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勇者学院にようこそ

掲載日:2026/02/08

モブはモブらしくね。

 畑仕事をしていた時だった。

 それは何の前触れもなく起こった。


「っ!?」


 左手の甲に突然焼けるような痛みが走った。

 あまりの痛さに、私は手に持っていた農具を放り投げてその場にしゃがみ込んだ。


「ティルネイ! どうしたんだい!?」


 周りに人が集まってくる。

 私は未だに痛みが続く左手を見た。

 すると手の甲にじわじわと文様が浮かび上がる。


「うそ……」


 模様が完全に浮かび上がると、先ほどまでの激痛が嘘のように消えていった。

 心配して駆け寄ってきた村の人の顔に驚愕が走った。


「あんた、それ勇者の文様じゃないかい!?」

「あ、いや――」


 わたしは慌てて手の甲を隠したけど手遅れだった。


「とうとうこの村に勇者が誕生したよ!!」

「何だって!?」

「ちょっと待って――」

「今日は祝いだ!!」


 人口たったの数百人の小さな村。

 私の手に勇者の文様が出現したというのは一瞬で広まった。

 文様が現れたのが昼頃。その日の夜には宴が開かれた。


 私の手の甲に現れた文様。

 それは特別な力を持った子供に出現する勇者の文様。

 文様が現れた子供は勇者学院と呼ばれる学び舎に通い、魔王を倒すための修行をしなければならないのだ。

 

「冗談じゃないって……」


 ウチにはチビが二人もいるんだ。

 お母さんと体の弱いお父さんだけではどうにもできない。

 私が家を支えないといけないのに。

 どうにか勇者学院に通わずに済む方法を考えないと……。


「文様は洗っても洗っても消えないし……一旦どこかに身を隠す……いや、意味無いか。最悪この腕を……ってそれじゃあ、私が働けないじゃん!」


 結局ひたすら打開策を考えてみたけど、良い案は浮かばなかった。

 季節が二つほど過ぎて、とうとう迎えの馬車がやってきた。

 馬車は貴族が乗るような豪華なものだった。


「ティーネ、しっかりとお役目を果たしてくるんだよ」

「ああ、家の事は心配しなくて良いから……ゴホッゴホッ!」


 いやいや、そんなぼろぼろな姿で言われても……。


「姉ちゃん、行ってらっしゃい!」

「早く帰って来てね……」


 しゃがんでチビ二人と目線を合わせる。


「二人とも、私がいない間、しっかりとお父さんとお母さんの言うこと聞くんだよ?」

「「うん!」」


 まったく、返事だけは良いんだから。

 やっぱり何が何でもすぐにここに帰ってこないと。



「長旅ご苦労様でした」


 ここまで私を運んでくれた従者の人が言った。

 馬車を降りると、目の前にはお城と見間違うほど大きな建物が建っていた。


「もしかしてここが……」

「はい。勇者学院でございます。今日から貴方様にはここで魔王討伐の為の勉学に励んでいただきます」


 周りを見ると、私と同じように左手の甲に文様のある人の姿が沢山あった。


「もしかしてあの子たちも?」

「はい。貴方様と同時期に文様が現れた勇者様です」

「……勇者って沢山いるんですね」

「今年は豊作だと伺っております」

「へえ……単純な疑問なんですけど、これだけ沢山勇者がいれば、魔王なんてすぐに倒せませんかね」

「不可能です。魔王はそれだけ強大な存在なのです。あと、この場にいる全員が真の勇者となれるわけではありませんよ」

「え?」

「ここ『勇者学院』は、勇者を育成する為の学校であると同時に、選別するための場でもあるのです」

「選別……じゃあ、その選別に落ちてしまったらどうなるんですか?」

「真の勇者になることはできません。学び舎風に言えば『退学』でしょうか」


 それは私にとって、まさに光明だった。

 つまりその選別に落ちれば、私はすぐにでも村に帰ることができる!



「ねえ、あなた!」


 声をかけてきたのは綺麗な顔立ちの女の子。

 着替えたばかりの制服がとても似合っている。


「は、はい?」

「あたしはコルタナ! あなた名前は?」

「えっと、ティルネイです」

「ティルネイ、良い名前ね!」

「ど、どうも……」


 思えば、同年代の女の子と話すのは初めてだった。


「あたし、大陸の北にある村で家畜を育ててたんだ」

「へえ、そうなんだ」

「凄く小さな村でさ、あたしこのまま家の仕事を継いで、村の幼馴染と結婚するんだと思ってた。でも、まさかあたしが勇者に選ばれるなんて思わなかったよ」

「私も。まさかこんなことになるなんて思わなかった」

「だよね! もしかしてこれが夢だったりして」

「うん、そうだね……」


 ああ、夢だったらどれだけ良かっただろうか。


「では次の者!」


 教官が私の方を見ていた。


「あ、はい!」

「あの的に魔法を当ててみろ!」


 と、教官は言うけれど、私に魔法の心得は全く無い。


「えっと、そうだな……ファ、ファイヤーボール……なんつって」


 それっぽいことを口にしてみるけど、当然何も起きない。 

 くすくすと私を笑う声が聞こえる。

 教官も訝しげに私を見ていた。

 恥ずかしさがこみあげてきて、私は教官に言う。


「す、すみません。私、魔法が使えないみたいで――」


 その瞬間だった。

 ズドーンッ!! と背後に雷が落ちた。


「……は?」


 振り返ると、的が木っ端みじんになっていた。


「……嘘でしょ?」


 周りの人も唖然としていた。


「君、凄いじゃないか!」


 教官はそう言うが、私は全力で首を横に振る。


「いやいや!! 炎ならまだしも雷ですよ!? 偶然ですって!!」


 何よりの証拠に、私本人に魔法を使った自覚がないのに。


「そんな謙遜しなくてもいい。制御不足とはいえ、あの規模の魔法は見たことがない」

「いや、だから違うんですって――」

「ティルネイ、凄いじゃない!」


 駆け寄ってきたコルタナが言う。


「やっぱり本物の勇者って格が違うのね!!」

「え、いや……えぇ……」


 そして偶然はこれきりじゃなかった。

 その後の試験でも私が魔法を唱えると竜巻や爆発が起こり、果ては隕石まで落ちてきた。

 当然そのどれもが偶然で、私が意図的に起こしたものじゃない。

 私は必死に偶然だと訴えかけても、信じてくれる人はいなかった。


 気が付けば私は学院で最も真の勇者に近い存在なんて言われるようになっていた。

 勘弁してよ……。

 私は本当に何もやってない。

 ただ早く家に帰りたいだけなのに。


「これからどうなっちゃうの……」

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