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いまは緑色の芝生  作者: 三号


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33/66

ときめく日々を掴まえに

「雨は好きじゃないよ」

 言ったまま佳織は、窓を流れる水滴か、その先にある風景を眺めているのか、どちらともない視線を動かさなかった。

「どうして」

「厭なことが多いんだ、雨の日は」

「灰皿持ってくるから」

 佳織が鞄から煙草を取り出そうとした仕草を見て、愛子はキッチンへ灰皿を取りにいった。煙草を吸わない愛子が灰皿を持っているのは、佳織が使うからだった。部屋へ戻り灰皿を窓枠に置いたときも佳織は先ほどと変わらない姿勢だった。

「それはそうよ、晴れてるか曇ってるか、そうじゃなかったら雨だもの」

「三分の一だって言いたいんだ」

「じゃなくてね、晴れの日も曇りの日も、印象には残りにくいじゃない」

 腰よりも少し低い位置にある窓枠に腰を預け、立てた片膝に顎をのせている佳織の表情は変わったように見えなかった。黙ったままの佳織を見ながら愛子はソファに座った。

「この前ね」

 佳織はまだ半分残っている煙草を灰皿に押し付けて、消した。

「水族館に行ったんだ。ペリカンがいたんだ、あれって写真で見るよりも大きいんだよ。こんど見てごらん。どれくらいだろう、十羽はいなかったはずだけど、何羽かいて、その中の一羽だけ血を流してたんだ。どのへんだったかな、羽の下か胴のあたりか、そこから血が流れてて、地面にも流れてて、水溜りが薄く紅くなっててさ。仲間同士で喧嘩でもしたんじゃないかと思う。あのペリカンは、でももし、あのペリカンが自然の中にいたら、これからも、無事なはずがないんだ」

 佳織は窓枠から立ち上がった。手に鞄を持っている。愛子もソファに両手をついて腰を上げかけて、やめた。

「じゃあ」

「いつ帰ってこれるの」

「一年か、もっとか」

「わかんないの」

「わかるわけないよ」

 佳織は子供でもさとすように愛子へ微笑んだ。愛子はどうやって応えれば良いのかわからなかった。本当は佳織のように微笑みたかった。

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