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いまは緑色の芝生  作者: 三号


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プラットホーム

 電車のドアが開くと、いつもの通り、いつもの彼女がそこに立っていた。


 いつからだろうか、気づいたのはそう遠い昔ではないはずだ。僕がいつも通勤で使っている新宿行八時十七分発の通勤快速電車が止まるその駅で、僕が降りるのと入れ違いに、彼女は乗車をする。多分、僕もそうしているように、降りる駅の階段が近いとかそういった理由だと思うのだけれど、本当に毎日、決まった時間、決まった場所で彼女と僕はすれ違う。

 勿論、それだけの関係で、話しかけたことは無い。たったそれだけの微弱な関係だけで話しかけることが出来る人がいたとすれば、驚きだ。ただ僕は、毎日彼女のことが気になり、どうしても目がいってしまうだけのこと。彼女が僕のことを知っているなんて希望は、これっぽっちも持ってない。


 毎日見続けていれば、彼女の表情とか微妙な変化もわかるようになる。夏の暑い日には、暑さにうんざりしたような顔をしながら。冬の寒い日には、顔の半分をマフラに埋めながら。いろんな顔で彼女はこの電車を待っている。

 駅のホームに電車が滑りながら入り、そしていつもの場所が近づいてい来るにつれて、いつもの彼女がそこにいる日常。


 だからその日、彼女が赤い目を腫らした泣き顔をしながらホームに立っているのを見た僕は、今まで見たことがない彼女に少し驚いたんだ。声をかけようかとも思ったんだ。だけど、結局何もしないまま、僕はその電車を降りて、彼女は僕と入れ違いに電車に乗った。朝の通勤時間、込み合った人たちに揉まれながらだけれど、そのとき僕と彼女は一瞬だけ目が合った。


 彼女を泣かせる何かが、この街にあるんだろうと思った。


 そして次の日から、僕はその駅で彼女を見かけることが無くなった。僕が電車から降りても、そこに彼女は居ないし、ホームを見渡しても彼女は居ない。きっと彼女が泣いていたあの日に、何かがあって、彼女はそれ以来、朝のこの電車に乗る必要が無くなったのだろう。

 それでも、彼女はどこかにいるし、彼女が消えたわけではない。友達でもない、知り合いですらない僕の前から姿を消しただけであって、彼女はどこかで、何かをして、笑って、そしてたまにあの日のような涙を流しているのだろうと思う。

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