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61. 混乱

「何ですって……!?」


 私は思わずそう声を上げる。キャロルの指示? あの子、私が送った資料に目を通していないの? なぜわざわざ赤の花を……?

 クロード様がかすかな音で舌打ちをした。


「家令はどこだ」

「ほ、本日は不在でございます」


(不在? こんな大事な日に?)


 続々と会場入りする貴族たちも皆、困惑の表情を浮かべている。いやこれはマズいだろう……と声に出す男性、口元を扇で隠し、眉をひそめる女性。

 赤い花々に気を取られていた私は、その時ようやく気付いた。配置されている使用人たちの数が、異様に少ないということに。

 居ても立ってもいられず、私はその使用人の女性に尋ねた。


「他の使用人たちはどこです? まさか、ここにいるだけで全部ではないでしょう」

「ぜ、全員でございます、セルウィン公爵夫人」

「どういうこと? 晩餐会なのよ。これじゃ給仕が滞るわ」

「はい。で、ですが……っ、昨日王妃陛下のご気分を著しく害する出来事がございまして……。解雇された者や謹慎を命じられた者たちが多くいるのです。ですから本日は、この人数で回すしかなく……」

「な……! 昨日!? まさか、家令も謹慎なの?」

「は、はい。本日の晩餐会に、王妃陛下のお気に召さぬものを準備し、その……、はい」

「……何?」


 言い淀む使用人の女性を急かすと、彼女は真っ青な顔で震えながら答えた。


「か、花瓶で、殴られまして……大怪我を」

「……何てこと……」


 絶句していると、クロード様が私たちから離れ、急ぎ足で広間の外へと出て行った。目で追うと、扉の外でご自分の従者と話しているのが見える。クロード様に声をかけられた従者はすばやく走り去った。


「……花を全て変えろ」


 すぐそばで聞こえた心臓に響くような低い声に、ハッと我に返る。振り返ると、私のすぐ後ろにセルウィン前公爵とレミラ様がいた。

 前公爵は身震いするほど恐ろしい表情をなさっていた。その圧倒的オーラに、ざわつき混乱していた大広間は一瞬で静まり返った。


「お、恐れながら閣下、本日の晩餐会のために仕入れた花は、ここにあるだけで全てでございまして……っ」


 近くにいた男性の使用人が、怯えきった表情で前公爵に声をかける。

 すると前公爵はギロリと彼を睨めつけ、一層低く唸った。


「ならば王城中からかき集めろ。こんな花でラヤド王家の方々をお迎えするのならば、ない方がまだマシだ。使用人たちのうち半分は、今すぐここの花を全て撤去しろ。もう半分の者は急ぎ別の部屋を回り、違う色の花を持ってこい!」

「は、はいっ!!」


 前公爵のその言葉に、数少ない使用人たちは一斉に散った。キャロルよりもセルウィン前公爵に逆らう方がよほど恐ろしい。


(……間に合うかしら……)


 きっともうすぐラヤド王家の方々も王城に入られる。それまでにどうにか、会場から赤を消しておかなくては。


(なぜキャロルはこんな……。本当に私の送った資料を見ていないのなら、大変なことだわ。他にも何かやらかすかもしれない。……陛下は? ちゃんと目を通してくださったのかしら。なぜきちんとあの子を制御してくださらないの)


 どす黒い不安がむくむくと膨れ上がっていく。額に汗を浮かべた使用人たちが会場中の花を撤去し、その三分の一にも満たない数の白や黄、青の花々がどうにかマシな配置で置かれた頃、ようやくフルヴィオ陛下が姿を現した。……よかった。銀糸と濃紫の装飾を取り入れたまともな服装をしている。


「……ん? 皆こんな隅の方で一体何を? 遠慮せず着席するといい。もうすぐラヤド王家の方々が到着されるぞ。皆、友好的な親睦の場となるよう、王家の方々を温かく迎えて差し上げてほしい」

「…………」


 シンと静まり返り、陛下に冷たい視線を向ける一同。その時、セルウィン前公爵の車椅子が進み出て、陛下の目の前で停まった。陛下はビクッと飛び跳ね、露骨に視線を泳がせはじめる。


「お、叔父上……」

「皆使用人たちの邪魔にならぬよう、壁際で待機しておったのですよ、陛下。ご存知であったか。この大広間中に、真っ赤な薔薇の花々が飾られてあったのだが。それを今大急ぎで撤去し、別の花に入れ替えたのです」

「ば、ばら……? ……え!? ま、真っ赤な薔薇!?

なぜそんなものが!!」


 こっちが聞きたい。

 陛下は全く知らなかったのか、会場全員に白い目を向けられながらあわあわと狼狽えている。

 なぜこんな事態になっているのか追及したかったけれど、その時衛兵が扉のところから高らかに宣言した。


「ラヤド王国王家の馬車が、ご到着なさいました!」

 






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