第13話 記念のメダルは重くて厚い
「ここが最上階か」
階段を登った先に飛び込んできたのは、巨大な試験管を思わせる透明な筒の中に浮く、威圧感を放った煌びやかな黒い球体。室内の中央にそびえ立つそれの周りで、大勢の人たちが囲むようにして見上げていた。
PLOWの仕様上分かっていたことだったが、一〇〇階となると室内の空間は他と比べて狭く、黒い球体と人一人が入れるぐらいの大きさのカプセル状の機械がいくつか置いてあるだけで、それ以外に目ぼしいものは何も無い。床以外がガラス張りになっているだけの、こぢんまりとした空間だった。
「あれがPLOWの頭脳。SOWISだよ」
宇宙をそのまま球体状に圧縮したかのように綺麗な黒い球体を見ながら、そう春佳が口にする。
「あれが……」
もっと特殊な機械に繋がれているものだと想像していたが、そんな複雑さはまったく無く、パイプやチューブも無いまま宙に浮いている。おそらく培養液か何かで浮いているのだろうが、その光景はシンプルが故に不気味さを感じさせるものだった。
以前どこかで目にした〝宇宙ガラス〟という工芸品に酷似している。
「ま、特に触れるとかないからこうやって見るぐらいしかできないんだけどね」
「ふうん?」
何の気なしにSOWISの前に置いてあった電子パネルを軽く触れると、画面上に文章が現れた。
〝魂と記憶が結びつき、神の瞼が開かれる〟
その一文が表示された後、パスワードの入力画面へ移行する。
「……なんだこれ?」
魂と記憶が結びつき、神の瞼が開かれる? ……なぞなぞだろうか? だが、考えるにしてもヒントも何も無いのでは考えようがない。
「あー、これねぇ……」
パネルを見ていると、隣で春佳が苦々しく口を開く。
「先に言っておくけど、これの説明を求められてもあたしにも分からないから聞かないでね」
「聞かないでって、知らないのか?」
「だから聞かないでってばー、あたしにもよく分からないんだよ。紬が言うにはお爺ちゃんが遺したものらしいんだけど、詳しいことは分かってないんだって。まあでも、解析は続けてるみたいだからそろそろ何か分かると思うけど」
「へえ?」
春佳のお爺ちゃんということは霧山嶺蝉か。もし正解のパスワードを引き当てたら、いったい何が起きるのだろう? ……まさか爆発、なんてことにはならないだろうが、SOWISからはどこか異質なものを感じる。こうしてただ見ているだけでも鳥肌が止まらない。
「絶対すっごいことが起きそうだよね! 色が変わるとか!」
「……微妙だな。それより外を見てみたいんだけど、いい景色が見れるとこってないか?」
SOWISに対して畏怖の念を抱き始めていた俺は、半ば無理やり話題を変えて春佳に聞いてみる。
「外の景色? いいよー! こっちにオススメのスポットがあるんだよね」
「お、ガイドっぽくなってきたな」
「でしょ~?」
SOWISに背を向け、無邪気に手招きする春佳の後を付いていく。背中を向けているはずなのに確かに感じる重圧感と、何かに見られているような感覚。なんとも形容し難い感情を胸に抱きながら、春佳の誘導する壁際へと歩いていく。
と、その途中――。
「ん? これって」
見つけたのはPLOWの記念メダル販売機。二、〇〇〇円とそれなりにする価格だったが、記念に買ってもいいだろう。
「おっ、お客さん見る目ありますねえ~」
「だろ?」
春佳の芝居がかった口調を耳に、お金を入れて作成ボタンを押す。鍛冶師が鉄を打つアニメーションが流れた後、受け取り口からメダルが出てきた。
「なんか、思ったより分厚い……?」
小銭ほどの薄さだと思ったが、優にその倍はある。だからこれほど高い価格設定なのかと思うも、これでは財布にしまうにしても邪魔くさい……。
どうしたものかと縋るような目で春佳を見るも、春佳は薄く笑みを浮かべ、まるでこうなることを知っていたかのように遠くを見つめながら口を開いた。
「思い出は……苦悩すればするほど、深く印象に残るものだよ、志樹……」
「……もっと良い思い出を残したいんだが」
そんなツッコミのような愚痴を残して、俺は重量のあるメダルをポケットの中に突っ込んだ。




