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56. 暴走するキャロル

「ここで何をしているの!? お姉様!」

「……見ての通り、国王陛下に謁見を。このたびはご懐妊、まことにおめでとうございます、王妃陛下」


 渋々立ち上がりカーテシーをしながら、そういえばフルヴィオ陛下におめでとうございます言い忘れたな、などと頭の片隅で思う。

 陛下が不機嫌をあらわにキャロルを諌めた。


「キャロル……、勝手に部屋を出た上に、人払いをし謁見を行っている部屋に立ち入るなど」

「あたしは王妃よ! この王城のどこでも自由に歩く権利があるし、どんな話も聞く権利があるわ! 除け者にしないで!!」


 ……一体誰がキャロルに私の登城を漏らしたのだろうか。問い詰められ暴力を振るわれた侍女だったりしたら可哀想だから追及しないけど、こんな調子で好き放題しているのでは王城の秩序も保たれないだろう。この子のこの行動だけでも、皆の普段の苦労が見て取れる。


「フルヴィオ様がどこにいるのかさえ、しつこく聞かなきゃ誰も素直に教えないんだから……。おかしいでしょこんなの! あたしを馬鹿にしてるわ!! ……で? あんた一体何の用事でフルヴィオ様と二人コソコソ話をしてるわけ? あたしがいくら登城を命じても出てこなかったくせに」


 そう言いながらキャロルは陛下の隣に当然のように腰を下ろす。……随分と肌が荒れ、体が丸くなった。いかにイライラしながら不摂生な生活を送っているのかがよく分かる。妊娠中だから仕方ないのかもしれないけれど。お腹もだいぶ出てきており、キャロルは胸の下で切り替えたデザインのゆったりとしたドレスを身に着けていた。

 フルヴィオ様は深くため息をつくと、キャロルから目を逸らし、うんざりした様子で私との会話の内容を説明した。するとキャロルはますます目を吊り上げ、私のことをギロリと睨みつける。


「新たに親交を求めてきてる国の王族のもてなしってこと? なんでそんな大事な話を、あたしじゃなくお姉様としてるわけ? おかしいじゃない! 王族をもてなすのはこの王城でしょ!? この人には何の関係もないわ!」

「だから! 話をちゃんと聞いていたのか君は!! そもそもラヤド王国が興味を持ったのは、セルウィン公爵領に新たに設立される学園の留学制度だと! 交流を求められたのもエリッサに対してなんだよ。だが国同士の交流がない他国と独断で勝手にやり取りできないからと、エリッサは俺に伺いを立てているんだ。何でそんなことも理解できないんだ」

「何よその言い方!! あたしは妊娠中なのよ!? 心身共に健やかに過ごすことが、健康な世継ぎを産む何より大切な条件なのよ! あなたこそ少しは考えなさいよ!」

「黙れ!! 誰に向かって口をきいている!!」


(……うわぁ……)


 目の前で国王夫妻の醜い喧嘩が始まってしまった。まさかここまで二人の関係が悪化していたとは。似た者同士だから互いに何も考えず、案外のほほんと過ごしているんじゃないかと思っていたけれど、フルヴィオ陛下はとかく気弱な方。そしてキャロルほどは馬鹿ではない。周囲の目の冷たさや自分たちへの失望ぶりをひしひしと肌で感じ、追い詰められているのだろう。その責任の矛先を、おそらくキャロルに向けているのだ。

 いつまでも続く稚拙な言い争いに、立場上なかなか口を挟めない。困ったわね、こちらも暇じゃないのだけれど……。仕方ない、頃合いを見てもう口を出すか。これじゃ話が進まないもの、などと頭の中で考えていると、ふいにキャロルのこんな言葉が耳に飛び込んできた。


「要は晩餐会を開くってことでしょ!? そんなの、あたしが全部取り仕切るわよ! セルウィン公爵家の人に参加してもらう必要はないわ!」


(っ!? な、何を言い出すのよこの子は……! 冗談じゃないわ!)


 あらゆる知識ゼロ王妃の取り仕切る晩餐会など、どんな惨状になるか想像もつかない。今度は私が縋る眼差しでフルヴィオ陛下を見つめた。さすがに陛下も私と同じ気持ちのようだ。


「馬鹿を言うなキャロル! 君に一体何ができるというんだ!? 王家に嫁いで以来結局まともに王妃教育に取り組むことなど一度もないまま、妊娠を理由に遊び放題。そんな女に、初めて我が国を訪れる他国の王族の接待など任せられるはずがないだろう! 華やかな場に出しゃばることばかり考えず、本当に自分の体を労りたいなら黙って部屋に閉じこもっていろ!!」


(……おお……)


 私は心底驚きながら陛下を見つめた。この人がこんな強い口調で妃を叱りつける日が来るとは。いつもなよなよと頼りなく、自信なさげな目でいる人が。……というか、さっきまでまさにそんな感じだったのだけど……。そんな陛下でさえも、キャロルに対しては腸が煮えくり返っているということか。まぁ、自分をここまで追い詰めた元凶と思えば腹も立つだろう。もちろん陛下自身も悪いのだけど。

 しかし案の定、キャロルには少しも響かないようだ。


「絶対に嫌よ!! この王国の王妃はあたし。そのラヤド王国とやらの王族は、あたしがもてなすわ! まずは正式に国交を始めてから、この人とも交流させればいいでしょう? 晩餐会は王家だけでやるわ! この人たちは呼ばせない!」






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