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39. 姉妹の対面

 うんざりしながら帰国した私は、実家のタウンハウスに戻った。母がすぐさま私を出迎える。


「よかったわ! やっと戻ってくれたのねエリッサ。キャロルがとても困っているみたいなの。すぐに行ってあげてちょうだい」

「ええ、承知してますわお母様。ですからこうして帰ってまいりました。どうせ王妃教育が難しくてついていけないとか、そういうことですよね。一国の王妃ともあろう人が、いつまでも年端もいかない女の子のように甘えた気分でいてもらっては困りますわね」


 苛立ちを隠しもせずに、私は感情のまま母に答えた。

 けれども母の反応は、思っていたものとは違った。


「いいえ、王妃教育のことは別に何も書いてなかったわよ。別件じゃないかしら」

「……え?」


 思わず母の顔を見つめると、母は小首をかしげた。


「お茶会のことなどで相談がしたいとか、そういう内容みたいよ。とにかく、王妃陛下からの要請なのだから。まずは行って直接話を聞いてあげてちょうだいね」

「……お茶会……?」


 まるっきり予想もしていなかったその言葉に、私は目が点になった。どういうこと? 勉強の相談ではなくて? 誰のお茶会……?

 よく分からなかったけれど、ともかく私は自室に戻り、キャロルに登城の日時を伺う内容と、クロード様に帰国したことを伝える手紙をしたためた。




  ◇ ◇ ◇




 それから二日後の午後。王城からやって来た使者の指示に従い、私は早速城へと向かった。

 通されたのは王妃の私室。私が中へ入ると、ソファーに座ってポリポリと焼き菓子を食べていたキャロルが、あっ! と声をあげ立ち上がった。


「やっと来たわね! 待ちくたびれたわよ! フラフラと外国を遊び歩いてばかりいて、肝心な時にちっとも捕まらないんだからあんたったら! 嫌になっちゃうわまったく!」

「…………」


(帰ろうかな)


 結婚式以来数ヶ月ぶりに対面した妹は、大層豪奢なドレスを着て、たくさんの編み込みがある手のかかった髪型をし、私の姿を見てもソファーから動こうともせず目線だけをこちらに向け、そんな言葉を吐いたのだった。そして、


「座りなさいっ」


と、片手に持っていた扇で自分の向かい側のソファーを指し示した。苛立ちが一気に込み上げる。

 けれどそれをグッと押し殺し、私は渋々ソファーへと向かい腰を下ろした。後ろにいたミハはそのまま壁際に移動し、キャロルの侍女たちと同じように待機した。


「……それで? ご用件は一体何かしら? あなた、王妃教育はどうなっているの? 今頃寝る間も惜しんで勉強に取り組んでいると思っていたわ。こんなところで日中優雅にお菓子を食べている暇なんか、あなたにはないはずだけれど」


 私が低い声でそう言うと、キャロルはハンッと馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「そんな話はどうでもいいのよ。お姉様、来週末のあたしの茶会に出席して! 王城の庭園で開催するわ」


 本当にお茶会の話だったことに驚く。王妃教育の話はどうでもいいそうだ。頭が痛みはじめた。

 今すぐ立ち去りたいけれど、せっかくここまで来たのだ。姉として、せめて伝えるべきことを伝えなければ。


「……キャロル。あなたはまだお茶会なんかしている場合じゃないでしょう。分かっているの? 自分の置かれている状況が。何の教育も受けずに王家に嫁いだ女性なんて前代未聞。あり得ないのよ。あなたが今やるべきことは、死なない程度に最低限の食事と睡眠だけをとりながら、朝から晩まで死にもの狂いで勉強することよ。お茶会なんてしている暇はないの。私はこの数ヶ月、近隣諸国の重鎮や高位貴族の方々とたくさんお会いしたけれど、はっきり言って今のサリーヴ王国王家の評判は最低よ。それというのも、あなたと陛下が……」

「あー! もう止めて! うるさいうるさい! うるさーい!!」


 キャロルは私の言葉を遮り、突然自分の両耳を手でふさぐと、駄々っ子のように目を閉じて首をブンブンと左右に振りだした。衝撃のあまり、思わず固まってしまう。一国の王妃が、こんな子どものような振る舞いをするなんて。うちにいた頃と何も変わっていないではないか。

 呆気にとられる私に向かって、キャロルは目を吊り上げて訴えはじめた。


「そんなにまくし立てられなくても、よーく分かってるわよ!! 勉強ね! すればいいんでしょ!? やってるわよちゃんと!! ()()()()()()()ずっと大事なことがあるの! あたしがたまの息抜きにと思って茶会を開催しようとしても、なぜだか誰も参加してくれないのよ!! ひどいと思わない!? 王妃様が茶会をやるって言っているのよ!? それなのに、その日は都合がつかないだとか、体調を崩しているだとか、見え透いた言い訳だらけの返事が届くの。参加するっていうのは下位貴族の連中ばかり。馬鹿にしてるわ!」

「……」


 やっぱり。この国の高位貴族たちも皆、この夫婦を見限っているんだわ。






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