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43. 庭園での茶会

 クロード様と再会してから数日後。

 予定通りキャロルの主催する茶会が、王城の庭園で開かれた。

 私はリウエ王国から持ち帰ったドレスの中の一枚を身に着けた。私にしては珍しい、鮮やかな朱色が基調のものだ。金糸や銀糸で施された一風変わった柄の刺繍が、絶妙な上品さでスカートの裾や袖口に施されている。

 ジュエリーは、何とクロード様とお会いした翌日に、セルウィン公爵家からたくさん届けられた。突然現れた使者がいくつもの箱を置いて帰っていき、開けてみると中には様々な色のジュエリーが。彼の気遣いに胸が熱くなり、私は今日のドレスによく合うルビーのネックレスとイヤリングを身に着けたのだった。


「エリッサ様、ご無沙汰しておりますわ。お会いできて嬉しゅうございます」

「エリッサ様が帰国なさっていて、本日のお茶会にも参加されると聞きましたので……慌てて予定を調整いたしましたわ! お久しぶりでございます」

「エリッサ様、またぜひ異国のお話をお聞かせくださいませ」

「セルウィン公爵閣下はお変わりございませんか? 今は領地に?」


 庭園に顔を出すと、すでに集まっていた数人のご令嬢方、ご婦人方が一斉に私の周りにやって来て、口々に挨拶をしてくださる。私も笑顔で答え、話に花を咲かせながら主催者が登場するのを待った。

 それから数十分。およそ三十人ほどもいる招待客らが待ちくたびれる中、ようやくキャロルが現れた。


「あらぁ、良かったわ! 今日は誰一人欠けることなくいらしてくださったのね。ふふ。ごきげんよう皆様」


 キャロルは相変わらずの少女趣味で、様々なトーンのピンク色のレースがふんだんに施されたゴージャスなドレスを着ていた。……年齢と立場にはどうも見合っていない。今日この場に集まった女性たちの誰よりも幼く見え、威厳の欠片も感じられない。中身が外見に表れている。


「ご機嫌麗しゅう、王妃陛下。本日はお招きいただきありがとうございます」


 せめて尊重する姿勢を見せようと、私が丁寧に挨拶をすると、皆もそれに続いてくれた。

 キャロルは大層満足げな顔をしていた。


 けれど。




 茶会が始まって小一時間。キャロルはどうしても話の中心にはなれなかった。何せ話題がないのだ。知識がないから。ご婦人方から話を振られても、まともな受け答えさえできない。


「ナフティ伯爵領では、冷害に強い新種の穀物の研究が進んでいるそうでございますわね、王妃陛下」

「? 何かしら? それ。知らないわ」


「イティア王国の第二王女殿下は、セザリア王国のベリンガー公爵家ご嫡男とご婚約なさったそうですわ」

「へぇ……。外国の話でしょ? あたしたちには関係ないわよね」

 

「……。王妃陛下、いかがでございますか? お勉強の捗り具合は。お覚えになることばかりで、大変でございましょう。本日の朝は、どのような内容の教育をお受けに?」

「え? 今朝? 今朝はお茶会の準備で忙しかったから、何もしていないわよ、お勉強なんて。このドレスに決めるまでにどれだけ時間がかかったと思っているの? 素敵でしょう? このドレス。本当は別の二着で迷っていたんだけどね、先週気が変わって、大至急作らせたものなのよ。やっと昨日仕上がったわ!」


(先週から作らせた……? 信じられないわ。きっと大勢の仕立て屋やお針子が夜通し頑張ったのでしょうね……)


 誰かがキャロルに話題を振るたびに、場の空気がどんどん冷たいものに変わっていく。一瞬静まり返った時、気を遣ったご令嬢の一人が、私に声をかけてきた。


「……とても素敵でございますわ、王妃陛下。ドレスといえば、エリッサ様のお召しになっているそのドレスも、とても素敵ですわ。大人っぽくてエリッサ様の雰囲気にピッタリです。もしかして、セルウィン公爵閣下からの贈り物でしょうか」


 どうにか雰囲気を明るくしようとしているご令嬢に合わせ、私は微笑んで答えた。


「あら、ありがとうございます。こちらは先日リウエ王国で購入しましたの。クロード様からは、こちらのルビーを」

「まぁ!」

「リウエ王国の……。どうりで見かけないデザインだと思いましたの! 素敵ですわ」

「エリッサ様は流行に敏感でいらっしゃいますものね。かの王国では今そのようなドレスが主流ですの? 私も着てみたいですわ!」

「セルウィン公爵閣下はお優しいお方ですのね。迫力があって寡黙な方ですから、もっと淡々としていらっしゃるのかと。エリッサ様のことを大切にされているのですね」

「閣下とは普段どのようなことをお話しになりますの?」


 ひとたび私が話すと、皆が一斉に目を輝かせてこちらを見つめ、話が盛り上がる。そのたびに私はゆっくりと話題をスライドさせ、どうにかキャロルに話を戻す。これから彼女が具体的にどう頑張るか、どれほど必死に王妃教育に取り組み、真剣に公務に臨むかをアピールさせようとするが、いざ話を振ってみてもキャロルがまともに話せない。世界一素晴らしい王妃になる宣言をするどころか、信頼回復の足がかりさえ摑めないまま、時は過ぎていったのだった。

 キャロルはみるみる不機嫌になり、集まった女性たちはそれを気遣うこともなく、誰も彼もが私のことばかり褒めそやしていた。








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