしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ