何もない町
久しぶりというには酷く長い年月であったように感じる。この町に帰って来るのは、洋にとって十数年ぶりだった。
何もない、つまらない町。
スーパーもなければコンビニもない。ちょっとした飲食店も、観光名所すら存在しない。真新しいものは何ひとつとしてなく、あるのは昔ながらの家々と河川敷公園だけ。町に唯一あるその公園は子供たちの遊び場となっていて、洋もひとり息子を遊ばせによく連れてきたものだった。
息子のひかりは追いかけっこが大好きだった。やんちゃ盛りで、家の中でおとなしくしているより外でのびのび遊ぶほうが性に合っていたのだろう。
土手を下り公園に着くと、ひかりは洋の手許を離れて走りだす。子供の足だから、当然逃げ回ってもすぐに追いつくのだが、いかんせん元気が違う。駆けてゆくひかりの影と、洋の影が芝の絨毯で煌めく。影であれば、高木の梢まで容易に登ることもできた。
洋がようやく息子を捕まえたときには夕方だった。川面に夕陽が沈んでいく。夏の終わりを告げる涼しい風が、汗ばんだ首筋を撫でた。息子をおんぶしている背中が重くなる。目一杯遊んで草臥れたのだ。
赤い夕焼けが親子を優しく包んでいた。何気ない日常のひとときだった。
洋はだだっ広くなった町中を歩きながら、かつてあった河川敷公園を眺めた。今は子供たちの笑い声は聞こえない。高木もない。芝に降り注いだ太陽光も、風に揺れる枝葉も、全て失われてしまった。あんなに、つまらない町だと思っていたのに。
洋が耐えられなくなって引き返そうとしたとき、耳に懐かしい声が聞こえた。洋は咄嗟に後ろへ振り返る。
穏やかな川では、反射する夕陽が何事もなく輝いている。




