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白き御遣いと神子  作者: 木谷 亮
白き御遣いと聖なるお山
15/26

第15話 王子は王子

その場所にはたくさんの人間がいた。

生まれ変わってから初めて見た人間が王子だったが、どうやらこのあたりの人間は日本みたいに黒髪の人間があまりいないようだ。

大体が金色。あるいは栗色なのだろう。


逆に、目の色は随分と種類が豊富なようだ。

緑やら紫やら赤やら。

ちなみに王子は青色です。金髪は金髪でも陽の光に透けるような金髪と、抜けるような青空の色をした目を持つ美形なので、まさに「王子」というニックネームがピッタリでしょ。我ながら素晴らしいニックネームを付けてあげたもんだと惚れ惚れしてしまうね!




急に山に現れた見知らぬ人間たち。

その彼らの前にいきなり出ていくのはちょっと怖い気がしたけど、私は高度を保ったままに人間たちに近づいて行くことにした。

もしも山を荒らす目的でやってきたなら、いかにも獰猛な肉食獣に見える私が現れれば、彼らは怯えて逃げていくかもしれないし。

それに、王子が言うところの「白き御遣い」である私が空を飛んでいるところを彼らに見せつければ、畏敬の念を感じて山から出て行ってくれるかもしれない、と思ったのもある。


そんな思惑からそのまま人間たちのところへ飛んで行こうとする私に、王子は不思議になるくらい口を挟むことはなかった。

私が行くってことは、跨ってる王子も彼らの前で姿を見せるってことになるんだけど。


(もしかしてアレか!俺は「ジャングルの王者」ならぬ「お山の王者」だぞーーとか見せびらかすつもりか!)


王子は意外とロマンの分かる男かもしれない。ちょっと親近感。

私も前世の時からそういうノリは大好きだ。もう少し若ければコスプレでもしてキャラクターになりきるのも吝かでもなかったほどに。

まぁさすがにね?38歳で10歳くらいの可愛いキャラクターの格好とか、ナイナイナイ……。軽く羞恥刑ですよ!


(ヨーシ、任せとけ!私が神々しい「白き御遣い」を演出してあげるから、王子はせいぜい「王者」っぽいムードを醸し出しておくのよ?)


私は鼻からフンッと気合いの鼻息を吹き出すと、少しばかりウキウキとしつつ人間たちの頭上へ向かって飛んで行った。

私の背中に跨る王子の顔が、とても険しいものだったと気付きもしないで。






最初に私に気がついたのはどの人間だったか。

一人が私を指さして驚愕に満ちた顔をすると、それに気がついた人間たちが次々に私の姿をその目に認め、身を強張らせた。


「ま、まさか……白き、御遣い………!」


やー王子の言うことを疑うわけじゃないけどね?

本当に私って「白き御遣い」ってアニマルなんだねって思ったよ!

その名前からして神様から派遣された存在っぽいけど…、私、特に神様に会ったりしたことないんだけどなぁ。こんな俗物っぽいのが御遣いで本当に良かったんでしょうか、神様。


人間たちはしばらく固まっていたが、その中の一人が私の背に目を向けると突然――――


「王子殿下?!!」


と叫び声をあげた。

その声に、私の背に感じる、僅かな身動ぎ。

人間たちの声に、王子が動揺しているのが伝わってきた。


(王子の知ってる人なの?ていうか「王子」って……私の付けたニックネームのことじゃ、ないよね?)


王子も動揺しているようだが、私も混乱していた。


訳が分からない。

そりゃ、王子の素性も知らないままに一緒に暮らしてきたけれど、まさか本物の「王子」様だったなんて…思わなくても、無理はないでしょ?


(王子。王子、どう思ってるの。彼らの言うことは、本当なの?)


王子の顔が見たいと思った。

だけど私の背に乗ったままの王子の顔を見ることは出来ないし、彼自身沈黙を貫いているので、その胸中を察することもできそうにない。

私はもどかしい想いを感じながら、眼下の人間たちの様子を窺った。


「あ、ああぁ……やはり王子であらせられる!よくぞ……よくぞ生きて……ッッ!!」


突然のことに驚く私を尻目に、とうとう人間たちはヨヨヨ…と泣き出してしまった。


「王子殿下」と呼びかけたおじいさんを先頭に、中年のおじさんたちが数人、まだ若々しい青年たちが10人とちょっと。

皆それなりの装備を整えているらしく甲冑姿だったけど、おじさんたちと青年たちの中の2~3人は甲冑ではなくてローブを羽織っていた。

そのうち咽び泣いているのは甲冑姿の人たちだけで、ローブの人たちは地に手をついた状態でずっとブツブツ何かを呟き続けてる。


(………せ、精神的に危ない人たちの集まりじゃないよね…?)


ちょっと微妙な気持ちになりつつ、私は背中の「王子」を窺う。

もしも彼らが本当に王子の知り合いなら、王子を返してあげなくてはならないだろう。

私は、獣。

この山で一人で暮らしてきた獣。

たとえ「白き御遣い」と呼ばれる希少動物だとしても、「王子様」と一緒には暮らせない存在だ。



私は自分の心に踏ん切りをつけると、静かに地面へと降り立った。

後ろ足をそっと折り曲げてその場に伏せると、王子に降りるよう促す。


(降りなよ。王子の世界へ帰るといいよ)


少し寂しいが、仕方ない。

いつまでも人間と獣がいっしょに暮らしていけるなんて、私だって思っていたわけじゃない。……別れるのはもう少し先のことかな、とは思ってたけどさ。



王子は私に促されるまま、ゆっくりと地面に足を付けた。

それを見て人間たちが慌てて近づいてこようとしたけど、私に恐れをなしたのか、一定の距離を置いてそれ以上近寄ってはこなかった。


「…………………謀った者は、確保したのか」


ようやく口を開いたと思ったら、王子の発した言葉は、しかし私には不可解なものだった。


(謀った?)


謀ったとはどういうことだろう。

もしかして―――――王子が山の中で倒れていたことと何か拘わりがあるのだろうか。

首をかしげる私だったが、しかし人間たちにはその意図するものが分かったのだろう。

おじいさんが「はい。……殿下の予想通りの方かと」と答えると、皆一様に痛ましそうな表情を作っていた。



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