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50. 動揺、混乱、後悔(※sideフルヴィオ)

(もう結婚しただと……!? いくら何でも早すぎないか? え? あの二人が婚約してから、どのくらい経つ……? まだ一年も経っていないぞ)


 大臣からの報告に、俺は思わず頭を抱えた。こっちはもう八方塞がりなんだ。どうにかして、エリッサに俺の元へと戻ってきてもらうつもりでいたというのに……!!


 一向に進展しないキャロルの王妃教育のせいで、俺の信頼は地に堕ちていた。

 王妃に即位した途端、あの王国一優秀なエリッサと同じ遺伝子を持つその才を発揮して、死にもの狂いで勉強に臨むと言っていたキャロル。蓋を開けてみれば勉強など一切せず、毎日毎日怠惰に過ごしては茶会を開いたり贅沢品を買い漁ったり、好き放題だ。知らぬ間に異国の宝石商なんかを部屋に招き入れては、高価な品々を買い漁っている。

 あんなに可愛くてたまらなかった女にここまで追い詰められ、今では日々憎しみが募るばかり。

 歴代の王妃教育に携わってきたベテランの教育係でさえ匙を投げてしまった。離宮の母に助けを求めたが、キャロルとの相性が悪かったのか、結局は上手くいかなかった。最初はそれなりに慇懃な態度をとっていた大臣たちも、今では俺に対する侮蔑を隠そうとさえせずに、嫌味ばかりを言ってくる。


『かの国と締結するはずだった条約が白紙に戻りました。いかがされるおつもりですか陛下!』

『次の国際会議は我が国抜きで行われるそうです! 陛下が帝国語をご理解できないため、意志の疎通が不十分だと。このままでは同盟国から完全に爪弾きにされますぞ!』

『強引に外交に参加した王妃陛下が、他国の王女殿下に非常に無礼な態度をとったそうです。このままでは両国の関係が悪化するばかり。着飾って出かけたいだけの王妃陛下を外交にお連れになるのはもうお止めください! サリーヴ王国を滅ぼすおつもりか!』


 最初は様子見だったのだろうか。今では大臣たちも、毎日こんな風に強い口調で俺を詰ってくる。側近も従者たちも、皆視線が氷のように冷たい。誰も味方がいない不安から、吐き気まで催すようになってきた。

 手元に回ってくる書類も、難解な内容で分からないものが多すぎる。……ランカスター伯爵領とセザリア王国の伯爵領との、新たな交易……? よく分からないが、こんなものは判を押せばいいだけだろう。俺はわけも分からぬまま、真面目に仕事をしているとアピールするために、次々と回ってくる書類にとりあえずどんどん判を押していった。


 即位して以来、日々追い詰められていっている。広大な部屋のど真ん中に置かれた玉座に優雅に腰かけ臣下を見渡していたつもりが、いつの間にか周りの連中が武器を構え、俺を睨みつけながらじりじりと一斉ににじり寄ってきている。俺は震えて玉座から立ち上がり、いつどこから誰が飛びかかってくるかと怯えながら、忙しなく周りを見渡す。……そんな気分だった。

 キャロルとは喧嘩ばかりの日々になった。小首をかしげてしおらしく俺を見上げていた彼女は、今ではまるで別人のように険しい表情で、俺を言い負かそうと怒鳴ってくる。可愛げの欠片もない。何があったのか知らないが、最近は特に機嫌が悪いのだ。だがもう、こっちもキャロルの機嫌なんかとっている場合じゃない。


(もう駄目だ。こうなったら何とかして、エリッサに俺の元へ戻ってきてもらおう。それしかない)


 例えば、王命を出してエリッサに側妃として戻ってきてもらうのはどうか。あのエリッサが王家に入るとなれば、議会の承認もすぐに通るんじゃないのか。婚約は解消できるものだし。

 そうなると……怖いのはセルウィン公爵と叔父上だ。怒るかな。怒るだろうな。吐きそうだ。……いや、だがどうだろう。いっそのことキャロルをセルウィン公爵家にあてがい、エリッサと交換するという手は。向こうにしてみれば、同じハートネル侯爵家の娘。家格は不釣り合いではないわけだし、優秀な方の娘は一公爵家よりも王家に嫁がせるべきなんだ。そうだろう?

 回り道をしてしまったが、それが一番いい。やはり俺にはエリッサしかいないんだ。彼女が戻ってくれば、最近伝言の返事さえくれなくなった母の機嫌も直るはずだ。

 あとはセルウィン公爵家にこのことを伝えに行ってもらうのを、誰に託すかだ……。


 そんなことを考えていた矢先のことだった。

 エリッサとセルウィン公爵が、公爵領内で盛大な式を挙げたという事後報告があったのは。迂闊だった。セルウィン公爵はもう三十。家を継いでから領主としての経験も充分で、いつ結婚しても別におかしくはなかったのに……!

 

 詰め寄ってくる臣下たちは、もう目前まで迫ってきている。

 いくら勉強しても、俺はエリッサのように何でもスルスルと頭に入ってくるわけじゃない。今すぐ威厳や説得力のある国王になるのは無理だ。


 もうどこにも逃げ場はない。……いや、元々なかったんだ。

 あとはこのにじり寄ってくる周囲の全ての人間たちから押し潰され、串刺しにされるだけ……。


(誰か……助けてくれ……、エリッサ……!)


 エリッサは、相談くらいなら乗ってくれるだろうか。彼女なら何らかの打開策を示してくれるのではないか。

 いや、まずはキャロルを王城から追い出すべきか……?

 あの頭の悪い傲慢女を見限れば、皆が俺を見直すかもしれない……!


 そこに思い至った、その時だった。


「フルヴィオ様ぁ!」


 キャロルが珍しく明るい声で俺の執務室に飛び込んできた。その可愛らしい表情は、まるで結婚式を挙げた当初のようだった。だが。


「……何だ? キャロル。今忙しいんだが」


 昨今の口論続きの日々で疲れ果て、キャロルへの愛情もすっかり冷めてしまっていた俺は、冷たくそう言い放った。

 だがキャロルは気にするそぶりもなく、俺のそばへと寄ってきてこう言った。


「ね、喜んでフルヴィオ様! あたし妊娠してるんですって! これであたしの地位もますます安泰ね!」







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