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いまは緑色の芝生  作者: 三号


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歩く蝶

 通勤時間帯でもない初夏の午後、電車の中はそれほど込み合ってはいなかったかもしれない。

 その小さな蝶は小刻みに揺れる電車の床を必死に歩いていた。

 紋白蝶よりも小さく、白い羽の中心が少し黄緑がかっていて、時たま小さく震わせるように羽を動かしていた。

 だけれども、どんなに羽を動かしても飛ぶことができないのだろう。僕は数分前に気付いてから数分間、観察を続けていたのだけれど、その蝶はまるで細い糸のような足を動かして微かに動くだけだった。

 僕は幸いにも横に長い座席シートの端に座ることが出来たので、冷房で冷えた鉄製の手すりに身体を預けながらしばらくの間、蝶を見守っていた。

 吊革につかまり立っている乗客の足に踏まれそうになったことも何度かあったけれど、僕が見ている間に限って言えば無事にというべきか間の抜けた偶然の賜物というべきか、飛べない蝶は床の上を屈辱に塗れて這うように歩いていた。

 目的の駅に到着して電車を降りるとき、僕は蝶を踏みつけてから降りようと思ったけれど、結局そのまま踏まずに降りて、飛ぶことが叶わないであろう蝶がその後、どうなったかは知らない。

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