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47. 結婚の日取り

 王家の状況が気がかりな中、その後の数ヶ月間は、これまでと変わりない日々を送った。

 私は諸外国を回り、他国の産業や事業、民への教育方法、各地の領地経営など様々なことを精力的に吸収し、将来に備えていた。同時にこれまで以上に各国の重鎮や貴族たちとの交流を深め、人脈作りにも奔走した。

 キャロルがあなたを呼んでいるという類いの手紙は、その間何度も実家から寄せられていたが、もう振り回されるのはうんざりだったので無視した。自分から「王城への出入りを禁ずる」なんて言ってきたくせに。

 セルウィン公爵夫人になる前に学んでおきたいことは、私にはまだまだ山のようにあった。

 私のやるべきことは、クロード様にとって最良の妻となること。我が儘と気分次第で私を都合良く振り回す妹の世話係ではない。

 そう考え、時間の許す限り諸外国を周り勉強を重ねていた私の元に、両親からいつもとは違った内容の手紙が届いた。


「……。……お嬢様」

「うん? 今度は何て書いてあった? ミハ」

「……。……エリッサお嬢様」


(……?)


 いつも私の代わりに両親の手紙を開封し内容を教えてくれるミハに任せ、滞在している国のマナーブックを熟読していた私は、彼女の様子がおかしいことに気付き、顔を上げ振り返った。すると。


「っ!? な、何!? どうしたのミハ」


 普段冷静沈着で無表情なミハが、両手で持った手紙を見つめたまま、その手と唇の端をプルプルと震わせているではないか。その上頬が若干赤い。何事か。眉を上げたり下げたり、唇をギュッと引き結んだかと思えば突然「く……っ!」と声を漏らしたり、動揺が激しい。私は立ち上がった。


「な、何なのよミハ……。誰か倒れた?」

「……コホン。……大変失礼いたしました、お嬢様。違います。おめでとうございます」

「何が??」


 ミハは大きく息をつくと、いつもの淡々とした表情に戻り、私に告げた。


「セルウィン公爵閣下とお嬢様のご結婚の日取りが決まったとのことです。三ヶ月後でございます。閣下が一日でも、は、早く、お嬢様とご夫婦になられたいと強くご希望とのことで。すでにウェディングドレスの制作、式場の確保、招待客への招待状の準備などがフルスピードで行われているとか。お嬢様に置かれましては一刻も早く帰国なさり、準備に加わるようにとのことでございます」

「え……えぇっ!? 本当に……?」


 驚いた私は、ミハからその手紙を受け取り隅々まで読んだ。一言一句間違いない。どうやら私は約三ヶ月後、クロード様と結婚することになったらしい。


(……強く、ご希望……。クロード様が……)


 じわじわと込み上げてくる感情は、喜び以外の何ものでもなかった。

 赤くなった頬を隠すためにミハに背を向けると、私は誤魔化すように言った。


「お、お会いした当初は、数年間は自由に、と仰っていたのにね。随分早まったこと。……先日ショーナ様にお会いした時に結婚を急かすようなことを言われたから、それがきっかけなのかもしれないわね」

「……どうだか分かりませんが……、ついに、お、お嬢様が……、あの完璧な公爵閣下の奥方に……! いえ、やはり閣下はエリッサお嬢様と離れている時間がもどかしく、早くおそばに置いておきたいと、そのようにお考えなのでございますよ、お嬢様……! く……っ!」

「……なぜあなたはさっきからそんなに動揺しているの?」


 呻くような声を上げ顔を手で覆って悶えているミハの様子が気になり、私は振り向いてそう尋ねた。

 すると数秒の後、ミハはまたいつもの無表情にスッと戻り、姿勢を正した。


「大変失礼をいたしました。大丈夫です。ただ、セルウィン公爵閣下のお嬢様に対する熱い想いがあまりに嬉しくて。お二人はあまりにも尊く、お似合いのカップルでございますれば」

「そ、そう……? それはどうもありがとう」


 どうやらミハはクロード様のことをよほど気に入っているようだ。フルヴィオ陛下のそばで苦労している私を何年も見てきたから、あのように正反対の、全てに秀でた頼もしい殿方に私が嫁ぐことを喜んでくれているのだろう。


「クロード様にお願いするから、あなたも一緒にセルウィン公爵家に来てくれる? ミハ」


 私がそう言うと、ミハは唇をグッと噛みしめ、静かに一礼した。


「光栄の極みにございます、お嬢様」






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