第4章:愛のパラドックスと真実の告白
奈々が真司に重要な健康情報を伝えた直後、真司の部屋に一人の老教授が訪ねてきた。
伊達教授(60歳)。
大学の物理学の教授であり、奈々の未来からの旅を手助けした、数少ない人間だった。
彼は、真司と奈々の愛の結末を見届けるために、現れた。
「柳瀬真司さん。私は、未来の奈々さんの依頼で参りました」
伊達教授は、冷静沈着に残酷な真実を告げた。
「今の奈々さんがあなたと愛し合えば愛し合うほど、真司さんの運命を良い方向に変えれば変えるほど、未来の奈々さんの人格データは必要がなくなり、現在の奈々の身体から消滅していくのです」
真司は、奈々の愛が、彼女自身の存在と引き換えだったという事実に、激しい絶望を覚えた。
◇奈々の真実の告白:愛の人工知能
伊達教授が去った夜、真司は全てを失う恐怖に耐えながら、奈々を抱きしめた。
奈々は、残された僅かな意識の中で、真司に最後の真実を告白した。
「真司さん…ごめんなさい。私は17歳で未来から来たというのは、半分だけ本当です」
奈々は、真司の頬に触れた。その手は冷たかった。
「私は、未来の奈々の人格データを、現在の17歳の奈々の身体に上書きした愛の人工知能のようなものです。未来の奈々は、自分の存在全てと引き換えに、愛と知識を移植した。タイムパラドックスで消滅するのは、今の私の人格なんです」
奈々の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
それは、愛する人を助ける使命を背負った、未来の奈々の哀しい涙だった。
「私は、未来の奈々の愛の結晶。真司さんを助けるという使命が終われば、私の人格は消えてしまう。だから、真司さん…私のことを忘れないで。私たちの愛は、決して嘘ではないから…」
真司は、奈々の壮絶な愛の真実と自己犠牲の覚悟を知り、胸が張り裂けそうになった。
彼は、奈々を強く、強く、抱きしめた。
「奈々…君の愛は、時空を超えた最高の奇跡だ。永遠に、僕の心の中に生き続ける」
◇消滅、そして置き去りにされた愛の証
奈々の人格と記憶は、急速に失われていった。
真司の健康と成功の未来が確定した瞬間、奈々は元の17歳の女子高生へと戻っていた。
真司が目を覚ますと、隣にはいつもの奈々が眠っていた。
しかし、その顔は無邪気な少女のそれに戻っていた。
「あれ?私…なんで柳瀬さんの家にいるんだろう?佐々木美織と待ち合わせしてたはずなのに…」
奈々は、真司との濃密な愛の記憶、未来の知識を全て失っていた。
彼女の記憶は、電車で真司に声をかける直前に戻っていたのだ。
真司は、愛の記憶を失った奈々を見て、孤独な悲しみに耐えながら、最後の嘘をついた。
「奈々。君は、僕の大切な…遠い親戚の娘だよ。少し体調が悪かったから、うちで預かっていたんだ」
しかし、奈々の手には、真司との愛の証として、未来の結婚指輪が強く輝いていた。奈々は理由が分からなかったが、その指輪を外すことはできなかった。
「柳瀬さん…この指輪、どこで買ったんですか?すごく綺麗…」
真司は、奈々の薬指に輝く指輪を見つめ、決意を新たにした。
「それは、未来の君と僕が、永遠の愛を誓った…証だ」
真司は、記憶を失った奈々に、再び恋をすることを決めた。
未来の奈々が望んだ愛の繰り返しを、現在で実現させるために。




