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白き御遣いと神子  作者: 木谷 亮
白き御遣いと人間の事情
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第19話 いざ人間世界へ

じーちゃまの腕に抱かれて山を下りながら、私は少し感慨深いものを感じていた。

いくら野生的サバイバル生活だったとはいえ、半年間も住んだ巣穴を離れることになったのだ。

寂しいという気持ちが湧いてもおかしくない――――――はずなんだけど全然、全く以て寂しくないのは何故なんだ!

どうやら私という獣は、結構薄情な獣だった模様です。



「おお、そういえば御遣い様にお名前をお付けせねばなりませんな」

「なぁま……わぁ!」


じーちゃまは私の脇の下に手を入れて「高い高い」しながらニコヤカに話しかけてくる………ってコラコラコラ、私これでも大人ですよ!たぶん、じーちゃまの子供さんと同じくらいですよ!


「そう、お名前です。例えば私はグラウと申します。そして彼らにもロイズ、ニコル、サマンディといった名前があります」


私の内心を知ってか知らずか、じーちゃまは「高い高い」を止めると、傍らにいる甲冑たちを私に指し示した。

名前を呼ばれた彼らは次々に頭を下げていく。

頭を下げながらも時折私と視線が合うと彼らは優しく微笑んでくれて、私は少しばかりドキドキする胸をそっと抑えた。


(幼児、バンザイ…!こんな優しい目で見て貰えるなら、幼児で良かったと心から思うよ…!)


彼らだって、人の子だ。

いかに白き御遣いの化身と言えども、38歳独身女にはさすがにここまで優しく微笑んではくれまい。


「こうしてお名前があるととても便利なのですよ。ですから御遣い様にもお名前を――――」

「なぁまえなぁ、あいましゅ。かのーいちゅかでしゅお」


くっ、この舌が憎い!

「名前なら、あります。叶五香ですよ」と言いたいのに、この回らない舌めっ!!


しかし私には通訳マン・王子がいる!

私が期待を込めた目で王子を見つめると、王子はやや顔を赤くしながら「彼女の名前ならすでにあるそうだぞ」とじーちゃまに伝えてくれた。

この照れ屋め。でも愛いヤツ!


「ほぉ、さすがは御遣い様。生まれながらにして名をお持ちとは」


じーちゃまがやたら感心してくれるので、私はエヘンと胸を張った。

得意げなその様子がとても幼く可愛らしく見えたのだろう、じーちゃまはデロデロに甘い声で「御遣い様はお可愛らしくていらっしゃいますなぁ」と目尻を下げた。

そのまま頬ずりしそうな勢いに、しかし私は若干体を引く。

抱っこと高い高いは我慢するけど、頬ずりだけは勘弁です。


「それで殿下。御遣い様のお名前とは」

「あぁ」


自分しか通訳ができないからか、心もち得意げな顔をする王子。

私は王子に「よろしく頼むよ、通訳クン!」と目配せをすると、王子は小さく頷いた。


「彼女はカノーイ=チュカという名前らしい」


ちっとも分かって無いじゃないかぁぁぁぁ!!!





* * *





私が住んでいた山はアムネス山というらしい。

皆と下山して辿りついたアムネス山麓の町・リザンシェは、面白いくらいRPGの街並みに酷似している町だった。


前世で日本に住んでいた記憶に基づいて言えば、町というのは「この線からこの線までが町だから、この線に沿って丸ぅく家を建ててくださいねー」というものではなかったはずだ。

しかしこのリザンシェという町は、不思議なほど綺麗に丸く形作られた町だった。


主に私への説明役を買ってくれているアラヴィ君によれば、中央に造られた神殿を中心として発展した町だからこそ、このような形になっているんだそうだ。

神気をキュールすることのできる神官たちは毎日神殿で祈りを捧げており、自然と神殿周囲はもっとも神気が程良く感じられるポイントらしい。

濃すぎる神気は体に毒だが、程よい濃さの神気は身体の治癒・強化効果がある。

だから、多くの町民が「より神気の恩恵を受けるために」神殿の近くに居を構えようとした結果、このような円形上の町になったのだとか。


「カノーイ様。我々は一旦神殿に寄ってから王城に向かおうと存じます」


すっかりカノーイと改名させられた私は、じーちゃま……グラウにそう告げられて神殿へと目を向けた。


神殿は何本もの太い柱で支えられた石造りの建物だ。

近くまで行って気がついたのだが石といってもコンクリート状のものではなく、淡い乳白色をした天然石を使っているようだ。

透き通るようなその色に私は「ムーンストーンで出来ているみたい」とウットリと眺めた。


(ちょっと削ってアクセサリー作ったら怒られるかなぁ…、でも私「白き御遣い」だから許されるかなぁ)


そんな心の中が表に出ていたのだろう、周囲の誰かからコホンという咳ばらいが聞こえてきて私は慌てて眺めるのを中断した。

危ない危ない、ちょっとくらいヨダレが出ていたかもしれない。


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