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45. あたしのもの(※sideキャロル)

 許せない……!

 許せない許せない! 絶対に許せない……っ!!

 アルヴィンの大きな体を無理矢理引っ張って歩きながら、あたしのイライラはもう限界だった。

 何なのよ、今日の茶会は。誰一人あたしの機嫌をとろうとしなかったじゃないの!

 エリッサのせいだわ。あいつ、あたしがあんなに頼んでたっていうのに、気付けば自分の話にばかり持っていって!

 ああいう女なのよね。結局自分が一番目立ってないと気が済まないの。あたしは王妃で、自分の方が立場が下だってことを理解してないんだわ。本当にフルヴィオ様に言いつけてやるんだから。婚約者のセルウィン公爵にも、苦情を言ってやるわ。


「……王妃陛下。どうか落ち着いてください」


 ムカムカしながら歩いていると、隣からアルヴィンがそう声をかけてくる。優しい声。限界まで苛立っていた気持ちが、その声でほんの少しだけ軽くなった。


 自分の私室に着くと、あたしはアルヴィンの手を引いて中に入らせ、その場にいた侍女やメイドたちに命じた。


「全員外しなさい! あたしこの人に説教するんだから!」


 そう言うと、皆慌てたように扉の外へと出て行く。最後の一人に、アルヴィンが焦ったように声をかけた。


「扉は開けておいてくれ」

「閉めなさい!」


 彼の声に被せるように、あたしは侍女に命じた。彼女は微妙な表情でゆっくりと扉を閉めた。二人きりになるやいなや、あたしは背伸びをし、アルヴィンの首に両腕を回した。


「……っ、」


 アルヴィンは眉間に皺を寄せ、すばやくあたしから顔を背けた。そんな表情さえセクシーでドキドキしちゃう。


「……どうかもう、このようなことはお止めください、王妃陛下。畏れ多くも王妃陛下と人に言えぬ関係になるなど、俺には考えられません。俺ばかりでなく、家族も全員処刑されてしまいます。どうか、お許しを」

「うふふふふ」


 可愛い。ずっと憧れていたあの“アルヴィン様”が、あたしにこんな風に懇願するなんて。ああ、たまらないわ。

 あたしは彼に体を密着させるように縋りつき、囁いた。


「嫌よ。何のためにあたしが王妃になったと思っているの? あなたを手に入れるためなのよ、アルヴィン。……ふふ。学生の頃はあんなにすげなくあたしを振ったくせに、今じゃこの腕を振りほどくこともできないわね」

「……振りほどきますよ。本当にもう、止めてください。妙な嫌疑がかかれば、俺も家族も全てを失います」

「だぁいじょうぶだってばぁ。あなたって本当に真面目よねぇ。どうせ歴代の王妃にだって何人も愛人がいたはずよ。高貴な女には、これくらい普通のことだわ。大人しくしていればフルヴィオ様にもバレないわよ。……ね、あなたって優しくてお上品なお顔立ちをしてるのに、体はすっごくたくましいわね。こうしてくっついてると、フルヴィオ様と全然違うのが分かるわ」


 甘い声でそう囁きながら、あたしはめいっぱい背伸びをして彼の首すじに唇を押し当て、チュッと音を立てた。

 するとアルヴィンは、ついにあたしの腕を力ずくで引き剥がした。


「きゃあっ! ……痛いじゃないの! あんたに乱暴されたってフルヴィオ様に言うわよ!」


 扉の方へ向かおうとしていたアルヴィンは、その足をピタリと止めると肩を落として大きく息を吐いた。


「……どうか、もうお許しを。俺はこんなことをするために王国騎士団に入ったわけじゃない」

「あたしはこんなことをするために王妃になったの」


 そう言ってアルヴィンのそばに寄り、背後から彼の腰に手を回し、その広い背中に頬をくっつけた。


「嬉しいな。ずっとずっと憧れてたの。あなたはあたしを冷たく振ったけど、あたしは絶対にあなたを手に入れるって決めてたんだから」

「……そんなことのために……王妃に……。馬鹿げてる……」


 アルヴィンは呻くような声でそう言うと、片手で自分の顔を覆った。


「ねぇ、あなた今でもエリッサのことを好きなわけ?」

「いいえ」


 その返答の早さに、あたしは再び苛立ちを覚えた。こんなの肯定してるのと同じことだわ。腹が立って仕方ない。絶対にあたしのものにしてやるんだから。


「……フルヴィオ様は視察で来週まで王城にいないの。知ってるでしょ? 今夜来て、あたしの寝室に」

「お断りします」


 彼は間髪容れずにそう答えると、あたしの手をまた振りほどいてズカズカと歩き出し、今度こそ扉を開けた。


「何もなかった。いざとなったら証言してくれ」


 外にいるらしい他の護衛たちに声をかけているのが聞こえてくる。……ふん。ビビっちゃって。


(まぁいいわ。時間はたっぷりあるんだもの)


 学園にいる頃、エリッサの同級生の彼に何度もアプローチしてはにべもなく振られ続けていた日々を思い出す。俺が好きなのは君の姉上だけなんだ、応えられない、と。腹が立ってしょうがなくて、あたしにチヤホヤしてくれる他の男子生徒たちと際どい遊びを繰り返しては、憂さ晴らしをしてたっけ。


(絶対に屈服させてやるんだから! じゃないと、何のために王妃になったのか分からないもの)


 騎士科の彼が王国騎士団の試験に合格したと分かると、あたしは前から好意を示してきていたフルヴィオ様を落とすことに躍起になった。目論見通り彼はあたしを妃にし、あたしは彼に頼んでアルヴィンを専属護衛の一人に加えてもらった。

 ここまでは、順調そのもの。

 あとはじっくりと、彼の心を解いていけばいいわ。


 ひ弱な体格のフルヴィオ様とは全然違う、あの引き締まった筋肉に覆われたたくましい体に組み敷かれることを想像して、あたしの頬は緩んだ。







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