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いまは緑色の芝生  作者: 三号


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セカンダリィ

「ああ! もうやってらんない!!」

 奈緒子は黒い色をした小型のゲーム機をソファの上に投げつけた。投げつけるというよりも、両手で上に抱えて振り下ろした様は、叩き付けたと言った方がより正確かもしれない。それを見た眞人は、彼女を見るのではなくソファに埋もれたゲーム機を見て画面が正常に動いている事を確認すると、安心したかのような溜息をついた。それが奈緒子の身体から出ている怒りの導火線に点いた火を、さらに彼女へ近づけた。

「あたしは、あんたの何だ!」

「恋人じゃん?」

「そうだ、恋人だ! それが何が悲しくて折角の休みに部屋に篭って、ゲームで通信対戦をしてなきゃいけないの!?」

「いいじゃん、愉しいでしょ?」

「愉しくなんか……無い!」

 ついに着火。奈緒子はベッドの上に放り投げておいたバックを手に取ると、眞人に顔に当たるように振り回してから肩に掛けた。痛ってえ、と呟きをこぼす眞人を尻目に、そのまま足の踏み場も無い部屋の中を雑誌やゲームソフトを蹴散らしながら玄関へ進む。眞人は頬を片手で押さえて呆然としたまま、彼女を見送った。

「馬鹿! 死んじゃえ!!」

 と言い放つと奈緒子は大きな音を立てて扉を閉めた。


 既に無言のまま、二時間が経過していた。勇次は何やら難しそうな専門書を先ほどから読んでいる。読んでいるというのは推測で、ベッドに座り壁に背を凭れさせながら胡坐をかいて微動だにしていないのだが、時たまページを捲る音で恐らくは読んでいるのだろうと思う泉美だった。

 ねえ、と問いかけた泉美に勇次は気だるそうに視線を向ける。せめてこっちを見るくらいしてくれても良いのにと泉美は思う。

「何読んでるの」

「言っても、伝わらないよ」

「でも、教えて欲しいの」

「無駄」

 キッチンで水の滴る音がした、その音が聞こえるくらい静かな部屋だったが、泉美はそのとき自分の頭の中で皿が割れるような音が響いたので、水の音は聞こえなかった。泉美は顔にかかった黒髪を耳にかきあげる。

「勇次くん、わたしは貴方の、恋人よね」

「そうかな、多分」

 今度は泉美の中で、一メートル以上ありそうな花器が割れた音が響き渡った。泉美は読んでいたファッション雑誌を勇次に向けて投げつけると、勢い良く立ち上がり大またで玄関に向かう。

「少しは気を使ってよね!」

 と言い放ち、いっそ壊れてしまえばいいのに、と思いながらドアを力いっぱい閉めた。


 奈緒子も泉美も、自分が閉めた扉の音が想像以上に大きかったので驚いたが、隣のドアが同時に閉まった音だと気付くと、お互いにマンションの廊下で顔を見合わせてしまった。それぞれ一年以上前から部屋に出入りしているのだが、顔を見たのは初めてだった。

 奈緒子は泉美の顔を見て、ああ喧嘩して出てきやがったなと思った。

 泉美は奈緒子を見て、頭に血が上ったような顔してるわね、と感じた。

 そして大粒の雨が地面とマンションの壁を打ちつけている音に気付くと、二人は同時に外へ振り向き、同時に溜息をついた。

「雨、降ってるよ」

「……そうね、どうして気付かなかったのかしらね」

「傘、借りなきゃいけないじゃない」

「濡れたくなければね」


 その後二人は、それぞれ出てきた扉を、出てきたときと正反対の静かな音で開けると、不承不承といった表情で室内へ入っていった。二人は隣の部屋の扉が次に開かれるのはいつ頃だろうと互いに気にしていたが、その日は双方ともに扉が開かれることはなかった。

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