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57. 修羅場

 その後は再び国王夫妻の激しい口論が始まった。私としても、絶対に引くことはできない。これまで学んできた限りでは、ラヤド王国は非常に独特な文化や風習を持っており、大陸の他のどの王国とも違うしきたりやマナーがある。それを理解していないキャロルが、何の失礼もなく晩餐会を終えられるはずがないのだ。下手をすれば先方の怒りを買い、交換留学制度の話がなくなるどころか国同士の関係も最悪になりかねない。

 フルヴィオ陛下も、さすがにそのことは理解しているようだ。


「君が何と言おうと、エリッサは晩餐会に参加する。彼女は他国の文化に詳しい。もちろん、ラヤド王国にもだ。おそらく我が国で最も精通しているだろう。大切な客人に粗相がないよう、万全を期して臨まねば。そうだろう? エリッサ」

「はい、仰るとおりでございます、国王陛下。過分な信頼を寄せていただき、光栄に存じます。当日までにかの王国の風習や文化、またラヤド語につきましても念のために復習し、しっかりとお役に立つよう夫と共に努めてまいります。王妃陛下、当日は何卒よろしくお願い申し上げます」


 私たちが参加することはもう決定事項であり、絶対に覆らないぞという強固な意志を滲ませながら、私はキャロルにそう挨拶をした。キャロルはまだ憎々しげに私を睨みつけている。


「あんたがいたらどうせまた手柄を全部持っていくでしょう!? いつもいつもそうじゃないの!!」

「滅相もございません。手柄などの話ではなく、ラヤド王家の方々に決して粗相のないよう細心の注意を払い準備を進めていくというだけの話です。……王妃陛下、ラヤド王国についての予備知識を、必ず頭に叩き込んでおいてくださいませ。あなた様もどうしても陛下と共に列席なさるというのでしたら、もてなしも会話も抜かりがあっては困りますので」

「指図はいらないわ! あたしは王妃よ!!」

「それと、晩餐会の準備は独断ではなさらず、必ず熟練の者たちの意見をお聞きになってくださいませ。何かを決定される際には、宰相閣下や外務大臣殿に確認を。また、ラヤド王国の歴史やマナーについて分かりやすく記された本も私の手元にございます。すぐに届けさせますので、どうぞ熟読なさってください」

「もういいってば!! 用事が終わったのなら出ていきなさい! これ以上出しゃばらないで! あんたなんかいなくても、王城にはあたしの手足となって動く者が大勢いるのよ!」

「黙れキャロル!」


 ついにフルヴィオ陛下がキャロルを制した。私はゆっくりと立ち上がりながら続ける。


「特に大切なことは、私が要点をまとめて本と共に送らせていただきます。ラヤド王国には独特の慣習が多々ございます。どうかくれぐれも、お見落としのないよう、しっかりお勉強なさってくださいませ」

「うるさいわね……! いい加減にしなさいよ!!」


 そう叫ぶと、キャロルは陛下の目の前にあったティーカップを摑み、中の紅茶を私に向かってぶちまけた。


「……っ!」

「エリッサ!」

「奥様……!」


 陛下とミハの声が同時に聞こえた。顔も髪もドレスも赤茶色に染まった私はしばし呆然とした後、自分の髪からポタポタと垂れる雫を見ながら、紅茶がすっかり冷め切っていて良かったと思った。

 けれど、次の瞬間。

 私の目の前にズカズカと歩いてきたキャロルが、私の左頬を思い切り叩いたのだった。


「止めろキャロル!!」

「……いつもいつも、偉そうに指図ばかり。何様のつもりなの? ツンケンして可愛げの欠片もない。ちょっと賢いからって、そうやって上から目線で威張り散らして、そのわりには王妃教育の手助けもしてくれない。肝心な時には役に立たないくせに、こんな時だけまた出しゃばってきて。……何でよ。何で……こんな女のこと……!」


 呪詛を吐くように何やらブツブツと言い出したキャロルは、ついに陛下に腕を摑まれ私から引き離された。


「キャロルを部屋に連れて行け!」


 扉の外に向かって陛下がそう叫ぶと、護衛たちが室内に飛び込んできた。


 陛下は私に何度も謝罪をし、涙目になりながらどうか当日はよろしく頼む、またこちらからも連絡すると言い先に部屋を出て行った。私はその場に留まり、ミハや王城の侍女たちから全身を拭いてもらった後、静かに城を後にした。淡い色味のドレスには大きな赤茶色の染みができ、気の利く侍女の一人が大きなストールを持ってきてくれ、ミハがそれを綺麗に巻いて隠してくれた。


 セルウィン公爵領に帰る馬車の中で、私はようやく特大のため息をつき、こめかみを押さえた。


「……全て旦那様にご報告を、奥様」


 ミハの言葉に、私は重い口を開いた。なんだかもう疲れ切ってしまって、喋るのも怠い。


「ええ、もちろんそうするわ。あの精神状態じゃ当日が不安で仕方ないわ。……何もかも、無事に済めばいいのだけれど……」


 早くクロード様に会いたい。

 それだけを思いながら、私は小窓から外を眺め、そのうちゆっくりと目を閉じた。


 




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